「財政赤字による借金のツケ」より「少子化による人の前借りのツケ」の方が心配
たまたま見かけたこの記事でまた出てきたので、このフレーズ、やっぱり人気だなあと。
「借金で将来世代にツケを回す」
これ、財政均衡論では定番と言える決まり文句ですね。MMT派による批判が盛んな対象でもあり、巷でよく議論が白熱してます。ぶっちゃけ江草も批判的にとらえてる方ですが、その上で「まあ一理ないわけでもない」とも思ってるという曖昧な態度だったりします。
で、この「借金が将来世代のツケになる」。それが本当かどうかはさておき、世の中この決まり文句がこうして頻繁に出てくるのですけれど、その度に「仮にそうだとしても将来世代にツケを回してるのは借金だけなのかい?」という点がむしろ個人的には気になっちゃうんですよね。
というのも、現代社会では、お金を将来世代から前借りしてるだけでなく、人間も将来世代から前借りしてるように思うんですよね。
まず、「借金が将来世代のツケになる」という考え方は、つまり「今借りたお金を将来返さないといけなくなる」という考え方に基づいてますよね。
他方、今や社会は(日本に限らず世界的に)少子化が急速に進行しています。巷では「少子化でも労働人口が少なくても回る社会にしましょう」みたいな姑息的な対処療法を訴える声も多いですけれど、最終的にはどこかで少子化を解消しないと社会は消滅するわけですから、この社会においていずれ「たくさん子どもを産み育てる」という行為で返さないといけません。
将来に回る借金の心配をするならば、これだって同様の構造で、「いずれ返さないといけない形」で人間を前借りして将来世代のツケに回してると言えますから、同じぐらい心配してしかるべきではないかと思うんですよね。
にもかかわらず「将来世代に借金のツケが——」という話ばかり聞こえてくるので、江草的には不思議でならないのです。
そもそも、「借金が将来世代のツケになる」と言うためには、将来世代が存在してないといけませんよね。ところが、少子化というのはその将来世代がどんどん減ってしまう現象なわけですから、そもそもその命題がなりたたなくなりうるわけです。
少なくとも、その「大問題」と認識されてる借金も、より少数の将来世代でその返済を負担させる方が当然より過酷になるわけですから、本気で「借金が将来世代のツケに回ること」を心配しているのであれば、やっぱり少子化こそ待ったなしの喫緊の課題として重要視しないとおかしいのではないでしょうか。
なのですけど、往々にして「借金がツケに」論の人は、経済の問題ばかり語っています。冒頭の記事も実際そうで、"今後は人口も減っていくので"と驚くほどあっさり流してます。あんまり少子化問題に注目してる感じがないんですよね。将来世代を心配してるはずなのに、こうなるのがどうにもしっくり来ない。
そもそも、そうやって、経済活動を活性化させるため、すなわち経済成長させることにばかり注目しちゃったために、少子化が進んだところがあると思うんです。だって、経済成長(GDPを増やす)には、人々が子どもを生んだり育てたりするのを後回しにして(人間を前借りして)、経済活動(仕事)をする方が有利ですから。
そうやって目先の経済成長ばかり注目しちゃうと、つい「人を前借り」してしまう構造になっちゃってるんですね。で、実際にそれをやりすぎちゃって、今や世界的な少子化です。
人間の話をしているところなのでこれはちょっと不謹慎にもなり得るのですが、分かりやすさを重視するために便宜的にあえてドライな事例で例えますけれど、これ、直近の芋の出荷量を増やしたいがばかりに勢いで種芋も全部出荷しちゃって「え、今後どうすんの?」と困り果てる、みたいなことやっちゃってるわけです。
これぞ「人を前借りして将来世代のツケに回しちゃってる」と言えましょう。
別にこれ「経済成長が悪だ」とか言ってるわけでもないんですよ。経済成長を否定せずともこの話は成り立ちますから。反資本主義的な左翼思想というわけでも全然ありません。
普通に現行資本主義経済で主流派の財政均衡論者が「財政のプライマリーバランスを維持しながら経済成長を進めるべきだ」と訴えてるように、人口均衡の観点から「少子化是正(人口プライマリーバランス維持)を前提とした上で経済成長を目指すべきではないですか」と言ってるだけです。いくら経済成長したいとしても、やみくもに人を未来から前借りし続けて経済成長を進めるような無謀な作戦はダメでしょうと。
それに、お金が大事ではないとは言いませんけれど、所詮お金はお金です。ただのモノでしかない——いえ、なんなら極論それはモノでさえない「抽象的な概念」でしかありません。それよりも、社会の礎たる人間の方が究極的には大事なんじゃないでしょうか。
だから、「借金が将来世代のツケになる」みたいなことを心配する前に、「人の前借りが将来世代なんなら現世代のツケとして回ってきてる」ことを先に心配すべきと思います。
少なくとも、そうやって将来世代の心配をしている形式の理屈を用いるのであれば、将来世代のための支出を借金で賄うことは否定しえなくなるでしょう。すなわち、将来世代を豊かに増やすための支出には財政赤字など気にせずどんどん借金していいってことになります。
というわけで、将来世代に少子化による借人のツケを回さないためにジャンジャン借金していきましょう。