博報堂×note共催イベント「パーパス起点で考える デザイン経営と情報発信」イベントレポート
世の中が転換期を迎え、人びとの価値観や生活スタイルは大きく変化しました。これまでの「当たり前」が通用しない現代において、企業に期待される役割も変わり、各社がだれのためになぜ存在するのか、その存在意義が問い直されています。
そこでいま注目されているのが「デザイン経営」。企業の存在意義(パーパス)を定義し、その思いをカタチにして世の中に表現していく方法です。その輪は広がりを見せ、note上でもパーパスを起点とした法人の発信事例が生まれはじめています。
noteでは、7月9日(金)に、博報堂×note共催イベント「パーパス起点で考える デザイン経営と情報発信」を開催。これまで数多くの企業の経営改革に携わり、『これからのデザイン経営』の著者でもある株式会社HAKUHODO DESIGN 代表取締役社長 永井一史さん、パーパス起点にブランドアクションを開発する「PJMメソッド」を体系化した株式会社博報堂 藤平達之さん、note株式会社 代表取締役CEO 加藤貞顕さん、note株式会社 京樂里奈さんに、これから求められるデザイン経営と発信のあり方についてお話をうかがいました。
イベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。
登壇者紹介
永井 一史 (ながい・かずふみ)
アートディレクター/クリエイティブディレクター
株式会社HAKUHODO DESIGN代表取締役社長
多摩美術大学教授
1985年多摩美術大学美術学部卒業後、博報堂に入社。2003年、デザインによるブランディングの会社HAKUHODO DESIGNを設立。様々な企業・行政の経営改革支援や、事業、商品・サービスのブランディング、VIデザイン、プロジェクトデザインを手掛けている。
2015年から東京都「東京ブランド」クリエイティブディレクター、2015年から2017年までグッドデザイン賞審査委員長を務める。経済産業省・特許庁「産業競争力とデザインを考える研究会」委員も努めた。
クリエイター・オブ・ザ・イヤー、ADC賞グランプリ、毎日デザイン賞など国内外受賞歴多数。著書に『博報堂デザインのブランディング』『これからのデザイン経営』など。
藤平 達之(とうへい・たつゆき)
株式会社博報堂/株式会社SIX 戦略CD/UXデザイナー
神奈川県出身、1991年生まれ、2013年博報堂入社。クリエイティブカンパニー・SIXにも所属。
ブランドのパーパスと生活者/社会のインサイトを組み合わせて戦略を描き、そのブランドらしいコアアイデアを起点に、全領域でエグゼキューションを形にする。そのアプローチを「PJMメソッド」 として体系化し、ad:tech tokyo 2020への登壇など、講演・寄稿も多く実施。
サービス/プロダクト開発の経験も多く、投資サービスやXRプラットフォーム、スマートプロダクトなどを担当。60th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS「総務大臣賞/ACCグランプリ」他。
1日1食派。常においしいものを探していて、食がもたらすイノベーションとイマジネーションに惚れています。ジンとフィナンシェと炭酸水が好き。
加藤 貞顕(かとう・さだあき)
note株式会社 代表取締役CEO
アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)、『ゼロ』(堀江貴文)、『マチネの終わりに』(平野啓一郎)など話題作を多数手がける。2012年、コンテンツ配信サイト cakes(ケイクス)をリリース。2014年、メディアプラットフォーム note(ノート)をリリース。
note:https://note.com/sadaaki
Twitter : @sadaaki
京樂 里奈(きょうらく・りな)
note株式会社
流通業の研究所でマーケティング、ブランディングエージェンシーでプランナーを経て、2020年9月noteに入社。ブランドストラテジー領域ディレクターとして、法人向けのメディア事業開発を担当。
note:https://note.com/rinarium/
<モデレーター>
高越 温子(たかこし・あつこ)
note株式会社
「よりよくする」ことがデザイン
