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電子カルテの「医師所見」から見えること

株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。
電子カルテの実症例を元にした、医師のA先生による
「MRが医師の考え方を理解するためのポイント」の解説、
第6話です。

先生の略歴を含む第1話はこちらです ↓↓↓


「医師所見」から、患者の事情や生活習慣に対応した治療選択を知る

医師のAです。今回もよろしくお願いします。

ユカリアさんの「ユカリアデータレイク」では電子カルテの「医師所見」を見ることができます。

医師所見はその患者の治療上で特に重要と考える情報を診療毎に端的にまとめたものなので、まさに医師の頭の中を理解するのに有用な資料です。

やや専門的で難しい内容も含みますが、その中でも理解しやすいものとして、患者とのやりとりに基づく医師のコメントがあります。今回はそこに着目してみましょう。

内容は例えば、患者に症状や治療、服薬についてどう説明したか、それがどう受け止められたか、患者の治療への希望は何なのか、それらを受けて、どう判断したか、といったものです。

実際の具体例を挙げてみましょう。

①40代男性患者のケース

  • 診断名は糖尿病、高血圧、高コレステロール血症

  • 複数の親族が糖尿病

  • 食事はコンビニ弁当やカップ麺などで、炭水化物が主

  • 休日にゴルフをすることもあるが、有酸素運動はしていない

初期の検査では血糖値が154、HbA1cが6.8と高く、食事と運動で血糖値を下げる方針のもと、リバロ錠2mg、メトグルコ錠500mg、ジャヌビア錠50mgが処方されます。

しかし、患者のアドヒアランスが悪く、思ったような治療成果が出ません

ある診察時での医師所見では、以下のような記載があります。


朝も夜も薬のみ忘れて、全然飲んでいない
たぶん病気の自覚が足りないんだと思う。
米大好き。夜は帰ってくるのが遅いので、麺類ばかり。体重増えた。

HbA1c 7.3→7.8
体重減らしてください。夜の炭水化物を控えるように。

次回3/26 LDL 101、 HDL 54、 LH 1.87
血糖154、A1c 7.3→7.8

S)変わりなし
薬飲めない日が多かった
夕のメトグルコほとんど飲んでいない
朝も時々忘れる

炭水化物(米・麺)が多い
22時に帰る、麺類が多い
夜の炭水化物やめてみて!


食事の時間帯と内容に具体的に言及して指導を行っていることが分かります。

その約一か月後の診療時には、次のような医師所見が記されています。


相変わらず夜に炭水化物(麺)食べている。
食事は自分で用意しているため、レンジで簡単に作れる麺類になってしまう。冷凍食品、牛丼、カップ麺ばかり。
→コンビニでサラダとサラダチキン買って食べた方が良いですよ。
合併症予防のためHbA1c下げましょう。

次回4/30 体重77.9kg 空腹時採血 DM手帳忘れ LDL 88、 HDL 39、 LH 2.26
血糖129、A1c 7.8→7.8(→)

S)インフルエンザ症状落ち着いた

体重変わりなし

夜 相変わらず麺類(炭水化物)食べてしまう
冷凍のパスタ、カップ麺、牛丼
夕食食べすぎているよう 気をつけて


HbA1cを下げることに目標を定め、そのための具体的な食事内容の変更指示を行っています。

その更に1か月後の診察の医師所見では、


LDL 77、 HDL 49、 LH 1.57
血糖181、A1c 7.4→7.2(↓)

夕食にサラダ食べるようにしていたが、最近は食べようと思うだけで食べていない。
カップ麺は控えている。

薬飲み忘れるので、食後ではなく食前でも良いですか?
全部食前にしておきます

メトグルコは60Tくらい残ってる。
→1ヶ月分あるようなので今日は処方しません。


飲み忘れがあまりに多く、特に夕食後は食後にすぐに寝てしまうという患者の話を受けて、服薬タイミングを全て食後から食前に変更しています。

②60代男性患者のケース

  • 診断名は心房細動、うっ血性心不全、閉塞性肺気腫、狭心症など

  • 呼吸苦増強あり救急搬送にて入院

入院時の医師所見は以下の通りです。


奥様とそのお姉さん(=義理のお姉さん)へ説明。

現時点での最も可能性が大きいと思われるのは高血圧性心不全という状態です。それにより肺うっ血が生じたため呼吸困難になったと思われます。それに対して利尿剤を使用したところ入院時に比較して症状は改善傾向です。

今後心保護の薬や塞栓症の予防薬などを内服していきます。しかしながら心不全ということは心機能が破綻した状態を意味しますから、今後危険値不整脈による急変の可能性を否定できません。その際、当院には集中治療室がないため転院搬送になる可能性もあります。」→了承いただいた。

 レントゲン上は明らかな肺炎像なし。肺血管影増強あり。一部陳旧性炎症性変化および軽度の気腫性変化疑いあり。心陰影拡大あり。うっ血性心不全疑いにて入院加療へ。心電図では心房細動一部ST-T変化あり循環器医師に診療お願いする。心エコー予約した。

呼吸苦にて来院 2年前より息切れ症状あり(そのため禁煙)。昨年末より呼吸苦増悪傾向。2階に上がるのも苦しいときあり。本日朝4時頃より呼吸苦強くなり救急要請 ~中略~

ここ最近、家族に「顔がむくんでいる」といわれた。仕事を休んで安静にしていたときには症状の改善が得られたが、仕事を始めるとまたすぐに苦しくなった。心電図ではafが認められるがそれほど頻脈ではない。しかし高電位あり、また既往に高血圧もある。今回のエピソードは高血圧性心不全と考えるのが最も妥当と思われる。


その後の治療において処方の変更や追加が行われるタイミングで、
患者からはたびたび「薬の金額が高くなってしまうと困る・・・」
という訴え
がなされるようになります。

それに対して医師は、患者の希望も汲みながら柔軟な対応をしていることが分かります。


リバロ増量について説明。了承されるも「金額が高くなってしまう・・・」と。本人と相談し、「リバロ増量、フェブリク中止で次回採血チェックを行う。」こととした。



スピリーバは一旦やめているが大丈夫と。(なるべく薬は減らしたい・・薬代が高くて、と


このように、患者は医師の計画通りに治療・服薬に応じてくれるとは限りません。
そのため、医師は患者の生活習慣やアドヒアランスに合わせて、服薬のタイミングや種類を柔軟に変更していくこともあります。

処方選択は、必ずしも標準的な経過の通りにはいかない場合が多々あることを、MRさんは理解しておいてください。

今回のお話は以上です。ありがとうございました。

第7話へ続く・・・


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