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黄昏ているんです

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黄昏ているんです

最近の記事

夜道の向こう側

いつもの時間に家に帰った。 玄関を開けて見るとリビングに横たわる同居人。近くに転がる酒の缶が多数。瓶に入った錠剤は1粒。同居人は泡を吹いて意識を失っていた。 あーあ。やられた。 一緒に手を繋いで飛び降りようね。抜け駆けはダメだよと何度も言ったのに。 とりあえず近くにあった45lの袋を持ってきた。すごく重くて1人じゃ袋に入れきらなかった。手足を身体に近づけて体育座りにしてラップで巻いた。今度は少しだけ簡単に袋に入った。 引越しの時に使った代車に乗せて車の助手席に乗せた

    • と言っても

      夏の夜は暑い。 何度暑いと言っても暑いものは暑い。 夜と言ってももう朝日は差し込んでる。世は所謂朝のようだが、私達にとっては夜である。 我が家のエアコンはずっと28度で働いている。何故なら電気料がかかるから。それ以外の理由はない。彼がいる時だけ24度で働く事となる。エアコンも24度にエアコンを向けられたら "はいはい。また男ね。"と思って働いているはずだ。 「乾杯〜!」 「もういいよ、乾杯っていうの。何本目だよ」 目に入った人、端から声を掛けて遊んでいた。自分

      • 離し

        3番線、快速電車の扉が閉まる。ホームドアが後を追ってまたきっちりと閉まった。 閉まったら、おしまい。さようならの合図だ。 もし、手を繋ぐことが出来ていたら もし、優しく抱きしめられていたら もし、未来に繋がる言葉があったのなら この扉が閉まっても寂しくなんて無かったのに 「ばいばい」 小さく呟いて手を振った。 閉ざされたら終わりだと思っていた。1度閉ざされた心は簡単には開かず、空いた距離を埋める事は難しい。そう思ってる。と言うか、そう。 でも、貴方は私に何度もおしま

        • 花が枯れたら、泣き虫

          言ってみたかった。どんな顔をするのか、試してみたかった。 きっかけは、とあるイベント。偶然いた君を見つけた。それから缶ビールを開けることになって、いい感じに酒に溺れて、そのまま。 すぐに何度も会うようになった。名前のない関係は絆を深めた。数回会っただけでまるで長い間一緒にいたような安心感と居心地。柔らかで綺麗な声、男らしい体つきに無駄に相性のいい体。体だけなんて思えないくらい優しく扱ってくれて、何一つ申し分はなし。敢えて言うなら関係に名はない。 可愛い、かっこいい、エロ

        夜道の向こう側

          0時になったら純白のウエディングドレスと身を投げて

          ふっ、と首を出したら吸い込まれそうになる。 古ぼけた小さなビジネスホテルの最上階。自室の窓から辺りを見渡すと、左右上下に柵や手すりはない。勿論隣の部屋にも。故に断崖絶壁だ。下は駐車場。両手で窓と壁を掴み、乗り出すと心臓が高鳴ってワクワクする。白い浴衣を羽織っているだけの女が、ホテルの最上階から勢いよく首を出している。人の目はどうでもいい。楽しくて笑った。 足を浮かせたまま、考える。今、久し振りに笑った。最近はマスクばっかり。故に愛想笑いをしなくても済んでいる。笑うという感情

          0時になったら純白のウエディングドレスと身を投げて

          寂しさと好きは別のもの

          お互い引き寄せられた。寂しさと好きを織り交ぜた。 まるで運命のように、足りないものを補ったように。 きっかけは友人からの紹介だった。彼は遠くの斜め後ろが座席だった。私のことを眺めていたようだった。 連絡を取り始めてからは、すぐに何時間も電話で話した。そして毎日会った。私からはあまり話さないことも、彼は上手に引き出して話を聞いてくれた。家族のこと、友人の事、好きだった人の事、バイトのこと、学校のこと、なんでも話した。私の話で彼は泣いてくれたこともあった。 彼は何年も付き

          寂しさと好きは別のもの

          迷惑だと思って間隔をあけていた連絡 何時しか思いが溢れて長文になって送られていった自分の言葉。面倒くさい文は嫌いだろうとわかっているけど小まめに執拗く送り付けるよりマシだろうと気持ちを沈ませる。 電話だったら1分で終わる話を毎日ダラダラと連絡を続けてもう4ヶ月が経つ。 細い糸のような連絡に ただしがみついている私は惨めだ。 迷惑だと思って間隔をあけていた連絡 その間に行われていく他の人との連絡 時間 絡まり 私は 何も言う資格も権利もない。ただ色んな人に優しくして

          ほう、こんな所に雑貨屋あったんだ。 駅のホームから見える可愛い雑貨屋さんを見つめる。 電車が来る。今日は晴れ。明日は雨。 それで、来た電車は急行じゃないから乗らない、と。 通り過ぎる電車を見つめ終わるとまた可愛らしい雑貨屋さんが顔を出す。 仕事終わり、本当は行く予定じゃなかったイベントに急遽行きたくなって友達の約束をずらして駆け抜けた。 でもちゃんとイベントに間に合わなかったのが自分らしい。友達よ、色々ごめん。 本当に売れてるとか給料とか順位とかどうでもよい。 なんだ

