としをかさねて
「としをかさねて」
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あるところに、兄妹の座敷童が暮らす古い蕎麦屋がありました。兄妹は店主夫婦の子どものように、懐いていて、お客さんたちからは、実の家族のように言われることも多々あります。
店主夫婦の名前は”源さん”、”灯さん”。兄妹の名前は”清”、”はな"。
今日は大晦日、今年ももう終わりです。年越し蕎麦を食べに来るお客さんが多くて、お店は繁盛しています。兄は今年、高校を卒業して蕎麦屋を継ぐために仕業中、今年は初めての大晦日で、お店の手伝いをしています。一方、妹の”はな”はお店にある掘りごたつで、茶柱の立ったお茶をすすりながら、来年のお正月用に辻占を作っています。毎年、元旦はお店は休業なので、配るのは二日からです。折り鶴の形をしていて、毎年50個くらい作っています。縁起がいいとお客さんからも評判がいいみたいです。常連のお客さんが、「はなちゃん、焼き芋買ってきたから食べな。」と言って、新聞紙に包まれた焼き芋を持ってきました。”いつも通り、独り占め”、常連さんもわかっていますが・・・。
これからが本番、兄と源さんがフル回転で、蕎麦を打っていきます。基本的に、「出前はしません」というのが基本方針ですが、それでも忙しいことに変わりはありません。はなは、掘りごたつでスルメイカを咥えながら、ぼっーとしています。本人曰く、「辻占を作ったので、今年の仕事は終わった」らしいです。
今年も、あと二時間で終わり、「ゴーン」と除夜の鐘が鳴り始めました。
お店もひと段落ついて、店じまい、せっかくなので、姉御の所に行って除夜の鐘を打とうということになりました。姉御は、町内会の会長の孫娘で高校三年生、現場のまとめ役をしています。お寺さんはお店から坂を上ったところにあって、毎年、そこでおばちゃん達が豚汁と甘酒を参拝者にふるまっています。
「ゴーン」と最後の鐘を打ち終えると、新年の花火が打ちあがりました。
この花火は隣町のカウントダウンイベントの一環で、兄と煙火店のうちの子とは高校で同じクラスです。名前は”咲夜”、夜空に咲く花というのが由来のようです。色々と、煙火店の仕事で全国をあっちこっち回っているらしいのですが、漬物が好きで、よくお土産を持ってきます。
最後の花火が終わって、少しの時間をおいて落ち着いた後、姉御がギターで弾き語りを始めました。姉御は、本名は”音子”学校でバンドをやっていて、担当はギターボーカルを担当しています。初日の出まで、みんなが退屈しないようにと思ったのでしょう。時折、ミネラルウォーターを飲みながら姉御が好きな曲を適当に歌っていきます。
時間が過ぎて、もうすぐ初日の出が昇ります。「そう言えば、甘酒1杯も飲んでなかったな・・・。」とギターを片付けながら思いました。
“はな”たちは初日の出を見終わると、初詣に出かけました。この神社は、蕎麦屋で使う井戸水と水脈が同じ湧き水が出ていて、もらってきた水を玄関に撒くのが年始めの習慣になっています。大晦日からずっと起きていたので、みんな少し眠くなり二階の自宅で仮眠をとることにしました。
しばらくして、“はな”が「うわぁー」と大声をあげて飛び起きました。
そう言えば、“はな”は冬休みの宿題まったくやっていません。正月早々、ひどい初夢でした。
執筆 img_00様
投稿 春原スカーレット柊顯
©DIGITAL butter/EUREKA project
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