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【マネジメント連載企画①】マネジメントできないマネージャーたち~介護経営の陥穽(おとしあな)~

~はじめに~

マネジメントできないという陥穽(おとしあな)

継続の使命を果たせるか

介護経営には、落とし穴がある。それは、マネジメントできないマネージャーたちの存在である。
そんな管理者はレアケースだろうと、あなたは思うだろうか。入所・入居・通所系・複合系で年平均の稼働率が80%を割っているところや、訪問系で利用者数が減り続けているところ。年間離職率が20%を超えているところ。事故発生時に事故報告書を書かない職員が複数いるところ。たとえばこれらの事業所には、筆者の経験上、マネジメントできない管理者がいる可能性が高い。

基準が厳しいだろうか。いや、そうは思わない。事業経営においていちばん重要なことは、いうまでもなく継続性だ。創業理念の実現も、職員の雇用も、事業が続かなければどうにもならない。しかも、他の企業経営と違って、介護経営は許認可事業である。その地域で必要と認められたインフラサービスである以上、その事業継続には公的使命が上乗せされていると考えるべきだ。当然、開設にも、閉設にも、重い責任が伴う。

そう考えたとき、例にあげた稼働率や離職率の基準は、決して高くはないと思う。またその対象となる事業所も少なくないはずだ。将来にわたって、3年ごとに介護報酬が変動し、働き手が減り続けていくことはほぼ確実である。そんな不安定な見通しの中で、継続性に疑問符が付く事業所をこのままにしておくのにも限度がある。いま何か手を打つ必要があるだろう。
 

事業所である以上、成果は必要

もともと介護事業は利益が薄い。低い稼働率や利用者減はこの薄利をさらに薄くする。この業界の人材不足の深刻さは年々増している。そのうえ離職率が高くては現場がまわらない。事故防止はケアの最低限の担保だ。その報告段階に不備があるようでは質の話どころではない。
誰もがまずいと感じる運営上の不具合に、一定期間改善傾向がみられない。これは、失礼ながら管理者によるマネジメントができていない、と言わざるを得ない。

もちろん、事業経営は合わせ技だ。多くの併設型居宅介護支援事業所がそうであるように、その事業をコストセンターと位置付けている場合や、事業全体の人材育成拠点として高い人件費率を認めている場合もあるだろう。あるいは、育成中や立て直し中の事業所について、期限を切って業績不振を許容していることもあり得る。

ただ、事業所である以上、基本的にはやはり何らかの成果が必要である。組織を動かして成果をあげることをマネジメントと呼ぶならば、事業所のヒト・モノ・カネをうまく動かして事業継続に足る実績をあげることが、介護事業のマネジメントだ。それができない状態の放置は、間違いなく介護経営の落とし穴である。そしてそれは何よりも、利用者のケアを直接担う職員のマネジメントが不安定になっているという意味で、ケアの危機でもある。


なぜ「落とし穴」なのか

なぜ、「壁」や「問題」ではなく、「落とし穴」なのか。一見、落とし穴がないように見えるのに、足を乗せると穴に落ちるのが落とし穴だからだ。経営層が、彼・彼女はマネジメントができると思って管理者にするものの、実際はマネジメントができない。任命した方も、された方も、まさかそうなるとは思ってない。だから落とし穴なのである。

「壁」と認識しているのなら、乗り越え方を考えられる。「問題」だとわかっているのなら、解決法を探すだろう。だが、どうにもならないものをどうにかなると思っていては、手の打ちようがない。
経営層が「それなりの経験がある職員を管理職にすればマネジメントができるはずだ」と考えている限り、この「まさか」は続くだろう。職員が「それなりの経験があるから管理職になればマネジメントができるだろう」と考えている限り、落とし穴には落ち続けるにちがいない。

管理者になればマネジメントができるようになるというのは、幻想である。もちろん、そういうケースもないわけではないが、そんなムシのいい話はほとんどないと考えるべきだ。任命するだけでうまくいくという幻想を捨てたとき、この現実は初めて「壁」になり、「問題」になる。

まず、マネジメントできないマネージャーの存在が、介護経営の「壁」であり、「問題」であると認識する必要がある。その上で、その乗り越え方、解決法を探っていく。それが本連載のテーマだ。

~第1章へ続く~



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