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あいいろのうさぎ  短編集

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「あいいろのうさぎ」として活動している私が日々書き溜めている短編をまとめたものです。恐らく文字数は1000字程度なので、サクッと読んでいただけると思います。 巡り合ったあなたの時…
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2023年10月の記事一覧

I’ll live for you.

I’ll live for you.

I’ll live for you.あいいろのうさぎ

「おや? こんなところに子供がいるなんて珍しいな」

 そう言われてエミリーは顔を上げました。その声はそれこそ子供のものだったので、エミリーは大人ぶった口調に違和感を覚えました。ですが、見てみるとそこにはやはり少年がいるのでした。

 不思議に思っていると、少年は言葉を続けます。

「このバス停で待っていても何も来ないよ。ここが使われなくなっ

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あの日の夢

あの日の夢

あいいろのうさぎ

「私たちは夢を渡る劇団です。あなたの夜を預けてはいただけませんか?」

 その声を聴いた時には正直、全部幻覚と幻聴なんじゃないかと思った。広い公園だったはずの場所が私の見る限り遊園地になっていて、そこだけ真昼のように明るい。それだけでパニックなのに、突然、紳士が現れて先の台詞を聞かされたのだ。『訳が分からない』それが率直な感想だった。

 彼が私を落ち着かせつつ、ゆっくりと説明

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舞い上がれ、恋心

舞い上がれ、恋心

舞い上がれ、恋心あいいろのうさぎ

 結婚式への招待を断っていつも通りにやってきた公園のベンチからは、見渡す限りの芝生と遠くの遊具で子供たちがはしゃいでいる様子が見える。いつもはぼんやりとそれを眺めているけれど、今日はその手前に風船を膨らませている大人たちがいた。

 何かのキャンペーンなのであろう。風船には白色でロゴのようなものが描かれているけれど、ここからは何なのか分からない。

 日曜日の公

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ただの幼馴染

ただの幼馴染

あいいろのうさぎ

 私の幼馴染は「天才だ」と、誰もが言う。

 私にはよく分からないけれど、彼は将棋のプロになったらしく、日夜「昇段だ」「新人王だ」「名人だ」とかなんとか言われていて、気がついたらニュースに出ている。真剣に盤に向かっている姿ならまだ良いのだけど、インタビューに答えている彼の姿は私から言えば「借りてきた猫」なので、見ていてなんだか恥ずかしい。『お前、そんなキャラじゃないだろ!』と突

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また一緒に

また一緒に

また一緒にあいいろのうさぎ

 私が作られたのは今から三十年ほど前のこと。いつからこんな風に「想い」を持つようになったかはわからない。ただ、私の記憶の一番最初にあるのは、あの子の寝顔。まだ言葉を話すのも覚束ない子が、寝言で「たーた」と言っていた。てっきりそれが自分の名前なのかと思ったけれど、それはあの子が両親を呼ぶ時に使う言葉なのだと後々分かった。

 私の名前が分かったのは翌日。どうやら「なーち

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砂漠の薔薇

砂漠の薔薇

砂漠の薔薇あいいろのうさぎ

「君は酷くドライだよね。まるで砂漠みたいだ。どこを探しても花の一つだって咲いていない」

 その言葉を彼氏だった男から聞いた時は『随分と詩的な表現をするな』などと思った。それは面と向かって放たれた彼からの非難だったけれど、その時は傷つくでもなく、後の別れ話に追いすがるでもなく、『あなたが嫌なら別れましょう』と答えた私は、やっぱりドライなのかもしれない。

「いや、それ

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