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夏の日編(23歳の時の恋の思い出)1~13

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もう思い出すのも恥ずかしいけど、自分の記憶のために書き留めておきます。過去にniftyの掲示板で連載されたものです。BBS#8を覚えてる方はぜひお読みください。
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夏の日(その1)

夏の日(その1)

1984年夏、私はオフコ−スの『夏の日』という曲をとても気に入って、通勤のクルマの中でいつも聴いていた。そして、その歌詞と全く同じような恋を奇しくも体験したのだった。

きみがぼくの名前を はじめて呼んだ夏の日 ぼくはきみを愛しはじめてた
 (『夏の日』・小田和正)

      ↑(リンクをクリックすると別窓でyoutubeの画面になります。以降はその「夏の日」をBGMにしてこの物語を1~12ま

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夏の日(その2)

夏の日(その2)

 初めての方はその1からお読みください。

 その日は一日中、京都のいろんな場所をまわった。嵐山(保津川)でボ−トに乗ったし、イノダコ−ヒ−でおいしいコ−ヒ−をいただいた。Mが、

「今日は何時頃に帰るのですか?」

と訊いてきた。平日の夕方にクルマを走らせても通勤ラッシュにぶつかって時間がかかるだけである。それで私はこう答えた。

「どうせ道が混んでるから、夜遅くなってから帰るよ。それまでどこか

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夏の日(その3)

夏の日(その3)

初めてお読みになる方はその1からお読みください。

ドアの前で呆然と立ちすくむ私。

今ならドアロックを解錠する技も持っているが、そのときはなすすべがなかった。JAFに電話したが、なかなか到着せず、イライラして待った。そのときにMは、「痛くなってきたからコンタクトをはずす」と言い出す。その日のMはメガネを持ってきていなかった。コンタクトをはずせば、彼女は歩くのも危険なほど見えないと言う。
(本当だ

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夏の日(その4)

夏の日(その4)

初めてお読みになる方はその1からお読みください。

唇を離したあとで、Mは言った。

 「でもわたし、今はつき合っている人いてるから、センセイの気持ちに応えられへん。」

 「それははじめからわかってる。でも、ホンマに好きやから……」

当時、私にも実はつき合っている恋人がいたが、あまりうまく行ってなかった。

傷つけ合うような付き合い方よりも、爽やかな片想いの方がいい・・・
私がそういう決心をし

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夏の日(その5)

夏の日(その5)

初めてお読みになる方はその1からお読みください。

「始業式」というのは学校にとって一見とても大切な儀式のようだが、その多くはただ生徒が整列して、校長がおきまりの話をして、担任が宿題を集めて……と、そういう日である。クラス担任を持たなければ、ほとんど教員には仕事はない。当時の私はクラス担任を持っていなかった。

短大生M嬢に出会ってラブラブ状態になってしまった私にとって、その日はただの「休んでもと

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夏の日(その6)

夏の日(その6)

初めてお読みになる方はその1からお読みください。

 恋愛というものは、多く好きになった方が負けである。初期のユーミンの曲に「少しだけ片想い」というのがあるが、それは少しだけ負けているという意味である。そういう意味で、いつも冷静にふるまえるMと、もう完全に我を忘れて自己を見失っている私を比較すれば、完全な敗北であった。毎晩のように電話をし、時間があれば長い手紙を書き、自分の持つほとんどの時間を私は

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夏の日(その7)

夏の日(その7)

初めての方は必ずその1からお読みください。

1984年9月9日の夜は集中豪雨だった。

部屋でMへの手紙を書いていた私のところへ、突然Mからの電話があった。Kとちょっとしたトラブルがあったということで、それでMはかなり落ち込んでいた。電話の向こうで彼女は泣きだした。そして、「今すぐ、逢いに来て……」と言った。時間はもう22:00だった。私は躊躇せず、クルマを発進させた。クルマの中ではオフコースの

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夏の日(その8)

夏の日(その8)

初めての方は必ずその1からお読みください。

 

今時、AとかBという言い方で性に関する語句を表現するなんてことは田舎の高校生でも言わないだろう。ただ、文学性を重んじてストレートな表現を避ける私の趣味から、そうした書き方をすることをお許しいただきたい。A→Bとくれば、次に来るものは当然Cである。多くの人にとって、AやBというものは、それ自体で完結するものではなくCに至るための序章でしかない。もち

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夏の日(その9)

夏の日(その9)

初めての方は必ずその1からお読みください。

 信州・諏訪湖ユースホステルでその夏知り合った人たちのオフ(宴会)が大阪・千日前であった。私もMもその宴会に参加することになっていた。少し早い時間に梅田で待ち合わせた私たちは、少しデートを楽しんでから集合場所に向かうことにした。私はMを伴って、ある百貨店に出かけた。なぜそこに行きたかったかというと、その売場には、6年前、高校2年の時に愛を告白しかけた私

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夏の日(その10)

夏の日(その10)

初めての方は必ずその1からお読みください。

 ここで絶対に勝負をかけないといけない。しかし、Mのガードは固い。KISSですら抵抗するのである。どうやって結ばれる所までもっていけるのか。平和的にものごとを処理するのが好きな私は、「むりやりに襲う」という行為には持っていきたくなかった。あくまで「合意の上で」ことを行いたかった。しかし、隣に座って話をしていても、抱きしめると「やめてよ!」である。全く進

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夏の日(その11)

夏の日(その11)

初めての方は必ずその1からお読みください。

「今、梅田にいてるの。来てくれる?」

日曜日、家に居た私のところに電話があった。就職活動のためのリクル−トス−ツを買うためにMは阪急百貨店に来ていた。めずらしく私はクルマではなく電車で出かけた。私はMと待ち合わせ、買い物につき合い、それから二人で明石焼きを食べ、大丸ミュ−ジアムで絵を見て、それから暮れ行く大阪の街の灯を眺めた。京都に帰る時にMは、「京

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夏の日(その12)

夏の日(その12)

初めての方は必ずその1からお読みください。

 Mがいなくなって何ヶ月が過ぎ、自分の記憶の中ではその一ヶ月が本当にあったことなのかと不思議に思えるようになった。でも、その時間が確かに存在した証拠は、自分がMに逢う前に付き合っていた不誠実でわがままなコピーライターの恋人と別れてしまっていたという事実である。

 その彼女とはその数年後に梅田の街角で会ったことがある。そのときに私は後に結婚することとな

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夏の日(その13)

夏の日(その13)

初めての方は必ずその1からお読みください。

 

「夏の日」、全12編をお読みくださりありがとうございました。これは今から38年前の体験を、以前にniftyの掲示板に連載していたのですが、加筆修正したものです。このシリーズはこれから「緑の日々編」「君住む街編」、そして「白夜特急編」(これはnoteに掲載済み)へと続いていきます。白夜特急編はすでにお読みになった方もいらっしゃると思いますが、あの長

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