見出し画像

30日間の革命 #毎日小説42日目

 6月に入ってから、気温は急に上昇し始めていた。日中は30度を超す日もあり、夏服に衣替えした学生たちは、既にうちわなどを持ち寄る姿も見られていた。

 加賀は翌日、いつも通り始業ギリギリの時間に登校した。少し走ったため、既に少し汗ばんでおり、自分の席につくなりさっそくカバンからうちわを取り出しあおいだ。

 「あちー。まじでこのペースで暑くなったら、いよいよ日本も四季がなくなるな」

 すると、前の席に座っていた坂本が振り返り、

 「おはよう。もう少し余裕を持って登校したらいいのに。朝はもう少し涼しいわよ」

 と涼しげな表情で加賀に話しかけてきた。

 「まじかよ。なら俺も明日から早起きしようかな」

 加賀は、ネクタイを少し緩めて、胸元へうちわで風を送った。すると、間もなく始業の鐘が鳴り、同時に担任が教室へと入ってきた。

 「はーい、チャイムなったぞ。みんな席につけ。出席とるぞ」

 担任の高橋は、いつも決まってこの台詞で教室に入ってくる。そして、加賀の出席をとるときにも必ず、

 「加賀、ネクタイちゃんとしろよ」

 と一言つけくわえてくるのであった。

 「いや、先生。さすがに今日は暑いよ。今だけ勘弁してくださいよ」

 いつもは返事だけでやり過ごす加賀も、この日ばかりは暑さに耐えらなかった。

 すると高橋は、

 「ならもっと朝早く登校してこい。朝はもう少し涼しいぞ」

 と、さっき坂本に言われたことと全く同じ言葉で返された。すると、坂本が振り返り、いたずらな笑顔だけ見せ、再び前を向いた。

 そうして、今日も一日が始まった。加賀は、この当たり前のやり取りに、これから革命を起こそうとしていることを、たまに忘れそうになっていた。

 昼休みになると、坂本と加賀は久しぶりに屋上のベンチで昼食を共にした。

 「俺さ、明日三者面談なんだよ。正直、進路どうしようかって迷ってるんだよな。最近、親にも毎日進路はどうするんだって言われるし」

 坂本は、手作りの弁当を食べながら答えた。

 「迷ってるって、何をどう迷ってるの?」

 加賀も、購買で買ったパンをかじりながら答えた。

 「いや、大学とかに進学するか、それとも就職するかで悩んでるんだよね。今までは普通に大学行こうかなって考えてたけど、革命を起こすんなら、進学は諦めた方がいいのかなとか思ったりしてさ。でも、なんか就職したいって気分でもなくてさ。そういえば、小春は進路どうするとか決めているの?」

 加賀の質問に、坂本は箸を置いて、少し間を置いてから短く答えた。

 「私は進学したいわ。大学に行って研究したいことがあるの」

 意外な答えだった。坂本の成績からして、大学を目指すこと自体は意外ではないが、革命を起こすというからには、進学を諦めているのかと加賀は思っていたからだ。

 「そうなんだ。でも、革命起こすんだろ? そしたら進学って正直難しいんじゃないの?」 

 坂本はまっすぐ加賀のことを見つめて、

 「あら、なんで?」

 と質問で返した。

 「なんでって、そりゃ革命なんて起こしたら受験どころじゃないだろ。小春だって言ってたじゃん。退学になるかもしれないってさ」

 「ええ、もちろんその可能性はあるわね。でも、仮にそうなっても高卒認定試験を受けてから大学を受験するわ」

 加賀は、坂本の返答に少し戸惑った。正直、そこまで考えているとは全く思っていなかったからだ。そして、自分は革命を理由に受験することや、進路を考えることから逃げているんじゃないかと思った。

 そして、坂本は再び穏やかな表情を見せ、こう続けた。

 「私ね、実はこの学校で革命を起こそうとしたのは1年生の時だったの。でもその時は、先輩とか他のみんなの人生を大きく狂わせてしまうじゃないかって考えて、諦めたの。普通に高校生活を送った方が、楽だし、他の人にも迷惑をかけないんじゃないかってね。でもね、どーしても、心の中で納得がいかなかったんだ。楽な道を選ぶことが正しいのか、誰かに迷惑をかけないことが正しいのかってね。だったら、大変だけど、みんなが納得するような人になってから、革命を起こそうって思ったの。こんな突拍子もない考えにも、話を聞いてもらえるような人になるって。そして、迷惑をかけないことじゃなくて、自分自身の選択に、責任を持てるようになろうって、そう思ったんだ。そうやって気づいたらもう3年生になってたんだけどね。だからこそ、どんな状況になっても、私は大学への進学を諦めないって、そう考えてるんだ」

 いつも変わらず、優等生であり続けて、誰からも慕われ、憧れられる存在でいること。そして、どんな状況であっても、表情ひとつ変えない心の強さは、まさに坂本の努力にあるんだと加賀は思った。

 「……そっか、そうだよな。逃げてちゃ何も解決しないよな」

 加賀は、自分に言い聞かせるように、小さくつぶやいた。

 そして翌日、加賀は三者面談を迎えた。


▼30日間の革命 1日目~41日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!

takuma.o

色々な実験を行い、その結果を公開していきます!もし何かしらの価値を感じていただけましたら、サポートしていただけますと幸いです!