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『はずれ者が進化をつくる』読んだよ

稲垣栄洋『はずれ者が進化をつくる』読みました。

最近、個人的にふたたび多様性とか、画一主義への抵抗とかに関心が出てきていまして。それっぽいテーマを扱ってそうで、ちょうどたまたまAmazon Kindleのセールで格安だったので購入した本になります。

著者の稲垣栄洋は農学の教授の方。
雑草の研究をされているそうで、本書では雑草を入り口とした「個性論」が多々展開されてるのが印象的です。

興味深かったのが「雑草を育てるのは難しい」という話。

皆さんは、雑草を育てたことがありますか? 
雑草なら庭にいくらでも生えている……と思うかもしれませんが、そうではありません。実際に、種を播いて、水をやって、育てるのです。 
雑草は勝手に生えてくるものであって、雑草を育てるなんておかしいですよね。
私は雑草の研究をしています。そのため、研究材料として雑草を育てることがあります。
雑草は放っておけば育つから、雑草を育てるのは簡単だ、と思うかもしれません。ところが、それは大間違いです。雑草を育てるのは、じつはなかなか難しいのです。

稲垣栄洋『はずれ者が進化をつくる』

雑草はそれぞれがあまりに個性的なために、芽を出す時期もバラバラだったりして、全然人間の思い通りに管理ができないのだとか。
世の中で一般的に育成用に用意されてる花とか農作物の種は、雑草と異なり、人間が育てやすいようにその特徴が管理改良されているから育てやすいわけですね。

このバラバラで管理しにくい存在である雑草に「個性の本質」が見えてきます。
つまり、何かをうまく管理しようとすればするほど個性は押しつぶされて画一的になっていってしまうという、世の中でも広く生じてそうなジレンマがあるんですね。

私は、思い通りに雑草を育てたいと思っていますし、実験をするためには、バラバラではなく、雑草に揃ってほしいと思っています。
もっとも雑草は、人間に育てられたいと思っているわけではありませんし、ましてや実験してほしいと思っているわけでもありません。
雑草はバラバラでも、困りません。バラバラだと困るのは、管理する人のほうなのです。
私たちの世界には、管理する人がいます。学校には先生がいます。会社には社長さんがいます。国には総理大臣やえらい人たちがいます。
バラバラであることに価値があるのは、誰もが認めています。しかし、バラバラでは管理するのが大変です。そのため、人間はバラバラであるものを、できるだけ揃えようとします。バラバラであってもいいけれど、あまりバラけ過ぎないように、ある程度の枠を設けます。

(中略)

こうして、「均一化」が進められ、まるで工場のように農作物が生産され、まるで工業製品のようにきれいに箱詰めされて出荷され、商品化されてきれいにお店に並べられるようになったのです。
生き物は本来バラバラです。バラバラになりたがるものを揃えることは大変なことです。しかし、人間は努力の末に「生き物を揃える」という技術を発達させてきました。それは大変な苦労です。
しかし、「揃えること」を追い求めているうちに、本来の「バラバラであること」の価値を見失っているかもしれません。

稲垣栄洋『はずれ者が進化をつくる』

非常にごもっともな指摘と思います。

となると、多様性だ、ダイバーシティだ、と言いながら、その道筋や範囲をきっちり管理しようとしてる感じの世の中の動きにはやっぱりそこはかとない矛盾を感じてしまいます。

「こういうのが多様性だよ」「こういうのが個性だよ」「あなたの個性はこれ」「この中のどの個性にする?」などとガイドするようなトップダウン方式のやり方では、それは「なんちゃってダイバーシティ」になってるだけなのでしょう。

多分、本当の「個性」や「多様性」を発揮させるには、自由にさせることと、環境そのものが多様でなきゃいけないように思われます。各個人が好きにブラウン運動的に拡散できる自由度が世の中に必要です。それでこそボトムアップ的に「雑草」が生えてくるのでしょう。

本書の中でも「オンリーワンの個性が発揮できるニッチ環境を探してそこでナンバーワンになるのだ」という面白い「オンリーワン/ナンバーワン論」が提示されていますけれど、だからこそ、環境がどこまでも画一的であってはなりません。どこまでも同じ環境が広がっているだけなら、その環境に適応した限られたナンバーワンが生き残るだけのいわゆる「弱肉強食の世界」になってしまいます。

環境が多様であってこそ、多様な個性の住み分けができて、社会が多彩に色づくことにつながるのです。そこをご丁寧に均一な土壌と温度と水量できっちり管理してしまえば、似たような作物ばかりが生える殺風景な光景になるでしょう。

だからまあ、つくづく我らが医療界の新専門医制度の画一的縦割り設計は良くないよなあと思うのですが、大変残念なことにもう既に走り始めてしまったので止めることは難しいでしょう。
人体や病気という明らかに複雑で深淵な多様な対象に挑もうという業界なのに、分かりやすく管理したいがためにわざわざ人材の育成環境を既存の枠組の範囲で均一化して個々の多様性を捨てにいってしまっている(雑草をむしり取る)わけですから、もう業界全体として医学的探求の進化は諦めたのだなあと言う他ありません。

もっとも、本書でもちゃんとフォローされてる通り、一定の管理や秩序というのも世の中では必要ではありますから、どれだけ自由に放牧するのか、どれだけ秩序だって管理するのかはまことに難しいジレンマではあるのですけれどね。
ただ、江草の好み的には世の中もうちっと「潜在的な多様性」を大事にしてほしいなあと思ってるので、本書の指摘はうんうん頷かされることが多かったです。


本書は小中生向けの少年少女に語りかけるような文体でとても読みやすいのですが、その分ちょっと啓発感が強めだったので、その説教臭さが気になる方はいるかもしれません。
しかしながら、それを差し引いても多様性の重要性を再確認する上ではとても良い本だったと思います。
いわば「植物に学ぶ多様性戦略」として、ライトに読めて学びのある本でした。


※さすがにこの番組ほどの笑い要素はないですが🤣

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