遺物混入 [逆噴射小説大賞2023]
女が前を歩いている。薄暗がりの中。
ケツから目が離せない。
女は選ばれた。
この先に路地がある。
路地に入れーーなんて。あ、マジだ。路地に入った。
俺も行っちゃうもんね。
ポケットにカッター。ある。刃を出しておかなくちゃ。
額の傷跡に指を這わせる。俺は俺だ。ほっとする。
足音を立てずに追いついて、こう、肩に手を乗せるじゃん。
振り向くじゃん。
そこをね。ジャっとね。
カッターで。喉だよ。ゴリッて言うまで押し込んでから切るといい。
あは!切れた。切れた。
逃げよ。逃げよ。
あ、やば。興奮して来た。キタキタこれ。
漏れちゃう。ダメダメ。今はだめ。
…俺のアゲ気分はここまでだった。
人が立っている。狸? いやババアだ。何か言ってる。
何?
「眠る木の下…目を開ける前にぺろぺろしたんか?」
やば。こいつ頭おかしい奴? 逃げよ。
向こうに男が歩いてる。
今度はそいつが選ばれた。
…いやまて男だぞ。やるの?
マジか。腐れチンポだぜ。マジか…。
●
坂本は困惑していた。
警視庁随一のクソ真面目デカこと坂本だ。
おかしい。これまで若い女ばかり狙っていた通称 “首切りジャック” が男を殺した。
男性は喉を切られ陰部も斬られていた。
近くの路地で女性の遺体も発見され、連続して二人殺したようだ。
パターンの変化。何が起きた?
考えごとをしながら歩いていると、人にぶつかってしまった。
それは背の低い老婆だった。
老婆は尻餅をついていた。
あわてて老婆の手を取り立ち上がるのを助け坂本は謝罪した。
老婆はブツブツと何か言っていた。
「眠る木の下…」
老婆は言った。
「目を開ける前にぺろぺろしたんか? 四二〇の遺物。埋めたのはお前か」
坂本は動きを止めた。
…何と言った?
ブツブツ言いながら老婆は立ち去った。
坂本はずっと動けなかった。
「あれ? 坂本さん?」
後ろから声がしたので振り向くと部下の山本が立っていた。
「今の誰っすか?」
言いながら山本は無意識に額の傷跡に触れていた。
(つづく)
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