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逆噴射ピックアップその三(20231122)

 寒さに合わせて風も出てきて……雨も降り、外出もきつくなってきました。日本列島、これはなんか家でパルプ小説を書いていなさいという指示なの!? 十二月には『ダンジョンズアンドドラゴンズ』の映画がNetflixでやるらしいので、それまでは生きていたい……! あとゴジラも観たい!
 本日もピックアップしていきたいと思います。

 ピックアップ元はこちらのマガジンになります。読もう! 逆噴射! 293本あるので(主催のダイハードテイルズさん、いつもありがとうございます!)、秋の夜長に読むにはもってこいです! しかもこの作品の本数、前回より増加しています! 

前回までのピックアップはこちらです。

第一段

第二段




優しい世界の水泳コンクール

 タイトルでググってみたら、小説の説明で生成AIが「プールに入って水の中に優しさを染み込ませている様子が描かれています。」と書いていて笑ってしまいました。この世界は「優しさ」に対する用法が人類のそれとはまるで異なるので、AIが要約するとトンチキなまとめ方をしてしまうのですね。
 そしてこの作品。開始早々、女子たちがプールに入って優しさを染み込ませている……なにかおかしいな……と感じていたら、私たちのいる世界と異質です。
 水は「優しい」し、車も「優しい」。水は人間が溺れないように空気をくれますし、車に轢かれても無傷です。優しさによって人類は生かされています。そのまま優しさに包まれて生きられるといいのですが、問題は山積みの様子。メンタルヘルスには優しくない世界。
 一つのことばかりが連続しているとだんだん物事がおかしくなっていきますが、この作品では「優しさ」にフォーカスが当てられました。
 例えば今後ガジェットが登場するとしたら、優しい軍事兵器、優しい長距離マラソン、優しい墜落事故……うーん、違和感がすごい。
 幻想ホラーとして読めそうな作品ですが、これからどう発展していくのでしょうか。「優しい」の法則性が掴めれば、SFモノ、あるいは(ちょっとなさそうだけど)能力者モノとしても書けそうですが…… 


スペース☆悪役令嬢

 逆噴射的に勢いのある作品。
 宇宙的な令嬢がいるのですが、彼女が冤罪によって罪に問われそうになります。ところが令嬢は逆転裁判的に、ミミサピエンという亜人っぽい擬態人類が自分を騙していると喝破する。しかし、ミミサピエンが上様を前にした悪代官みたいに暴れまわるので、令嬢がとっちめていく……という話。ミミサピエン! もう少し粘ったらどうだい!
 特筆すべきは、最初から悪役令嬢が「悪役」として存在しているわけではなく、銀河=大宇宙が「悪役」令嬢として規定したがっているという点。令嬢本人は善良なのに、とにかくゲームではそうなってるとか、HPバーがゼロなので死んだ扱いになるとか、そういうことで無理強いをされているところを抵抗していくのが面白い。自分の生活は自分で勝ち取る、ねじ伏せる……! という根性を感じます。
 最後は水戸黄門みたいな感じで、助さん格さん行きますわよ! というふうに始めていくところも面白い。具体的にどう戦うのかが未知数なのでなんとも判断できないのですが(そういう意味では出撃シーンのみで終わってしまっている……)、両隣のメイドも実は頼れる惑星(金星や火星)なので、宇宙を股にかけた大活躍を期待しています!
 あと、悪役令嬢なので、主人公の容姿が金髪に縦ロールでオーッホッホッホ! という見た目になんか固定されてしまったんですが、この見た目ってどこから来たのでしょうね……?

ドロップアウト・ボーイズ

 作品が殺伐としており、ヘッダーの画像がのんびりしたものなので、いっそう退廃的な印象を与えてくれる作品。青臭いホラーというか、青春時代の良かった頃を振り払えないまま大人になり、青春時代にやっていたことを無理やり続けている……という印象があります。
 登場人物は三人。「ダイちゃん」と「キーチ」と「萩本」で、ダイちゃんは昨夜の退廃的な出来事を思い返しています。そうしながら不吉な感じがじわじわと背筋を這い上がり、文体に異様な迫力を与えています。
 そして最初に起きた出来事が繰り返される。二回目はキーチが行い、これもまた既視感のある光景。二人登場していますが二人とも同じことをしているのがグロテスクでもあり天丼的な良さもある。おそらく二人は共犯関係になったわけです。新しく登場する三人目は血まみれで……あどけなさを残した残酷な作品。少年時代の無邪気さと、大人による血みどろの生活を感覚だけが行ったり来たりしながら、ひたすら破滅に向けて突っ走る。
 ある意味では悪夢と現実の間を行ったり来たりする、幻覚的なホラーというか、どう転んでも救いがない道をひたすら進んでいく感覚を覚えます。

かつて、音のなかった世界より

 小説なので一段落目は空白にしたほうが良いとか、誤字脱字があるとか、観衆たちの倫理観が終わりすぎてるとか、そういう細かいところは置いておいて、かなり力のある作品でした。
 宇宙ステーションで繰り広げられる踊り、音声器官を修復している男、声にならない声、それが最終的に「歌」という巨大な概念に吸い寄せられていくのが面白い。歌は歴史が長く、一見関係がないように見えるところでも、「歌」と繋がっている……ともいえるかもしれません。
 まるで無関係のところから、ゼロベース思考として、ゼロがイチになっていく過程が面白い。正直いって最初の喧嘩のシーンが物語にどう繋がっていくのか分かりませんでしたが、しかし「踊り」は「歌」に繋がるシークエンスの一つとして機能する産物です。観客たちが荷物を持ち去るところも、あとでパズル的に機能するかもしれません。
 なにやら新しい世界のフロンティアとして、車輪の再開発……もっとスケールを大きくして、スペースシャトルの再開発みたいに、偉大なものを復活させてほしいと思いました。しかし、そもそもなんで歌が消滅した世界なのだろう?

