一般内科でのCOPD治療では、必ずしもガイドラインに沿った治療が行なわれるとは限らない?
こんにちは。株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。
弊社の保有する電子カルテデータベース「ユカリアデータレイク」のテキストデータを用いた分析の事例として、今回は一般内科におけるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療実態を取り上げます。
呼吸器内科と違い、市中病院の一般内科では一人の医師が、呼吸器以外の疾患も含め総合的に診療にあたっています。そのため、その症例情報には
併存疾患などの状況を含め、総合的な治療を行っている
ガイドラインに沿った治療ではない治療が行われることもある
といった傾向が見られます。それでは、具体的に見ていきましょう。
【ポイント】
テキストデータから症例の全体像が見えてくる
COPD特有の呼吸機能検査・画像検査結果はテキストで記載される
患者の生活歴や喫煙歴、住環境などの情報もテキストで記載されている
経済状況が悪いCOPD患者では薬剤切り替えが行われない傾向がある
肺機能検査(FEV)は今回調査対象のCOPD患者ではほとんど実施されていない。実施回数は「COPD診断時の1回のみ」が大多数
ACOの可能性がある患者のうち約6割でICS投与が速やかに行われていない
ICSが投与された患者の半数で、好酸球検査が行われていない
①テキストデータを含めて分析することで、症例の解像度が大きく上がる
弊社では、独自の電子カルテデータベース「ユカリアデータレイク」の中に、医師所見や看護記録をはじめとした大量のテキストデータを保有しています。
それらを活用することで、例えば下記のように、COPD症例の解像度は大きく上がります。
70代男性
家族歴:兄が肺がん既往歴あり
喫煙歴:1日10本(20歳から65歳:ブリンクマン指数450)、75歳から禁煙
病歴 :2012年に肺気腫、間質性肺炎で通院開始。2012年大腸ポリープの治療開始。9月に大腸内視鏡検査で入院
2度の中断と治療再開のタイミングや理由が明確に分かる
症状と検査値の関連性を精緻に見ることができる 例)労作時息切れが続いており、その悪化と検査値の悪化に相関が見られる
他院から処方を受けている
②呼吸器疾患におけるテキストデータの重要性
2-1 検査値
以下は、電子カルテデータベース「ユカリアデータレイク」に格納されたある患者さんに関する情報の一部です。
この中で「検査値」と記載されているエリアの情報は、病院の臨床検査部門で行う血液検査や尿検査などの検体検査の値です。これらは弊社以外のさまざまな医療データベースでも保有していることが多い情報です。
一方で、以下のような呼吸器疾患特有の呼吸機能検査や胸部画像検査の結果は、医師や看護師がテキストで「医師所見」「看護記録」の欄に記載していることが多く、一般的な医療データベースには含まれていません。
呼吸機能検査
肺活量(VC)
%肺活量
努力肺活量(FVC)
1秒量(FEV1.0)
1秒率(FEV1.0%)
胸部画像検査 ※検査結果を所見としてテキストで記載
胸部X線検査:単純X線、X線透視、スパイラルCT、CT血管造影
MRI
超音波検査
核医学検査:換気血流(V/Q)シンチグラフィー、PET(陽電子放出断層撮影)
SpO2についても、上記データでみられるように、一般的には検査値ではなく主に「看護記録」に記載されています。
2-2 生活歴など
患者さんの生活歴や喫煙歴、住環境などの情報もテキストで記載されます。
呼吸器疾患の原因となる要因の情報
職業曝露 :アスベスト等の化学物質の曝露の有無 等
環境性曝露 :生活環境における大気汚染の有無 等
家族歴 :家族の間質性肺疾患の疾患の有無 等
喫煙歴 :喫煙の有無(ある場合、本数、年数)、禁煙の意向 等
呼吸器疾患の症状の情報
痰、咳、息切れ、労作時呼吸困難、チアノーゼ、ばち状指、急性増悪、呼吸不全
その他
在宅酸素療法(HOT)実施の有無
生活保護の有無
弊社データベースを活用することで、これらの情報を含めて参照し、分析の俎上に載せることができます。
③分析対象患者の属性
今回のケースでは、72名を対象に分析を行いました。
年齢は60代から80代が中心、肺気腫や急性気管支炎などの合併症を抱えた患者さんが多くなっています。
喫煙歴は、ブリンクマン指数で600以上でがんリスクの高い患者さんが約3割となっています。
治療意向に関しては、「専門の呼吸器内科への紹介を拒否する」「喫煙を止めない」などの後ろ向きな姿勢を伺わせる方が約1/4含まれています。
治療開始後に処方された薬剤の変遷については、以下のようなサンキーダイアグラムを用いて表現しました。
サンキーダイアグラムとは、ボックスとボックスを結ぶ線を用いて、データのフローと流量を同時に表現できる図で、これを用いることで、薬剤の切り替えの内容を視覚的に把握することが出来ます。
COPD治療において、3剤併用でCOPD患者の全死亡率が低下するという報告※がありますが、この図をみると、3剤併用のタイミングが後になるケースが見られています。
Lipson, D. A., Crim, C., Criner, G. J., Day, N. C., Dransfield, M. T., Halpin, D. M., ... & Martinez, F. J. (2020). Reduction in all-cause mortality with fluticasone furoate/umeclidinium/vilanterol in patients with chronic obstructive pulmonary disease. American journal of respiratory and critical care medicine, 201(12), 1508-1516.
https://www.atsjournals.org/doi/full/10.1164/rccm.201911-2207OC
④分析結果1 経済状況と薬剤切り替えの関連性
薬剤の切り替えは、全体で見ると、治療期間中に最も多い患者さんで5回行われています。
しかし、患者さんを生活保護対象か、対象でないかの2群に分けてみると、前者では薬剤の切り替えがほとんど行われていないことが分かりました。
⑤分析結果2 COPDに関連した主な検査の実施状況
SpO2は約9割の患者で測定されていました。
バイタルデータとして検査値欄ではなく看護記録に記載されていることが多く、他疾患を含む手術や生検を実施した際に多く測定されています。
入院患者では概ね10回以上測定されている場合が多いようです。
一方、FEV(肺機能検査)はCOPD患者の14%にしか実施されておらず、実施回数は「COPD診断時の1回のみ」が大多数という結果でした。
⑥分析結果3 ACO患者へのICS投与タイミング
COPDガイドライン2022では、「ACO(喘息とCOPDのオーバーラップ)の可能性ありの場合、通常は喘息の段階的治療を参考としてICSを使用し、LAMAあるいはLABAを併用することが推奨される」との指針があります。
しかし実態としては、ACOの状態にある患者(n=28)の約6割(赤色部分)では、ICS投与が速やかに行われていないという結果でした。
⑦分析結果4 ICS投与と好酸球検査実施の関連性
同じくCOPDガイドライン2022において「COPD患者における末梢血中の好酸球数はICSの有用性や増悪時の全身性ステロイド薬治療適応の予測因子となる可能性がある」という記載があります。
しかしながら、実際にはICS投与患者(n=47)の約半数で好酸球検査は実施されていないというのが実態でした。
いかがでしたでしょうか。
テキストデータを含めて分析することで、
患者の詳細な背景情報が見える
「テキスト欄にしか記載されない」COPD特有の検査結果が分かる
テキストデータから把握した情報と他の情報を掛け合わせた多用な分析が可能となる
ことがイメージいただけたでしょうか。
弊社では、他にも複数の疾患において、こういったテキストデータを併用した処方・治療実態の分析を行っております。
本記事の内容や、関連して気になられた点があれば、お気軽に以下メールアドレスまでお問合せください。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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