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30日間の革命 #革命編 155日

 高橋は、小部屋にいた鳥越と大友の会話をドア越しに聞いていた。端から盗み聞きしようとしたわけではない。たまたま小部屋の隣を通ったときに、「坂本」という言葉が聞こえてきたので聞き耳を立てたのだった。

 高橋は一通り二人の会話を聞き終わると、一度ため息をついてから職員室を出ていった。向かった先は、屋上のベンチだった。

 「はぁ、……タバコ、やめれそうだったんだけどなぁ」

 一人そうつぶやいた後、胸ポケットに入っていた”ハイライト“を一本取り出し、ライターで火をつけた。高橋の口から白い煙が舞い上がる。空を見上げれば、うろこ雲が青空一面に広がっていた。

 「……いいじゃないか、変わらなくて。いつもと一緒。それでいいんだ。教頭と大友先生の言う通り。学校に逆らわず、大人の言うことを聞いてればいいんだよ。そしたらまたいつも通りに戻る。……それでいいんだよ……」

 誰もいない屋上のベンチに腰をかけ、一人そうつぶやく。自分自身へと言い聞かせるように。

 「……でも何でだろうな。何かイライラするんだよな。俺もとうとう焼きが回ったのかな」

 ふと笑顔になりそうつぶやいた。言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうな笑顔にも見て取れた。それからゆっくりとタバコを味わった高橋は、タバコの火を消した後、屋上から職員室へと戻っていった。タバコの残り香だけが屋上のベンチへと留まっていた。

 時刻は8時を回った。多くの学生は既に登校しており、文化祭へ向けた最後の準備を行っていた。例年ならば、本番直前であっても、どこかゆるい雰囲気が校内には漂っていたが、やはり今年はそれと異なった。どのクラスも、真剣に準備を進めている。

 しかしそれは、文化祭で賞を取りたいからといった理由でもない。革命のためにというわけでもなかった。しかし、これから何が起きるのか予想がつかない中で、学生たちはただ目の前のことに取り組むしかなかった。

 加賀や江藤がいる3年1組も同様に、準備に取り組んでいた。クラスの精神的支柱だった坂本を失い、一時どうしたらいいか分からなくなっていたが、今は目の前のことにただただ取り組む。誰も坂本のことは口にはしない。でも、坂本が掲げた「革命」というスローガンだけは皆忘れていなかった。

 そして、それから時間は経ち9時となったところで校内に放送が入った。

 「9時となったので、学生の皆さんは体育館へと移動をしてください」

 いよいよ、文化祭の幕が開く。

▼30日間の革命 第一部
まだお読みでない方は、ぜひお読みください!

▼30日間の革命 ~第二部革命編~
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