麻痺

「今から抜け出さない?」


そのメッセージを見た時は既に2人きりでお酒を飲んでいた。

「全然メッセージ読んでくれないからどうしようかと思った」という彼。友人達に彼は何となく嘘をついて、私と一緒に新宿駅の階段をかけ登った。飲み直したいと言われて、なんて事ない居酒屋で2人だけでお酒を交わす。不思議と緊張していなかった。これから起きる事は何となく予測できた。でも、不思議と緊張しなかった。好きじゃなかったから。

「終電無くなっちゃったね」
そんな事、想定内なのに。
居酒屋を出て2人で歩いた。歩きながらあったコンビニで、煙草と肉まんを買った。
肉まんを半分こしながら歩道橋を歩く。「なんか高校生みたいだね」なんて笑いながら。

「俺 彼女いるんだけど 上手くいってないんだよね」「そうなんだ、別れちゃえばいいのに」「それが出来たら苦労しないんだよ」「人生1度きりなのに勿体ないよ」

他愛もない、実に他愛もなかった。
別に別れたからと言って、何か起こそうと言う気もなかった。どうでもよかった。

「桜、綺麗だね」

頭上に大きな桜の木があった。

「桜、好きなんだよね。綺麗だから。」
上を見上げた瞬間、彼が私にキスをした。
風が吹く。少し桜が散った。
彼の髪に桜の花びらがついたのに気付いたけど取らなかった。綺麗だったから。そして、好きじゃなかったから。

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