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30日間の革命 #毎日小説99日目

 学校で大きな話題を呼んだ「生徒会長選挙」から数カ月。2年生の間では、もう一つ大きな決定事が控えていた。それは、次期女子バレー部のキャプテンが間もなく決まることである。夏の大会が終わり、実質的に3年生は引退を迎えていた。あとは次期キャプテンが決まれば、それで無事に3年生の役割は終わりとなる。これも伝統なのだが、女子バレー部では、現キャプテンをはじめとして、3年生の推薦によりキャプテンが決まることが多くなっていた。そして、馬場が生徒会長に決まったため、女子バレー部の権力もそのまま残り、2年生の間では、誰がキャプテンに選ばれるかに注目が集まっていた。

 現在、女子バレー部キャプテンの最有力候補と言われているのは、唐橋由紀という女子生徒である。唐橋は中学からバレーを習っており、実力も他の部員よりも抜きんでていた。またそれ以上に、彼女も江藤をはじめとした歴代のキャプテン同様の厳しさを持っていた。強い女子バレー部を維持するためには、彼女のその厳しさやリーダーシップが必要なのではというところで、最有力候補となっていた。

 また、対抗馬として名前が挙がっていたのが、橋田加代子である。彼女は現キャプテンである江藤に近づき、何とかキャプテンになれるように奔走していた。手崎との一件で、橋田が江藤に告げ口をしたという噂が広まり、橋田の株は下がったため、それ以降は有力候補からは外れていた。しかし、その後は地道に信頼を回復し、何とか対抗馬として名前が挙がるようになっていた。ただ、それでも名前が挙がるのが精一杯で、大方唐橋で決まりだという見方が大半を占めていた。

 恐らく、唐橋がキャプテンに選ばれれば、これまで通りの恐怖政治は継続される。唐橋自身も、江藤同様に「強い権力を持った女子バレー部」の継続を望んでおり、もし自身がキャプテンになったら、今までと同様に厳しくすると公言していた。

 対する橋田は、そんな女子バレー部の歴史を変えようと思っていた。江藤に近づいたのも、手崎のことを利用したのも、全てはキャプテンになり、女子バレー部を変えるためであった。橋田自身も、かつて女子バレー部による厳しい指導を経験しており、また手崎の件も間近で見て、その想いは強くなっていた。

 そして、いよいよ女子バレー部キャプテンを決める部会が開かれた。そこには、3年生も含めた全女子バレー部員が部室へ集められた。そこにはとても重たい空気と、緊張感が流れていた。まさにこれからの学校の運命を決めると言っても過言ではない、そんな決定を今から行うからである。

 そんな空気の中、江藤は口を開いた。

 「今日、この場で次期キャプテンを決定したいと思う。で、私ら3年生で話し合った結果、唐橋が適任だという答えになった」

 部員たちはざわめいた。大方の予想通り、唐橋がキャプテンに就任することがほぼ決定的となり、唐橋自身も少し笑顔を見せていた。対する橋田はうつむき、拳を握りしめた。 

 「……ただし、これはあくまで私たち3年の意見だ。もしこの中で、キャプテンに立候補する奴がいたら、今手を挙げろ」

 江藤の発言に、再び部室には緊張感が走った。とても立候補できるような空気ではなかった。それにもしここで立候補したら、江藤たちの考えに待ったをかけることになる。ここに来て、そんなことをする人はいないと、全ての部員がそう思った。しかし、そんな空気の中、一人の手が上がった。橋田だった。彼女の上げた手は少し震えていた。その姿を見た江藤は、じっと橋田のことをにらみつけた。

 「橋田、立候補するってことでいいんだな?」

 「は、はい。私は女子バレー部のキャプテンに立候補します」

  橋田は手だけでなく、声まで震えていた。しかし、江藤やこの雰囲気にも屈せず、立候補することを表明した。

 「よし分かった。他に立候補はいないようだな。なら唐橋と橋田のどちらかにキャプテンになってもらう。お前ら二人、立って一言だけ話せ。それで多数決をとる。いいか?」

 江藤は相変わらずの口調で二人に一言ずつ話をさせることにした。

 まず立ち上がったのは唐橋。

 「私は、先輩方に推薦していただけたことを光栄に思っています。そして、その意志と伝統を継いで、強い女子バレー部を継続させます。今まで以上にしっかりと練習して、他の生徒の模範になれるような部活にしていきます」

 唐橋が話しを終えると拍手がおこった。堂々とした話ぶりには、キャプテンとしての風格を感じさせた。続いて、橋田も立ち上がった。彼女は周囲の視線から緊張し、話はじめるまでに時間がかかった。すると江藤は、

 「話がないならもう終わるぞ」

 と厳しい一言を投げかけた。その言葉に橋田は意を決して、こう叫んだ。

 「私はバレー部を変えたいです! こんな暗くて怖い雰囲気の女子バレー部は嫌です! もう指導とか言って、部員や他の学生に厳しくあたることをやめます。練習はもちろんしっかりやります。ただ、こんな悪い伝統が残っている女子バレー部を、私がキャプテンになって変えてみせます!」

 橋田は思いっきり叫んだ。もうどうなってもいいという気持ちで、胸にしまっていた気持ちをぶちまけた。部室内は、まさかの橋田の発言に沈黙に包まれた。江藤たちに反旗を翻すような発言であり、先輩たちが怒りださないか、他の部員たちは冷や冷やした。

 しかし、そんな部員たちの心配をよそに、江藤は大きく笑ってみせた。しーんとした部室内に、江藤の笑い声が響いた。

 「いいじゃん。面白いお前。よし、なら二人の話はしっかり聞いたな。これから多数決をとる。どっちの方針に従いたいか考えろ。それと、私ら3年は手を上げない。これからはお前たちの部活だ。自分たちがどうしたいかは自分たちで決めろ。こっちに気を使う必要はない。いいな」

 江藤はそう部員たちへ投げかけた。そして、女子バレー部のキャプテンを決める投票がはじまった。

▼30日間の革命 1日目~98日目
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