高越 まず初めに、永井さんから「デザイン経営」についてお話をうかがいたいと思います。
永井 デザイン経営とは、「デザイン」を企業価値向上のための重要な経営資源として活用する経営の方法論です。こう言うとちょっと固い言葉だと思われるかもしれませんが、2018年に経済産業省・特許庁から「デザイン経営」宣言が出されました。その問題意識としては、バブル前などの一時は、日本の産業競争力が世界からかなり注目されていたのですが、それがいまでは総体的に見てあまり力を発揮できなくなっていると。それで「デザイン」の重要性が認識されたのです。
じつはこの研究メンバーに僕自身も入っておりまして、1年ぐらい喧々諤々、いろいろディスカッションをしてこの「デザイン経営」宣言を発表しました。そうするなかでデザイン経営について関心を持ち続け、デザイン経営をテーマとした著書『これからのデザイン経営』を書くに至りました。
「デザイン思考」という言葉を聞いたことのある方も多いかと思いますが、思考のプロセスや考え方、発想の仕方もデザインだ、というように、「デザイン」というものがいま非常に広がっているんです。
加藤 「デザイン」というと、見た目とか形の話、つまりグラフィックの部分を思い浮かべる方も多いと思うんですが、そこからはだいぶ広げた考え方ですよね。
永井 そうですね。「そもそもデザインって何なんだ?」という話ですが、その目的としては、「よりよくする」ことがデザインなんだと理解してもらえると一番わかりやすいかなと思います。思想としては、まず届く先、「人から考える」というのがデザインの大きな特徴です。具体的な行動としては、考えとカタチの往復運動で、概念みたいなことをいったん形にして、それで気づいたことをまた考えに落としていく、ということがデザインの具体的な進め方です。
企業経営の文脈にあてはめると、経済性だけでなく文化性や社会性といった視点を持ちながら、創造性を大切にし、企業の持続的成長を実現していくのがデザインを活用した経営、つまりデザイン経営です。もっと具体的には、デザイン経営モデルとして定義づけているのですが、「自分たちの社会における存在意義(パーパス)を見定め、組織文化を構築し、新たな価値を創造し続けていく」ということです。
「デザイナー」を再定義する
藤平 デザイン経営に取り組もうとしたときに、やっぱりデザイナーは必須というか、真ん中にいる必要はありますか? じつはnoteこそがデザイン経営実践企業なんじゃないかと思っているんですが。
永井 デザイナーというのは、先ほどお話ししたようなマインドセットなり行動なりスキルセットを持っているひとです。そういう意味だと、デザイン経営の考え方をドライブしていくためには、デザイナーがいるとやりやすいことは間違いないです。ただ、デザイナーでなくても、デザイナー的なスキルとかマインドセットを持ったひとたちがいれば、そのひとたちが回すことも十分可能だと思います。「デザイナー」という概念自体もこれからどんどん広がっていくんじゃないかなと思っています。noteの場合は、CXOの深津さんがまさしくその役割を担っていますね。
noteが実践するデザイン経営
加藤 『CXOに深津さんを迎えてやりたいこと』という記事にも書いたんですが、深津さんにCXOとして経営側から参画していただくことで「ライフスタイルとテクノロジーとデザインの3つを統合したい」と思ったんです。ライフスタイルとテクノロジーに関してはそれまでも結構頑張ってやっていたのですが、ここに「デザイン」という軸が加わることで会社のやるべきことをはっきり世の中に打ち出せるようになるだろうと。
深津さんが会社に来て一番最初にやったことがおもしろかった。社員全員を集めて半日合宿をして、「ビジョン」「ミッション」「バリュー」を定め直すということをしたんです。当時は社員の数がまだ20人程度だったので、正直最初はあまりピンとこなかったというか、それをやる必要性を深く感じていなかったのですが、それ以降社員がどんどんふえていき、サービスも拡大していったので、あの時点でやったのがよかったんだなと思います。
いまでは全部これをベースにしてしています。バリューに基づいてミッションを目がけて行動すると、個人の仕事もうまくいき、評価をされ、そして会社もうまくいくという流れをつくる、ということをずっとやっていますね。
デザイン経営の起点となる「パーパス」とは?
