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30日間の革命 #毎日小説96日目

 翌日、生徒会長選挙の結果が掲示にて貼りだされていた。加賀は人だかりをかきわけ、掲示版へとたどり着く。周りの生徒は加賀を見つけると、ヒソヒソ話ながら少し気まずそうに離れていった。

 有効投票数:350 無効投票数:10 総投票数:360

 坂本小春 得票数:98票

 馬場清史郎 得票数:252票

 結果は見るも無残なものだった。大差をつけての馬場の圧勝。そして、それはこの学校で始めての1年生生徒会長の誕生の瞬間でもあった。噂でしなかったが、坂本さえも成し得なかった「1年生の生徒会長」を馬場が成し遂げたことが、加賀にとっては悔しくてたまらなかった。そして、これは白の会の敗北も意味していた。

 加賀は肩を落とし、ふらふらとその場を去る。その間にすれ違う学生たちの視線が少し痛く感じた。そして向かった先は、屋上のベンチだった。無気力になり、今は誰とも顔を合わせたくない。そんな気持ちから、空いているか分からない屋上のベンチへと足を運んだ。

 屋上から更に上に続く階段の入り口の扉は空いていた。そのまま上へと向かう。その日は加賀の気持ちとは対照的に快晴だった。夏も終わりを迎えようとしているのに、太陽はそれに反抗するように大きく輝き、その存在感は圧倒的にだった。ドアを開けると、そんな太陽のまぶしさに一瞬目がくらむ。そしてゆっくり目を開けると、そこには一人の生徒の姿があった。彼女は晴れ渡る大空を見上げ、こちらに気づくといつもと変わらずニコッと笑顔を見せた。

 「……あのさ、何て言えばいいのか。こんなにもあっさり終わっちゃうんだなって感じだよ」

 加賀は言葉を絞り出した。彼女の顔をはっきりと見ることもできなかった。しかし、彼女は相変わらずの笑顔でこう答えた。

 「終わり? 何が終わったの?」

 「いや、革命とか、白の会とかさ。こんな結末を迎えるなんてね」

 「結末ねぇ。終わりは何にだって来るものよ」

 「……結構あっさりしてんだね。俺はまだそんな簡単に気持ちは切り替えられないな。本気だったからこそね」

 加賀はあまりにあっさりしている彼女の言葉に、少しだけ寂しさを感じた。そんな様子を察したのか、彼女は

 「……さっきも聞いたけど、何が終わったっていうの?」

 と再び加賀へ問いかけた。

 「だから、革命だろ! もう終わりだよ。あんな大差で馬場に負けて悔しくないのか? あんなに一生懸命頑張ったのに、馬場なんかに裏切られてこんな形で終わるなんて俺は納得いかないよ」

 加賀は思わず言葉を強くした。それだけ悔しくて、それだけ悲しかった。

 「……終わってなんかないよ。まだ終わってない」

 「もう終わったんだよ! あれだけの馬場が票を集めたってことは、それが学生たちの総意なんだよ。革命なんて必要ないってね。もう今更何もできないし、もう遅いよ……」

 「遅くないよ。遅いなんてことはないわ。それにまだ終わってないよ。私たちはまだこの高校にいる。だからこそ、まだ終わってないの」

 彼女の口調は穏やかだったが、加賀と同じく言葉には強さを感じた。

 「確かに結果は出たわ。でも、だからと言ってそれが全てじゃないと思う。これは強がりかもしれない。でも、あり得ないって決めつけて安心しちゃだめよ。いつだって描き直したっていいんだから。自分たちが思い描いた未来に辿り着けるようにやりましょう」

 ”あり得ないと決めつけて安心しちゃだめだ”という言葉が加賀にとって一番心に刺さった。

 「何かどこかの偉人の言葉みたいだね」

 「まあ、私のオリジナルじゃないんだけどね。でも、いい言葉でしょ」

 彼女のいたずらな笑顔に、加賀の気持ちは少し晴れていった。

▼30日間の革命 1日目~95日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!

takuma.o 

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