瀬取狩【せどり-がり】

 海やダイビング、サンゴ礁を舞台とした作品。「今回の作品はファンタジーやSF関係が多いし、探偵ものや魔法少女ものが多いなあ。鳥人間が出現する作品も多いらしい。もっと珍しくて新奇な作品が欲しいな」と思っていたので、真新しさがあり、良いと思いました。
 内容も洒落ていて、主人公のアサクラは海に沈んでいる荷物を回収する少女で、中身は違法な代物です。そして無事に荷物を回収しおえたアサクラが戻ろうとしたところ、謎の男たちに襲われてしまい……という内容。「あゝ」という単語が文学的で笑ってしまいました。
 それはともかくアサクラは解放され、変なことをされた様子もないので、受け渡し場所へ向かう……という小説です。物語の始まりを予感させながら、男たちの急襲がいまのところ、どう作用するのかわからないので、スリラー的な面白みがあります。
 しかし舞台が海辺であれば、小島とか、寒村とか、あるいは海中を舞台にした作品に展開させられたり、魚や鳥、鯨が登場するとか、他のパルプ小説では見られない色合いが見られるかもしれません。作品が続き、アサクラが何をされたかを明らかになることを期待しています。


派遣で作ろうバベルの塔

 派遣です。バベルの塔なのに派遣、これいかに。
 とか問うている間もなくどんどん人が死んでいきます。派遣社員が死んでいく他、班長、室長、ジジイが登場し、それぞれに独特なえぐみを残しながら工事(?)現場での仕事を続けます。なんでこの現場崩壊しないの?
 その会社的やり口がとてもブラック。ドロドロした人間関係にうまくいかない仕事、どうでもいいクソ仕事を押し付けられ、あえなく死亡する派遣社員たち……舞台がファンタジーなのに、現代の価値観と現代の役職が突っ込まれてかき混ぜられて、なんだか恐ろしい世界を垣間見ています。たぶんこの王国には人権概念とかパワハラとかの概念がないので、恐ろしい出来事もサッと流してしまえるのがメリットなのだと思います(働く側にとっては恐ろしい!)。
 ある意味新しい地獄。「王様」という概念だけ除けば、現代日本の厭さが露骨に顔を出します。もしかしてこの班長とか室長たちは、現代の価値観を持って転生した、異世界転生者だったりしない……?(そうすると派遣の人が犬死にになりますが)。
 死体が塔を持ち上げるというのはフィクション的ではあるものの、一度成立したら固有結界のように力を持つ表現。マジで屍山血河を実現させようとしているというか、成立したら大変なことになりますよ!

黄金ザクロ

 力のある作品だと思いました。
 これを言語化できないのが残念ですが、明らかに「しゅげんじゃ味」とでもいうようなものが、冒頭八百文字に備わっています。作者の研鑽が現れた小説です。
 弥勒の切迫感を、どこかで鳴り響くアナウンスの単調さがもり立てます。情報を圧縮し、黄金ザクロの場面以外の文章を切り詰めた文体は、映画のワンシーンさながら。アニメや映画のシーンで例えられるかもしれませんが、私は西洋絵画を思い出し、神話的な感覚を覚えました。
 そして黄金ザクロ。夢に登場するザクロは弥勒に語りかけるとともに、必ず周囲の人間を破滅させます。なぜザクロであり黄金なのか、ザクロが何なのかわからないまま、弥勒はザクロがもたらすものに恐れおののいている……唯一生き残っているのは弟だけだが、黄金ザクロの悪夢を見た日、弟から電話がかかってくる。
 黄金ザクロの中では明確に「ああこれは幻想だな」とわかります。幻想の中で、黄金ザクロは二人称で語りかけます。俺……お前……生と死……ここも神話的であり、冥界を予期させるような恐ろしさがあります。
 作品は描写を削ぎ落とした単文で構成されており、長ったらしい文章がありません。その分、一行一行をビートとして形作るパワーが強い。
 そして黄金ザクロはなぜ肉体を求めているのか……求めた先には何があるのか……おそらく作中で起きる火事によって、何が起きるかがわかりません。
 弥勒の行動は黄金ザクロを止められるのか、それとも黄金ザクロは弥勒のそうしたあがきを、「込み」で動いているのか? もはや神々と人間の対話劇のような、古代をモチーフにした作品のような印象がありました。
 目が離せない作品だと思いました。
 

おまけ

 私が今回の大賞用に制作した作品です。よろしければお目通し頂くと幸いです。

 祖父と孫がエルフに連れられてファンタジー世界(土蔵)へと赴く話。

 SF世界、いつものように一日を送ろうとした男が、黒い少女に誘われて白い少女を探しに行く話。モチーフは不思議の国のアリス?

 今回は以上です。目に止まった作品を片っ端からピックアップしているので、時間がかかりますね……! もう二~三回くらいで終わるかもしれません。
《終わり》

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