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ただの幼馴染

あいいろのうさぎ

 私の幼馴染は「天才だ」と、誰もが言う。

 私にはよく分からないけれど、彼は将棋のプロになったらしく、日夜「昇段だ」「新人王だ」「名人だ」とかなんとか言われていて、気がついたらニュースに出ている。真剣に盤に向かっている姿ならまだ良いのだけど、インタビューに答えている彼の姿は私から言えば「借りてきた猫」なので、見ていてなんだか恥ずかしい。『お前、そんなキャラじゃないだろ!』と突っ込みを入れたくなるけれど、沢山の大人に囲まれて仕事をしている彼にそんなことを言えるわけもない。だから一人で勝手にモヤモヤしているのだ。

「季節だからってマロンパフェ食べちゃうような子なのになぁ」

「……何の話?」

「こっちの話。気にしない、気にしない」

 稀代の天才は今、何の変哲もない一般女子高生(つまり私)と一緒に、どこにでもあるファミレスで期間限定マロンパフェを貪っている。こいつは昔から甘味ジャンキーで「期間限定スイーツ」に目がなくて、でも一人で行くのが嫌だからって私をあっちこっち連れ回す。私は大して甘いものが好きではない。女子同士の付き合いでカフェに連れて行かれることもあるから、いっそこいつのジャンキーさを少し分けてほしいほどだ。

「パフェ、本当に一口も食べないの?」

「あんたスイーツ食べに行くたびにそれ言うけど、私が一回でも食べたことある?」

「一回はあるよ。小二の時に一口食べて甘いのに苦い顔してた」

「相変わらず記憶力良いのね……。私も覚えてないわ」

 そっか、と呟いて彼は最後の一口を口に運ぶ。……最後の一口?

「ちょっと食べるの早すぎじゃない? 味わえてるの? それ」

「うん。美味しかった。あと二つ食べる」

「は!? まさかあんた……」

「うん。昼は抜いてきた」

 さらっと言ってのける彼に「あんたバカでしょ……」と返すと、彼は少し微笑む。

「何笑ってんのよ」

「いや、僕に『バカ』なんて言うの君くらいだから」

 どこか嬉しそうにそう言ってから店員さんを呼び止めて追加のパフェを注文する。こいつは昔から私が粗雑に扱うほど喜ぶタイプだった。でもまあ、小さい頃は意味わからなかったけど、今なら分かる。

「私にとってあんたは一人で外出できない臆病者で、そのくせ友達作れないコミュ障で、甘味ジャンキーすぎるおバカさんよ」

 彼は笑いながら「言い過ぎ」と言って「でもありがとう」と続けた。

 彼の抱えるレッテルを、無意識に背負わされるプレッシャーを、理解できないほどバカではない。でもこれだけは決まっている。

 私の前で彼は、神でも天才でもない。ただの男子高校生なのだ。


あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 まるで「幼馴染」がお題かのような小説ですが、実際のお題は「将棋」でした。全然将棋っぽさを出せなかったので反省しています。でも話としては気に入っています。お楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。




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