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30日間の革命 #革命編 26日目

 加賀の話を聞いた江藤は涙をこぼした。加賀は黙ってそれを見つめる。この間、二人は言葉を交わさなかったが、言葉以上のものを感じていた。江藤が何を想い涙を流したのか。なぜ加賀は何も声をかけなかったのか。言葉に出さなくても、不思議とお互いの気持ちが分かった。

 そしてしばらくそんな時間が続いた後、江藤が涙を拭ってふぅっと息をついた。

 「私ってこんな泣くんだね。自分でも意外だったよ。実はこの前坂本さんと話した時も泣いちゃったんだよね。結構弱虫なんだな、私って」

 江藤はすっかり暮れてしまった空を見上げてそうつぶやいた。そして、膝をパンとたたき、

 「よし、やるよ。私もやる。しっかりと自分のやったことに対しての責任をとる。この学校に革命を起こそう」

 と加賀に向かって話した。

 「……ありがと。俺も自分の責任を果たせるように頑張るよ」

 加賀も、江藤の目をしっかりと見て答えた。そして江藤は立ち上がり、

 「ならまずはバレー部だね。私はここから変えるよ。今までの流れをここで止める」

 と力強く宣言をした。

 「そうだね。でも、どうするつもり?」

 「うん。もうすぐ私たち3年生は引退することになる。そして、次のキャプテンを決めるんだけど、その決め方を変えるよ。今までは現キャプテンの推薦がかなり影響を与えていて、ほぼそれで決まってたんだけど、まずそのやり方を変えてみるよ」

 江藤がそう言うと、

 「そっか。そう言えばバレー部の2年に橋田って子がいたよね。ちょっと話したことがあるんだけど、案外見込みあるかもよ」

 と加賀が江藤へと話した。すると江藤は少し驚いた表情を見せた。

 「橋田が? へー意外。あいつも色々と迷ったり、悩んだりしてたみたいだからな。セトの推薦があるなら、少し楽しみにみてみるよ」

 「うん。でもどうするかはバレー部で決めてね。……さて、今日はちょっと遅くなったから、解散しますか!」

 「そうだね。坂本さんにはまた明日以降で私からちゃんと話すよ。それと手崎にも、ちゃんと私から謝るよ」

 「うん。またそれについても江藤ちゃんだけじゃなくて、俺からも声かけるよ」

 「ありがと」

 そうして二人は解散をした。

 そしてそれから数日が経った日、女子バレー部では次期キャプテンを決めるためのミーティングが行われた。江藤の言った通り、推薦だけでは決めず、立候補を募った結果、加賀が言っていた橋田がキャプテンへと決まったのだった。

 翌日からその噂は一気に学校中へと拡がった。この学校にとって、女子バレー部のキャプテンを誰が務めるかはとても大きなことである。生徒たちの間では、江藤のように厳しいことで知られる2年生の唐橋という女子生徒が有力候補として噂に上がっていたが、まさか橋田に決まるとは誰もが予想していなかった。

 江藤自ら立候補を募ったということ、そして、新キャプテンの橋田が「女子バレー部を変える」と宣言したこともあり、女子バレー部に変化が起きていることを誰もが感じていた。そして、その噂の中に「坂本」の存在も混じっていた。坂本たちが江藤と接近したことで、女子バレー部に革命が起こったという様な噂だった。これは坂本たちが意図的に流した噂ではない。色々な目撃証言もあり、自然と噂になっていたのだ。

 しかし、坂本の計画通り、再び坂本たちに脚光が当たり始める。「革命なんて起こされたら迷惑だ」というかつての風潮から、「革命が本当に起きたら、この学校はもっと凄いことになるかも」という肯定的な噂まで流れ始めていた。

 しかし噂が拡がるということは、当然生徒会の耳にも入るということだ。なので、馬場達にも既にこの噂は耳に入っていた。

 「やっぱ江藤さんは坂本さんたちに寝返ったみたいね。これからどうするの?」

 仙波が馬場へと問いかける。しかし、馬場は全く意に介していないようで、笑いながらこう答えた。

 「全然大丈夫。むしろ、盛り上がってきて嬉しいよ。やっぱ坂本先輩はこうでなくちゃ。何か前の選挙だけじゃ物足りなかったんだよね。2度も坂本先輩に勝てるチャンスがあるなんて、最高じゃん」

 「それはいいけど、江藤さんはどうするの? 一応付き合ってるんでしょ?」

 「あーうん。このまま付き合うつもりだよ。でも振られちゃうかもしんないけどね。まあどっちでも大丈夫。どう転んでも、こっちにはまだ切り札が残ってるからね。江藤さんを取られたくらいは、想定内だよ。ね?」

 「……そうね。まあ足元をすくわれないように気を付けてね」

 仙波はそう忠告して、生徒会室を後にした。

▼30日間の革命 第一部
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