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誰も座りたくない椅子 #毎日ネタ出し74日目

【タイトル】

誰も座りたくない椅子

【あらすじ】

私はこの春係長に昇進した。勤続年数5年目にして、ようやく私も役職に就くことが出来たのだ。妻にも報告すると、とても喜んでくれた。

部長も私の昇進を喜んでくれ、

「期待してるぞ」

と肩を叩いてくれた。

営業部の係長ということで、実務的な仕事からマネジメントも求められるようになる。私は元々上昇志向なので、ここでガンガン成績を上げて、ゆくゆくはさらなるポジションも狙っていく予定だ。

この会社では、係長から部長へと昇進した人は今の部長ただ一人。係長になってから、そこで転職してしまう人が多いのだ。でも私は違う。ここで頑張り部長に認めてもらい、いずれは私にその仕事を任せてくれるようになる。そう決意していた。

しかし、その決意は絶望へと変わるのだ。

さっそく係長としての仕事に取り掛かるのだが、私自身がこれまで担当していた顧客はそのまま私が担当することになる。そう、私自身にも売上ノルマは課せられる。マネジメントだけしていればいいというわけではなさそうだ。更にここから怒涛の引継ぎが始まる。前任の係長は転職してしまうので、有給機関も考えると一週間で全業務を引き継がなければならない。

様々な書類作成業務、部下からの日報管理や業績管理。それに加え、残業時間や有休の管理も係長の仕事らしい。うちの会社は小規模なため、人事部という専門部署はない。そのほとんどの仕事を兼務で行っていたらしい。

さらには営業部の年間売上目標の作成など、やることは多岐に渡る。私はその業務量を前にし、少し引きつってしまった。そして引継ぎをしてくれている前任の係長に、

「こ、これ全部本当にやらなきゃいけないんですか?」

前任の係長はため息をついて私にこう答えた。

「あぁそうだ。これ全部が係長の仕事だ」

「ぶ、部長は何をやってるんですか? 年間の売上目標とか社員の有給管理なんて現場を離れている部長がやるべきなんじゃないですか?」

「あぁ、俺も最初そう思って部長に言ったさ。でもあの人は動かないぞ。『検討するよ』って言われてからもう2年も経つ。……係長に昇進して息巻いているお前に言うかどうか迷ったが、忠告しておくぞ。この係長って仕事はな、部長が楽するためだけにあるんだ。俺が毎日残業してたのを知ってるよな。でも部長は毎日定時に上がるんだ。それでいて経営陣から残業のことを言われたら『あんまり残業するなよ』って声をかけてくる。そんなことを2年間、よく俺も耐えたと思う。ここ数年、係長が転職をしていくのはこれが理由だよ。……これからって時に申し訳ないが、お前も早くここに見切りつけた方がいい。今のうちから転職先でも見つけるんだな」

係長は私を哀れみの目で見てそう言い残していった。

しかし、私はそんなことで折れるわけにはいかない。なぜなら家族がいるからだ。妻も応援してくれているし、子どもだってこれからもっとお金もかかる。

部長に直談判して、業務を改善してやる。私の決意はそちらに変わった。ただ、現実はそんなに甘くはなかったのだ。

次から次へとやることが襲ってくる。引継ぎもままならないままに係長は退職してしまったので、残された資料をもとに自分で考えてやるしかない。そんな事情を知らない部下や後輩たちは次々に私に相談を持ち掛けてくる。もっと言えばお客様だったこちらの事情を考慮してくれるわけではない。部長に直談判をする時間があるなら業務に取り掛からなければならない。私は係長に就任してから、会社を出る時間が22時を回るようになってしまった。

部長はそんな私を横目に、18時には会社を出ていく。他の社員からは

「部長って仕事も早いし、定時に上がってくれるから私たちも帰りやすいよね」

なんて言われている。私も以前はそう思っていた。そして中々仕事を切り上げない係長は仕事が出来ない人だと思っていた。しかし、現実は違った。部長の仕事を係長が肩代わりしているだけだった。

こんな理不尽なこと耐えられない。

私は、自分のため、そして家族のためにも、業務を改善すべく動くことにする。絶対に部長に仕事をさせてやる。

これは私の人生をかけた奮闘劇だ。ぜひ最後まで見守ってほしい。


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