風と砂埃が 草の匂いを巻き込んでいる
正直 一年中そんな空気だ
出て行こうと思ったことは何度もある
でもその度にこの子が泣いているように思えてしまったんだ
別に 都会に憧れがあるわけではなかった
田舎が嫌だ と 漠然と思っていただけだ
こんなに家と家が離れているのに世間が狭くて
何をしても 息が詰まりそうで
もう平成も終わったのに
ここはずっとこのままなんだろうなと そう考えたら
田舎の暖かみは 泥濘のようなものでしかないと感じていた
この子に ずっと着たかった服を似せて作ってもらった服を着せていた
こんな田舎じゃ着れないと ずっと思っていた
着たっていいんだろうけど なんとなく そう思えなくて
動けなくて 憧れだけ形にしていた
部屋の隅に専用の棚を作って 椅子を置いて着せた ずっとそれだけでうれしかったけど ずっと部屋だけじゃ 寂しいかなと思って
外へ連れ出したくて 連れて行った わたしが生まれてから
少しは便利になったけど
相変わらず田んぼの広がるこの町をこの子に見せた 目が輝いているような気がして もうそれだけで ひどく感動してしまった
それから
他の季節も見せた その度に
目の奥が煌めいているような気がした わたしは
もしかすると 視る目が必要だったのかなと 思った
わたしの漠然としたこの場所への嫌悪は
きっと全てを消すことはできないと思う
それでも ここを捨て去ることは
もしかしてしなくてもいいのかなと思えて
わたしは もうすこし鋭利な自分を身に着けた
この子には もうすこしだけわたしのお願いを聴いてもらいながら
わたしは この子にできないことを
わたしとこの子のためにやろうと思った
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