30日間の革命 #革命編 18日目
坂本に抱き寄せられた江藤は、そのまま少しだけ涙を流した。
「……正解はいつだって自分の中にあるんだと思う。だから、江藤さんの選択はいつだって間違ってないよ。だからこれからも自分の判断に自信を持って」
坂本は江藤にそう囁いた。優しくも芯のある言葉で。そして、もう少しの間、坂本は江藤を抱き寄せた。その後、江藤は涙を少しぬぐい坂本の胸から離れた。
「……まだわかんない。まだわかんないけど、今日は話せて良かったって思ってる」
江藤は短く坂本へ告げた。
「私も今日は良かったよ。それと、最後に1つだけ。セトも私も本気だから。あなたと一緒に革命を起こしたい。その気持ちは変わらないから」
「……うん」
そうして二人は別れていった。正味10分くらいの時間だったが、二人にとってはとても長く、深い時間となったーー。
翌日、加賀は朝一番で坂本のもとへと駆け寄った。
「昨日どうだった? まだ江藤ちゃんは朝練に行ってるみたいだから教えてよ」
「うーん、どうって言われてもねぇ。……内緒かな」
「へ? 内緒ってどいういうことだよ?」
「内緒は内緒よ。世の中には言えることと言えないことがあるの。特に女の子同士の場合はね」
坂本はいたずらな笑顔を浮かべてそう答えた。
「はぁー? そんなこと言われたら、ますます気になるじゃん。全部じゃなくてもいいからちょっとだけでも教えてよ。そもそも江藤ちゃんとはちゃんと話せたの?」
「うん。話せたは話せたよ。でも、こっちの意思を伝えただけ。彼女がどう判断するかは、正直分からない」
「なら、江藤ちゃんが味方につかない可能性もあるってこと?」
「もちろん。強制することは出来ないからね。でも、これで江藤さんに対して出来ることはやったと思う。あとは彼女の判断に任せるわ。だから私たちは次の行動に移りましょう」
「えー。でもこのまま馬場の味方につくって可能性もあるってことでしょ。そうなったら内情も少し知られちゃったし、まずいんじゃないのかな」
「その時はその時よ。彼女には意思は伝えてあるんだから、全力で正面衝突するまでよ」
坂本はキリっとした眼差しで加賀へと答えた。
「昨日何があったんだよ。なんか闘志に火がついてるみたいじゃん。まあ、そうなったらそうなったときか。俺も江藤ちゃんには全部気持ち伝えたし、やるしかないね」
「そうね」
坂本と加賀がそんな話をしている頃、江藤はバレー部の朝練に参加していた。
「ほら、もっと動けよ! 足止めんな!」
相変わらず、江藤の怒号が体育館に響いていた。しかし、これまでとは違う部分があった。言葉はいつもと変わらずきついが、彼女の表情には少しの笑みがこぼれていたのだった。
「今日の江藤さん、何か楽しそうじゃない?」」
後輩たちも、その様子に気づいていたが、江藤本人は無自覚のようだった。
そんなバレー部の様子を、体育館の陰から見つめる一人の姿があった。馬場である。馬場は、じーっと江藤の様子を見つめていた。
そして朝練が終わり、江藤が体育館から出ようとしたとき、馬場が話しかけた。
「お疲れ様。もう夏も終わったってのに、まだ部活に参加してんだ。凄いね」
江藤は驚いた。普段は馬場が自ら声をかけてくることなんてめったにない。それに、わざわざ体育館にまで来ていることも不思議に思った。
「ど、どうしたの? 珍しいねこんなとこまで」
「そうかな? ちょっと体育館の横を通ったら声が聞こえたから覗いてみたんだよ。相変わらず厳しんだね」
「そっか。……ごめんね何か恥ずかしいところ見られちゃったね」
「ううん、全然。そういえば、何か変わったことはない? 最近は坂本先輩とか加賀先輩も大人しいみたいだけど」
江藤は急な馬場からの質問に、ドキッとした。加賀と坂本と話したことを正直に伝えるか。それとも……。江藤は、少しだけ答えるのをためらった。
「……う、うん。特に何にもないよ。もうあいつらも諦めてるんじゃないかな」
馬場から目を逸らし、そう答えた。
「……そっか、まあそうだよね。あれだけの大敗をして、更に江藤さんもクラスにいたんじゃ、どうしようもないもんね。なら、また何かあったら教えてね」
馬場は笑顔でそう言うと、体育館を後にした。江藤は少しその場に残り、
「これで良かったんだよね。これが私の選んだ答えだ」
と拳をぎゅっと握りしめた。
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