高越 デザイン経営の起点となる「パーパス」について、藤平さんからお話をうかがえればと思います。
藤平 パーパスは日本語にすると「存在意義」「志」という意味になりますが、もう少し砕いていくと、「WHY?」という言い方をよくされます。「なぜnoteという会社が社会に存在してるの?」「どうやって社会をよくしていくんですか?」という部分に答えられるような姿勢や考えを示すことがパーパスだよと。
一番大事なポイントは、「それっぽくいいことを言う」のがパーパスではない、ということ。具体的に何を言うのかを定めていくことがパーパスの取り組みです。そのためには、その企業やブランドが「何を愛するプロなのか?」ということを考えるのがいいのではと思っています。企業やブランドはそれぞれの専門性があり、それによってビジネスをしていますが、その個性というのはやっぱり「何を愛しているか」ということに出るのかなと思っていて。
それは「何のテーマのリーダーなのか?」と言い換えてもいいかもしれません。自分たちが自信を持って愛しているもの、そして自分たちがリーダーだと言い切れるものを真ん中に置くと、デザイン経営の円が回りはじめるんじゃないかなと思います。
noteでの発信事例①〜freeeの場合
高越 この「パーパス」を起点とした発信事例がnote上でも少しずつ生まれてきているので、京樂さんのほうからそのご紹介をさせていただきたいと思います。
京樂 最初の事例はfreeeさんです。freeeさんはクラウド会計ソフト、とくに個人事業主にとってつかいやすいプロダクトを設計されてる会社さんなのですが、このnoteのトップページの一番上にバーンと出ている「スモールビジネスを、世界の主役に。」というのがまさにパーパスです。
freeeさんのnoteでの発信の特徴としては、社員の多くの方が個人でnoteのアカウントを運営していらっしゃって、それを公式編集部という形でまとめている点です。実際にどのようにパーパスを体現されているのかということが個人の言葉で表現されていて、組織のなかの様子やカルチャー、業務内容などが高い熱量で伝わるので、それがブランドの理解にもつながっていると思います。
また、freeeさんはnoteでハッシュタグをつかった「投稿コンテスト」もかなり早い段階から活用してくださっています。『#給付金をきっかけに』のように時流に乗せたテーマを設定することで、freeeさんのブランドパーパスというものを、noteのクリエイターが自身を通して考えるきっかけになっていると思います。
noteでの発信事例②〜イケウチオーガニックの場合
京樂 2つめの事例はイケウチオーガニックさんです。今治タオルの老舗の会社さんで、とくにタオルケットに定評があるブランドさんです。代表の池内さんの言葉「我々がつくっているのはタオルではなく、物語である」が、おそらくパーパスに準ずるものかなと。
タオルケットはあまりブランド名を意識しないものというイメージですが、note上ではイケウチオーガニックのタオルケットはすごく人気があって、それについて熱く語っている方もいらっしゃいます。これはおそらく、この「物語」を、代表の池内さんご自身が発信されているところからはじまっているのかなと思います。
イケウチオーガニックさんのnoteのトップページに固定された記事『イケウチと今治と、タオルケットの歴史』のなかで、代表の池内さんが、自社のタオルケットだけではなく、いままでのタオル産業や、タオルケットというものがどういうビジネスの位置づけだったのかということからお話しされています。この記事を読むことでタオルケットについて深く考えるきっかけになりますし、タオルケットが変わると生活がどう変わるのだろうということに対しての期待値が高まります。そのため、生活用品に気を遣っていらっしゃる方からの絶大な支持がnote上でもあるのかなと思います。
ユーザーと「共創」しながらパーパスを「可視化」する
高越 noteは博報堂さんと「new branding with note」というソリューションを開発しました。パーパスをまだ設定していなかったり、設定していてもどのように発信すればいいのか迷っている企業がnoteをはじめるさいに、パーパス的なものや、自社のなかでどんなものがとくにすてきなことなのかを探すというところから、noteに何を書くかを考え、運営をはじめるお手伝いをさせていただいています。こちらに関しては、藤平さんからご紹介いただきます。
