見出し画像

21 暗闇の中で

電気を消した暗闇の中で、今日はいろんなことがあったなぁと振り返る。
ノンケの女の人と出会って、男に絡まれて、温泉入って、恋バナして…。

あの女の人と会って、ロッカールームに連れてかれていきなりキス…。一瞬したよな。でもそのすぐ後に男が乱入してきて、引っ張り出されて叫ばれて叩かれて…。あのときはホントに終わったかと思ったな。

はあ、これが普通なのか?
楽しいこともあったけど…元の世界でも同性愛者の人はこんなに気苦労が絶えない生活だったのか?

それとも俺の場合が特別で、この歳でいきなり世界が変わってしかもまだ1ヶ月半だからなのか?

別に恋愛とかが絡まないときは全然元の世界と変わらないんだよな。だけど普通に喋ってても突然そういう話が出て来て焦る。

俺が気にしすぎなのかな。自分は同性愛者だって思い込んで、もっとナチュラルに話せればいいのかな。実際ちょっとずつ出来てきてるわけだし。この世界で異性愛者として生きようとしても絶対に無理だしな。

でも常に新しいトラップが張り巡らされてるし、今日みたいな予想外の展開もある。バレるときは一瞬かもしれない。怖いけど、そんなのどうにも出来ないだろ。

そんな終わらない考えを巡らせていると、俊がこっちに寝返りをうってきた。もう寝たんだな。

…マジで俺は俊に支えられてるよな。分からない言葉を教えてくれたり、絡まれてるときに助けてくれたり。俊がいなかったらどうなってただろ。とっくに潰れて終わってたかもしれない。

俺は、俊に嘘をついたままでいいんだろうか。本当はノンケだってカミングアウトした方がいいんじゃないだろうか。俊はこんなに俺に寄り添ってくれてるのに、俺は嘘をつき続けて距離を保ったまま。

俊なら受け入れてくれるんじゃないか。例え俺がノンケだって知っても変わらず接してくれるんじゃないか。まさか俊がそんな急に態度を変えるとは思えない。この旅行が終わったら、カミングアウトするか…?

ふとカミングアウトしようかという考えがよぎった途端、強いプレッシャーを感じた。実際にカミングアウトしている場面を想像したら、精神的不安がものすごかった。

今まで誰にも打ち明けたことのないこと。拒絶されるかもしれない。バラされるかもしれない。でも、受け入れてほしいから、言いたい。

ゴクリ。唾を飲み込む。真横で寝ている俊の寝息を聞きながら、俺は考えることをやめ、眠りについた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?