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30日間の革命 #革命編 127日

 加賀はそのまましばらく空を見上げていた。流れる雲を目で追い、時折吹く風がいつもより少し寒く感じた。

 間もなくして予鈴がなる。結局何も食べる気は起こらなかった。このまま授業をさぼろうか。そんなことが頭の中によぎる。しかし、江藤たちに更なる心配をかけてしまうことを考えるとそういう訳にもいかなかった。渋々起き上がり、屋上から教室へと戻っていく。途中、色々な生徒とすれ違ったがみんないつもと変わらない様子だった。坂本が停学になったことを自分のクラス以外はまだ知らないようだった。

 教室に戻ると、やはり空気が重かった。いつも通りに振る舞う生徒もいたが、やはりどこか顔が暗い。そしてみんな自分にも気を使っていることがわかった。いつもは気さくに話しかけてくる連中も今日ばかりは近寄っては来なかった。今は誰とも話す気が起こらないので、加賀にとってはありがたいことだった。

 間もなくして午後の授業が始まる。どの教師も坂本の停学については特に触れなかった。クラスの雰囲気は重いまま時間は過ぎていく。放課後には緊急ホームルームが開かれるが、誰もそのことについて話す人はいない。ただただ時計の針だけが回っていった。

 そして全ての授業が終わる。高橋が教室に来るまでしんとした空気が教室に流れていた。高橋が「一人ひとりがどうしたいか考えろ」と今朝言っていたが、何をどうしたいかもわからない。精神的な支柱を失った3年1組は話し合うどころか、誰も動くことすら出来ない状態になっていた。

 そして数分後、高橋が教室へと入ってくる。この重たい空気を感じたのかクラス全体を見渡し少し険しい顔に変わった。ゆっくりと教壇に立ち、改めて生徒たちの顔を見渡した。

 「えー、これから緊急のホームルームを始める。議題は今朝も話した通り、文化祭をどうするのかだ。文化祭を取り仕切ってきた坂本が不在となったから、どうやっていきたいかお前らの意見を聞きたい。……誰かこの話し合いを仕切ってくれるやつはいるか?」

 高橋はそう生徒たちに問いかけた。しかし誰一人として手をあげる者はいない。教室には重たい沈黙がのしかかる。

 「……そうか。なら俺がこのまま話し続けるぞ。ではまず坂本不在で文化祭が行えるかどうかだが、坂本の役割は何だったんだ?」

 高橋は再びクラスに問いかける。するとクラスメイトの一人が、

 「坂本さんは総指揮だったので、役者としては出演する予定はないです」

 と答えた。この学校での文化祭とは、各クラスで1つの演劇を作りそれを発表するというものだった。3年1組では『マクベス』をやることになっており、坂本はその総指揮を担当していた。

 「そうか。なら実際の演目進行には代役を立てたりする必要はないということだな?」

 高橋は答えた生徒に対して再び問いかけた。

 「……まあ、実際の演目進行には影響はありませんが……」

 答えた生徒もどこか歯切れが悪かった。確かに演目を進行していくだけなら坂本が不在であれ問題はない。しかし、総指揮官がいなければどのように動いていいのかわからない。演目上問題なくても、やはり坂本は必要なんだという気持ちはクラス全員が思っていた。

 「なら坂本の変わりに総指揮を代行してくれるやつはいるか?」

 高橋はクラスへとどんどんと問いかけていく。しかし、手をあげるものはいない。高橋はしばらく教室を見渡し、

 「……誰もいないか。ならこのまま総指揮は不在ということでいいな。なら次だが、このまま坂本不在で行うことになる文化祭について、何か意見や考えがあるやつはいるか?」

 と再び問いかける。そしてまた誰も手をあげることは出来ない。しばらく様子を見たあと、

 「これもいないか。なら特に坂本不在の影響はなさそうだな。緊急ホームルームと言ったが、ここまでする必要はなかったか。ならこれで終わりにするぞ」

 と告げ、教室を去ろうとした。その言葉にまたクラスの一人が声をあげる。

 「ちょっと先生。そんな言い方はないんじゃないですか?今朝坂本さんの停学を聞いて、みんなショックを受けてるんですよ。そんなすぐに意見なんて出ないし、代役なんて立てられる訳ないじゃないですか」

 その意見にクラス全員がうなずいた。まさにその通りで、高橋が言うほど簡単な問題じゃないと全員が不満を持っていた。その話しを聞いた高橋は再び教壇へと立った。

▼30日間の革命 第一部
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