          麻痺

          「今から抜け出さない?」 そのメッセージを見た時は既に2人きりでお酒を飲んでいた。 「全然メッセージ読んでくれないからどうしようかと思った」という彼。友人達に彼は何となく嘘をついて、私と一緒に新宿駅の階段をかけ登った。飲み直したいと言われて、なんて事ない居酒屋で2人だけでお酒を交わす。不思議と緊張していなかった。これから起きる事は何となく予測できた。でも、不思議と緊張しなかった。好きじゃなかったから。 「終電無くなっちゃったね」 そんな事、想定内なのに。 居酒屋を出て2

          天井のワンダーランド

          時計は13時より少し前。 目が覚めてから天井を見つめて、少し経つ。 カーテンの隙間から差し込む光が、薄く開いた目に届いた。深く息を吐く。 その瞬間、給水を要求する空気清浄機が鳴る。 人には期待しない事にしていた。 誰かに期待して傷付いたら、安易には立ち直れない。 人を信用して裏切られて傷付いた事が何度もある。愛せば愛すほど居なくなってしまった時の心の穴が大きくなる。 それを乗り越えたらまた自分自身が強くなってしまう。 だから浅い付き合いでいよう 常に明るく振る舞おう 嫌わ

          天井のワンダーランド

          自己も語る

          幼少期の頃、自分にとって母はすごい人だった。分からない事があったら母に聞けば全て教えてくれたし 母は英語だって読めた。遅刻や提出物期限にはめっぽう厳しく、曲がった事が嫌いだった。母は真面目で強くて、私に常にストレートに向き合っていた。 これは 一人っ子の私が、尊敬するシングルマザーの母に抱いていた想いだ。私はそんな母が大好きだった。でも母が笑ってるところはあまり見たことは無かった。 今 この歳になって冷静になって考えた事がある。なので真実は不明だが、分からない事があったら

          自己も語る

          感傷的な夜に

          酒の力。は偉大だ。人間が酒というものを嗜好するという文化に拍手したい。 お酒が飲めない人だと思っていた。何となく誰かからそう聞いていたからだ。事実は噂にしか過ぎず 実際会ったら楽しくお酒を交わすことができる人だった。少しばかりの酔いに身を任せて、少し浮いた気持ちで手を繋いで帰った。 酒の力は偉大だが、心の通っていないものに心を通わせるほどの力はない。それは故意的に通わせていなかったのかもしれない。 ふと気付いた時 金木犀の香りがした。自分にとって金木犀の香りに思い出はな

          感傷的な夜に

          なぜ隣に君がいるのかはわからない。 全ては突然。いつも突然。電話が鳴ってそう時間が掛からないうちに、もう隣にいるのが君だ。 会いたいとは思っていたが 急に会えるとなるとそれは緊張するしすごく楽しみにしてしまう。そうだ、単純かつ都合のいい女だ。 前回会った時に買ってくれた青と黒のサンダル。 「黒はく〜」とルンルンに黒いサンダルを履いている彼の横で、当たり前のように青いサンダルを履いた。小雨の降る中、傘もささずに一緒にタバコを買いに行く。家には1度しか来たことがなかったの

          自殺する前夜に酒を交わした

          月が綺麗な夜だった。満月だった。 何故か今、成人になってから1度も会っていない母の隣にいた。 会わなくなってからの7年間の話。私からは一切しなかった。母の隣にいる事が、何だかとっても嬉しくて、何年も何年も積み重なっていた重い石のような感情が、深い息と共にいつの間にか無くなっていた。 母は突然お金の話をした。母は今月の家賃を払うのを辞めたという。 その分のお金で殺人業者を頼んだ。と淡々と話した。 殺したい人は 母、自分自身だった。 母は殺人業者に依頼して 今宵の1

          自殺する前夜に酒を交わした

          雑踏

          火曜日。昼の15時。駅近くにある漫画喫茶の狭い一室に閉じこもるように時を過ごす。 無造作にトートバックを漁り、透明なケースを探す。指に当たったケースをカバンから引きずり出し、色んな種類の薬が入ったそのケースを開けて消炎鎮痛剤を取り出す。紙コップに入ったメロンソーダで薬を胃の中まで流し込んだ。こんな飲み方、お母さんにバレたら怒られるな。甘ったるい液と辛さから開放される安心感で死んだ体が生き返った気がした。 ひとつため息を。悔しいほど女々しいのだが、送ったメッセージの返信が来な

          追いかけっこ

          時計の針は重なり また別々になって追いかけっこを始めた。 今夜は甘えられないので朝までお酒を飲むつもりも無いし、カーテンの隙間から光が入ってきたら、丁寧に右と左の布を合わせて明るい世界から遮断してくれる人もいない。禰豆子。と呟く君の隣には、禰豆子には到底似ても似つかない私がいた事を思い出して目を閉じる。 君の半袖から出ている、腕の温もりを感じたいが為に、私は半袖を着ていた。いつもは長袖の袖を指先まで通して布団にくるまって寝るくせに。無意識に右を向いて、腕に絡みつく。寝れな

          追いかけっこ