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かつて、音のなかった世界より

人類が宇宙開拓に踏み出して幾星霜、星系の片隅にある宇宙ステーションの、そのまた片隅にある小さな町にて。

二人の男が袋に入った荷物を挟んで踊りあっている。
「AH、AH、AHAHAH!」
片方の男アラダはその大柄さを生かしたダイナミックな動きを見せ。
「YA、YAYA、YA!YA!YA!」
もう片方の小柄な男アサナはしなやかさとキレを見せる。
その踊りはしばらく続いていたが…ぶつかったのか、目が合ったのかわからないが殴り合いを始め…最終的にアラダがアサナを抑え込み、殴り殺してしまった。
しかしそれを見ていた人々は…ああまたか、といいたげに去っていき、アラダあの持つを戦利品として持っていった。

この街ではありふれた、喧嘩の風景である。

その様子を人づてに聞いたアパアガであるが、それよりも今は久方ぶりに罹患した我が身を治すことが先決であった。
いや、正確に言うと病気自体は薬で治っているはずなのであるが…どうにも音声ユニットの調子がよくない。
「A"、B"A"、A"、G"A"」
自分の名ですら満足に発音できぬ有様である。
「A”、A"A""A"""、A^^^^」
むしろ悪化してすらいる。
これはいよいよ修理に赴くしかないか…と思っていたが。
「A^^^^O-----」
ふ、と。
聞いたことのない音が出た。
「O、OO、U~~~」
また別の音だ。
「A"、O、U、O-、A、O--、U~」
なんだろう。
初めて聞いた音だが嫌な感じはしない。
むしろ昔に聞いたことがあるような…。

しばらく考えたアパアガは、修理を先送りすることにした。
この新しい音をもう少し聞いていたくなってみたのだった。


それは。
かつてのそれと比べるべくもない稚拙なものであったろうが。
間違いなく「歌」と呼べるものであった。

【続く】

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