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呼吸器非専門医が多くを占める中小病院における 重症喘息の実態 -定量調査編-

製薬企業様向けマーケティング支援を行う株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。

患者数が多く長期管理が必要な喘息においては、地域特性により実情が大きく異なる一方、大病院ではスポットの診療記録しか残らないなど、患者さんの実態把握が困難な面がありました。

また、一部の情報はレセプトデータからも取得できますが、例えば喘息の重症度は、予後に多大な影響を与えるのにもかかわらずそれらには反映されません

弊社では独自の中小病院電子カルテデータベース「ユカリアデータレイク」から医療情報を分析する取り組みを行っています。今回は重症喘息の実態について、定量調査と定性調査の結果を2回に分けてご紹介します。

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重症喘息をめぐる現況

年代別の死亡率

厚生労働省統計では、喘息が原因の死亡者は全年齢で1995 年 7,253 人とピ ークを示しました。その後実数で5,000人~6,000人を推移したのち吸入ステロイド薬の奏功などが原因で減少し、2002年に4,000人を、2006年に3,000人を下回りました。

また同統計によると、喘息の死亡率は65歳以上で急激に上昇し、その割合も年々増えつつあります。全年齢における65歳以上の死亡率は1995年で79.4%でしたが、2000年に 84.0%となったのち、2019年には91.8%に達しました。

成人の罹患率は男女でほぼ等しい一方、喘息が原因の死亡は男性に多いことも知られています。

重症喘息の定義と治療

喘息の重症度は、症状と治療ステップを考慮して分類されます。
重症持続型の臨床像は、症状が毎日あり、夜もしばしば出現し、治療下でも増悪することがあり、日常生活が制限されるイメージです。

治療ステップは、世界的基準として毎年改定されているGINA(ジーナ:The Global Initiative for Asthma)では5段階ですが、国内では日本アレルギー学会のガイドラインに沿って通常4ステップに分けられ、ステップ4が重症持続型とされます。

同ガイドラインにおいて、重症喘息の標準治療は、気道の炎症を抑える目的の高用量吸入コルチコステロイドに、気道を広げる長時間作用型β2作動薬、さらには経口コルチコステロイド併用が推奨されます

このほか前者の目的でロイコトリエン受容体拮抗薬、後者では長時間作用性抗コリン薬、テオフィリン徐放製剤なども用いられ、これらを複数併用してもコントロールできない場合、最重症とされます。

ステップ3以上で抗IgE抗体療法、抗IL-4Rα抗体療法、抗IL-5抗体療法、抗IL-5Rα抗体療法といった抗体療法が導入されることとなり、この段階でコントロール不良の場合、専門医への紹介が推奨されています。

重症患者の不透明な実態

1.重症喘息の患者数はどのくらい?
重症喘息患者数の把握は難しいものでした。
理由の一つとして、診療報酬算定で採用されているICD10コードでは重症度が分類されておらず、レセプトデータからの推定が困難な事があげられます。
また、地域差が大きいという疾患特性も影響していると言えます。

2.呼吸器非専門医による治療実態は?
メジャーな疾患で長期管理が必要である喘息は、多くの場合、国内医療機関の大多数を占める中小病院が対応しています。

呼吸器非専門医が診療にあたることも少なくなく、また、さまざまな事情から専門医に紹介するに至らないものの、状態としてはステップ3以上の重症度にあたる患者さんもいらっしゃることが予測されます。

調査の概要と結果

集計方法(定義)

今回、弊社の中小病院電子カルテデータベース「ユカリアデータレイク」をもとに行った分析調査の概要です。

期間:2018年1月~2023年6月
対象:ユカリアデータレイクに登録された喘息患者及び重症喘息患者(※)
方法:処方薬を対象とする定量及びカルテの自由記載を対象とする定性調査
分析項目例:性別/年齢別患者数、併存疾患比較、ICS処方数、 長期管理薬処方数

※喘息患者とは、咳喘息を除いて「喘息」が含まれる病名が付記された患者を指すものとしました。また、そのうち重症喘息患者とは、ICSまたは長期管理薬(LABA/LAMA/LTRA/テオフィリン/クロモグリク酸)が配合剤を含め各1剤以上処方されている患者を指すものとしました。

結果① 患者背景

分析条件のもと、定義された喘息患者は11,472名であり、うち重症患者は2%弱にあたる226名でした。

患者数は年齢があがるにつれ増加する一方、重症者の比率については10歳以下が顕著に大きい結果となりました。また、患者の性別は70歳未満でほぼ同率でしたが70歳以上では女性が多くなりました

併存疾患(全体・年齢別)
全年齢における並存疾患の上位25位を示します。
全患者でも重症患者でも、糖尿病や便秘症といった慢性疾患のほか急性気管支炎や急性上気道炎といった呼吸器系の急性疾患が顕著にみられます。
また、アレルギー性鼻炎や不眠症が上位にあることなどからは、QOLにおける課題が推測されます。

年齢別に全患者および重症における年齢別の併存疾患を示します。
重症者の比率が顕著に大きかった10歳以下では呼吸器系の急性疾患のほか、皮膚感染症が多い特徴がみられました。

結果② 処方状況

分析対象薬剤一覧
対象とした処方薬をICS長期管理薬に分けて示します。

ICSの処方状況

フルタイド200ディスカスが最も多く、次いでパルミコート200μgタービュヘイラー、3番にはフルタイド100ディスカスとオルベスコ100μgインヘラーが同数という結果になりました。

長期管理薬の処方状況

最も処方数が多かったのはモンテルカストナトリウム10㎎となり、次いでモンテルカストOD錠10㎎という結果になりました。

今回は、中小規模の病院を主な対象とした重症喘息をめぐる定量調査の結果概要をご紹介しました。

次回の記事では、デバイス管理をはじめ、日常生活の個別性が高い課題が医療従事者にフォーカスされることが多い同疾患について、高齢による転院ニーズや長期治療における薬剤変更といった事例を基にした定性調査の内容をご紹介します。

今回ご紹介した喘息に限らず、弊社の疾患・処方に関する分析、症例分析などの事例情報・資料をご希望の方は、以下のメールアドレスまでお問合せください。

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