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0時になったら純白のウエディングドレスと身を投げて

ふっ、と首を出したら吸い込まれそうになる。

古ぼけた小さなビジネスホテルの最上階。自室の窓から辺りを見渡すと、左右上下に柵や手すりはない。勿論隣の部屋にも。故に断崖絶壁だ。下は駐車場。両手で窓と壁を掴み、乗り出すと心臓が高鳴ってワクワクする。白い浴衣を羽織っているだけの女が、ホテルの最上階から勢いよく首を出している。人の目はどうでもいい。楽しくて笑った。
足を浮かせたまま、考える。今、久し振りに笑った。最近はマスクばっかり。故に愛想笑いをしなくても済んでいる。笑うという感情が面倒だ。楽しい事も別にない。楽しもうとする気持ちもない。その代わりに表情を使わなくなったからか皮膚がたるんできた。これではまたブスと言われる。レーザーか糸で皮膚を上げなければ。真珠のついたベールを身にまとっても、時間になったらシンデレラは化けの皮が剥がれるの。

二重の線は眠そうと言われないようにする為。強そうな目は馬鹿にされない為。鼻筋は美人と言われる為。口角は笑ってなくても機嫌が良さそうに見せる為。
思い返せば人の為に自分を物理的に変えてきた。自分に少しは自信はついたが自分が自分自身についていけないのだ。嗚呼、可哀想なシンデレラ。貴女は自分の為に生きられない。王子だっていないのよ。自分自身に踊らされて息をしてるだけの屍。

昔は色んな人に愛されていた。ブスだったのに。ブスと言われた貴女はもういないのに。変わったのに、愛されないのはどうしてなの。

下に目を向けると手を広げている人がいる。

昔の自分だ。

貴女のお陰で今日が人生の門出となるよ。待っててね、私

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