音楽家の旅行記 弘前・白神山地編 Part3 -温泉〜訛り〜酒-
温泉
温泉に向かう前に宿の掲示に熊のBBQという見慣れない写真が目に飛び込んできた。事前注文により夕食時に熊を味わうことができるという。ヨーロッパ滞在時に現地のスーパーで手に入った、ウサギや鹿やダチョウ、カモ、そんな日本では手に入りにくい肉は色々買って調理して頂いた経験はあるが熊はいまだに食べたことがなかった。基本的にこういったジビエは食べ慣れていないだけで美味しいものが多かった。ウサギは鱈と鶏を足して二で割ったような味、ダチョウは身が赤く牛肉のような芳醇さでありながら臭みはなく、そこに鶏のあっさりした風味を足したような味、カモはみなさんご存知であろうがヨーロッパで食べた鴨の方が味が濃かった。鹿は牛肉に味が似ているが牛肉以上に臭みがなく食べやすい、そんな経験は実際に食べてみないとできないため好奇心が湧き、注文してから温泉へ。
温泉は源泉掛け流しだ。かなり広々としているため思いっきり足を伸ばして浸かることができる上寝湯まであるし、サウナもある。ここ白神温泉の湯は透明の炭酸水素塩泉で弱アルカリ性だ。このアルカリが体の角質を溶かすようだ。入ってみると白神山地の水らしくかなり質感が分厚い。日本全国の水をアンテナショップで買って飲み比べしていた時期があるのだが岩手龍泉洞の水と青森白神山地の水は軟水でありながらかなりその質感に厚みがあり独特である。その中で龍泉洞の方は透明感があるが白神山地の方は色で言うなら白っぽい、より詰まったような感覚がある。同じ水でもこれだけ違うのは面白いものだ。なんとなく温泉から木々のような香りもうっすら感じて自然と身体がじんわり緩んで行く。
訛り
さて、青森といえばその独特な訛りもまた特筆に値するもののように思う。決して嘲笑するという意味ではなくその個性が興味深いという全く悪意を含まないものであるということを念押しした上で述べるが、例えば他の地方に行った時に私のような観光客相手だと地元の方は標準語に自然とより訛りが減る傾向がある。青森でもその傾向が見られるのだが、他の都道府県と比べて青森の場合イントネーションに青森訛りが強く残り、ここまで強く残る経験は今までにあまりなかったのだ。他の県で訛りの印象が強いのは大阪や、或いは北海道とかそういったところだったのだが、(沖縄は宮古島のみ来訪経験があるが私と会話するときは訛りはほとんど感じなかった)ここ青森はその訛りがかなり独特である。正直なところ、テレビで青森出身の王林さんがその訛りで喋っているのは半分演出やキャラ作りがあるのだろうと思っていたのだが実際に現地に行ってみるとあれは大げさでもなんでもなかったのかと驚いた。ステレオ的な一般イメージは外れることが多いが、ごくたまにステレオイメージと現地の実態がハマることがありそれが面白く感じる。私にとってはフランス人のイメージがステレオイメージとピッタリはまり面白かったのだが青森県民の訛りがまさにそれだった。
津軽弁
ここで訛りのことを書いた理由は、温泉に入っている際おそらく地元のご老人が会話しているのを聞いた時に衝撃を受けたからだ。その老人同士の会話が全く理解できなかったのだ。そして直感した。津軽弁だ。ここ西目屋村は中津軽郡ということもあり津軽弁が話されていても全く不思議ではない。日本にいながら相手が何を喋っているのか全く理解できないのは上述の宮古島で地元の老人同士が会話しているのを聞いた時以来である。私は東京生まれ東京育ちの五代目であり、尚且つ下町ではないため訛りというのが全くない上に地元色というのが薄いためこういった地方色、地元色といったものに憧れを感じることがある。海外留学を経験した後は日本という国そのものがそういったバックグラウンドとしての意識が強くなったという側面はあるものの、こういうものを人と共有するのが難しいのは少し寂しくもある。
酒
1時間半程、たっぷり温泉に浸かり肌がプリプリしてきた。角質が取れほんのちょびっとだけ赤ちゃんの肌に近づいたような感覚がする。そんな赤ちゃんは湯上り後売店で地酒を購入し部屋で開ける。
やはり水質はみっちりしていて味がしっかりしている。旨味たっぷりで甘みは少なくやや辛め。温泉上がりにはストロングスタイルであるものの白神の温泉と相まってぴったしはまっている感じがある。そんな感じで良い気分で時間を過ごし、夕食のために食堂へ向かう。
次回に続く。
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