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逆噴射小説大賞2023ピックアップ行為その一(20231102)

 十一月! それは逆噴射小説大賞が幕を閉じる季節……! 参加された皆様、そして審査をして頂くダイハードテイルズ局員の皆様、ありがとうございます! これから(たぶん)一月ぐらいかけて二次審査が行われて、最終選考はおおよそ一月か二月ぐらいになるのではと考えています。

https://diehardtales.com/n/n23ff04fae3b4

 また今回は作品数も去年に比べて数が多く、ジョン久作さん調べによると、最終日だけで七十一作も投稿……!? 途中まで読みましたが内容もハイレベルで、毎年作品のレベルが上昇してると感じられます!


 私はおかげさまでヒイヒイいいながら提出できました。ぶっちゃけ事前に四作品ぐらい作ってたんですが、いざ投稿する寸前に「そういえばいま思いついたアレ面白そうだな」となりガーッと書きました。
 後ほど、今回出せなかった作品はプラクティスとして投稿したいです(あわよくば完成もさせたい)。

 自作はこちら。

 どっちの作品も重火器や電脳世界、マフィアの抗争、美味しいアルコールが出てねェじゃねえかァ~!? というツッコミはさておいて、今回は作品ピックアップをしていきたいと思います。
 投稿作品数は300近くに上りますし、みんな粒ぞろいなので「よし! 今年やるか!」とピックアップすることにしました。2022年は? してない? そう……
 なおピックアップの線引きは独断的で、お酒飲んでから読んだ小説もあります。そのため「この作品を見逃すとはアンタの目は節穴だねえ!」というツッコミもあるかもしれませんが、ご容赦ください。


陰膳

「最初の一段落目でこんなに細かく描写していて大丈夫なのか……?」と思っていたら、だんだんとカメラアウトしていき、すごい事実が明らかになっていく作品。
 おカツばあさんという老婆の生活と細やかな描写から、だんだんと彼女が置かれている環境が明らかになっていきます。おカツばあさんが単なるサイコパスか邪神の類なのかはわかりませんが、少なくとも私には人間解体を生業にする種族のように感じました。
 そして終わり方も面白い。人間を踏みつけにする怪異が、なにかの危険を察知する――とすると、まるで怪物同士の心理戦を見ているような、『ドクター・スリープ』で悪魔的生命体と幽霊が殺し合っていましたが、あんなドキドキを思い出します。サイコパスにとって別のサイコパスはどのように見えるのか、興味深いです。

遺物混入【逆噴射小説大賞2023】


 こちらは『陰膳』とジャンルが似ているものの、若干ベクトルが異なっています。この作品はどちらかというと陽キャ寄りで、「酒飲んだしちょっと女殺ってくかー!」というどす黒い明るさを目撃することができますし、論理の変節も目撃できます。
 最初に登場するサイコパスの倫理を踏み外したロジックに対して、明らかに別世界のロジックが介入することで、犯人の世界観の限界性を知ることができます。ある意味で被害者にとっての復讐であり、読者の倫理的な感覚からすれば第三者による鉄槌に近い。
 人間版の蠱毒というか、貞子VS伽椰子の楽しさがありますね(周囲の人間がどれだけ死ぬかは不明)。この小説では、複数の倫理を踏み外した存在を目撃することができるかもしれません。続きが楽しみです。

竜のいる村

「竜がいることにしましょう」から始まる、経済小説のような巧みな語り口が魅せてくれます。八百文字という制限ながら、濃密な対話の時間を感じることができます。こういう台詞回し、キャラクターたちのやり取りを見られて面白いです。
 登場するキャラクターがタテワリのようでいて、しかしセリフも当を得たものなので、血肉が通っています。そして最後の一行でガラリと変わる作品の印象。男がいう「芝居」がどれほどの規模になるのか、どれだけの人々を巻き込んだ大騒動を作り出すのか、見ていて楽しみです。

セイント

 モグリの雀荘に現れたカンという存在、彼は自分についてぽつぽつと語りだす――
 麻雀を知らない私でも楽しんで読むことができるほど、「勝負師」に焦点が当てられた作品。いうなれば他に気を取られる存在無しに、完の人間性や振る舞いに注目できました。
 この作品は完のキャラクター性が大きく関わっている小説です。他の作品では、ストーリーやギミックがメインとなっているように思うので、あまり見かけないタイプであり、楽しく読めました。
 完はキャラクターとして揺らぎません。それどころか、麻雀の敗北者が無様な醜態を晒し、勝者である完が淡々と行動しているところに、完の人間性が補完されていくものを感じます。
 凡人である我々にとって完のような存在は憧憬であり、どのような振る舞いをするのか大変興味があります。完のような存在が身近にいる環境はそう多くはないでしょう。
 我々の好奇心を補完するように完の語りが始まりますが、彼は哲学的なことを話すようでもあり、実際的――三人を殺害した――なことも話します。彼は人間を超えた領域におり、孤独でもあります。
 剣術でも柔術でも、何かを極めすぎた人間は人間存在を超越します。おそらく完は家賃や人間関係などの浮世の悩みとは無縁になるでしょうが、代わりに誰も見たことがない世界に片足を踏み入れています。常人には想像もできない世界です。
 題目の『セイント』が何を表現しているのかも興味が尽きません。

おかみ様の遣わすもの

 二つの世界が重なり合っているものの、単に重なっているだけで、共存とか平和とかそういうものはありません。むしろ互いに食い合っているしたぶん片方滅んでも問題がないレベル。
 片方はそれなりの文明レベルを抱えていますが、もう一方はなにか古代の超文明か、未来の超文明を匂わす存在でもあります。
 この小説では序盤から二人死んでいるわけですが、殺した存在は弓矢を使っています。この弓矢は主人公にそう見えるだけで、第三者が見たら別な代物(例えば禍々しい遺物)を用いている可能性もあります。世界が重なるとはそういうもので、自分たちのルールは他者にとっては倫理を侵す物である可能性もあります。
 見ている世界が異なれば、世界の内側で見えてくるモノの形も異なってきます。こっちからは宇宙服に見えていても、向こうからこちらがどう見えているかはわかりません。そこが恐ろしいところ。
 タイトルも「おかみ様の遣わすもの」と、非常にドロドロとしたタイトルで気になってきます。

ナイス・サマー、ナイス・ホリデー、アンド、ナイス・ヴァケイション

https://note.com/iatuyakieggsand/n/n33e9fe78e5af?magazine_key=m76dcd318c7c8

「そういえばホラー小説のアンソロジーにヴァケーションってお題があったな……」と思いながら読み始めたんですが、まったくもってコメディでした!
 楽しげでコメディカルな演奏とともに広がるのは南国の景色。そこに登場する長袖長ズボンに、顔は包帯だらけの人物。これで怪しまない方が無理があります。
 案の定、好奇心が多いウェイトレスは、北欧の王子様疑惑がかけられている謎の客を調査し、正体が判明するのですが……確かに彼女の想像は半分ほど合っている。しかし、王子様のホームはチベットでした!
 チベットといえば山の奥……山国……インガオホー……それはともかく、チベットから来たイエティが南国を楽しむというのは、予想外のシチュエーションでした。夏、暑くないんですか……! 『星の王子さま ニューヨークへ行く』みたいに、他のイエティって来ないんですか!?
 そして『ヴァンパイア』シリーズのサスカッチしか知らない私にとって、イエティのスリムさに衝撃を隠せません。猫、あんた猫みたいな存在なの……!?
 今回は以上です。次回もピックアップなどしていきたいですね……! 

《終わり》






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