藤平 「new branding with note」のテーマは「新しい形のブランディング」です。いままでのブランディングは割と一方向だったと思いますが、新しいブランディングは、「パーパス」を真ん中に置いて循環していくものだと思っています。このソリューションの考え方もそれを目指していて、「パーパスを可視化していく」ということをやっていきます。
具体的には、ユーザーや生活者に届けていくために、テーマを設けてクリエイターのみなさんと一緒に盛り上がる「コンテスト」と、ベースとなる「コンテンツ」の制作発信という2本柱をnote上でやっていければと思います。
noteで企業やブランドがコンテンツをつくって発信し、それがある程度たまってきたら、今度は「コンテスト」という形でテーマを設けてユーザーの方に考えていただく。そして、ユーザーの方がコンテストに投稿してくれたものを見て、また企業やブランドが発信していく、というふうにずっと循環しながら、どんどんパーパスがシャープになり、みんなのなかに届いていくということを目指しています。デザイン経営においても情報発信においても、やっぱり真ん中に1つ置かれるべき概念がパーパスかなと思いますので、そういう取り組みもご一緒できればいいなと。
▽new branding with noteに関する問い合わせはこちら
株式会社博報堂 new branding with noteプロジェクトチーム new_branding_with_note@hakuhodo.co.jp
「企業」と「生活者」の関係が変わってきている
高越 本日は「これからのデザイン経営と情報発信」というテーマでお送りしました。最後にみなさんからそれに絡めたコメントやメッセージを順番にいただきたいと思います。
京樂 「会社は個人の集合体」だなとふだんから感じていて。個人がnote上で自身の好きなことや仕事のことを発信するということの延長線上に、会社のブランディングに寄与したりということがあるのかなと思いました。企業がnote上でパーパスを発信する機会がふえたらいいなと思う一方で、「個人の力」というものもすごく感じているので、個人からでもぜひnoteをはじめていただけたらなと思います。
加藤 デザイン経営のいいところは、「自分たちの想い」と「事業の方向性」が一直線にそろいやすいから、正直に仕事ができるところかなと思います。それは僕自身すごく実感していることでもあり、今後一層勉強して実践していきたいなと改めて思いました。
藤平 デザイン経営においては、それに対する「知識」ももちろん必要ですが、それよりもそこにどれくらい「意思」を乗せられるかがすごく大事だなと思いました。デザイン経営って結構人間的な経営スタイルなのかなと僕は思っていて。個人の「好き」とか「やりたい」という気持ちを乗せやすいのかなと。僕自身もそういう仕事のやり方をしたいですし、よい形で企業やブランドのサポートができるといいなと思います。
永井 企業と社会、また、企業と生活者の関係というものがすごく変わってきていると感じました。先ほどのnoteの事例を拝見していてふと思ったのは、たぶん読者は、必ずしもその企業のプロダクトのユーザーだとは限らないんじゃないかなと。そうすると、いわゆる「顧客」や「ユーザー」の周りに、「ファン」とか「記事を楽しみにしているひと」という、いままでになかった層が生まれてきているんじゃないかなと思いました。もしかしたらそういうことが、企業のあり方とか、企業と生活者の関係性みたいなものを変えていく可能性があるんじゃないかなと。これからの発信によって、何がどのように変わっていくのかということにすごく関心が出てきました。今日は本当にありがとうございました。
▽new branding with noteに関する問い合わせはこちら
株式会社博報堂 new branding with noteプロジェクトチーム new_branding_with_note@hakuhodo.co.jp
text by 渡邊敏恵