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血も凍る

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怪談ツイキャス「禍話(まがばなし)」で放送された怖いお話を、色々な方が文章に“リライト”しています。それを独自の基準により勝手にまとめたものです。
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2020年10月の記事一覧

禍話リライト「ひとさらいタクシー」

ずいぶん前に聞いた話だ。 当事者たちは全員その地域を離れてしまっているので話すことができる、そんな話になる。 それは肝試しでもなんでもない、夜景を見に行くことを目的としたドライブだった。 車内にはサークルの仲のいい面々が顔を揃えている。ぐねぐねとした山道をかなり登ってきたとき、その中のひとり――Sが尿意を訴えたのだという。 目的地は夜景スポットだ。用を足した直後の場所で長々と夜景鑑賞というのも嫌だし、適当なところで止めようということになった。タイミングよく退避スペースがあっ

[禍話リライト]深夜のファミレス[燈魂百物語 第零夜]

これで机を拭いて回るのも何周目になるだろうか。 布巾をたたみつつ店内を見渡しても男子大学生らしきグループが窓際の席でダル気に話しているだけだ。今日も特に仕事はなさそうだな、と独り言ちながらボックス席に挟まれた通路を歩く。 一応24時間経営ファミレスの系列店ではあるが、交通の便などの事情で昼にさえ客があまり来ないような店である。深夜二時ともなればなおさらで一組の客がいるだけでも相当な珍事だった。 24時間営業など辞めてしまえばいいのにとも思うが、深夜だけに時給も高く楽な仕

禍話リライト「鬼火」

鬼火、というものがある。 いわゆる怪火現象の呼び名のひとつで、人魂と呼ばれたり、狐火と呼ばれたりもする。 そんな鬼火の話だ。 「ちょっと付き合ってくれないかな」 大学の友人からそう声を掛けられた。 どこに、と訊くと、おじさんの家だという。おじさんの家に自分を連れて行く意味がわからない。怪訝な顔をしていると、遺品を受け取りにいくのだと教えてくれた。 ああおじさん亡くなったのか、と言うと友人は頷いて、こんな話をした。 そのおじさんという人は、あまりいいおじさんではなかったのだ

禍話リライト:女の絵

とある工業高校の話。 この学校では進路にあまり影響の無い、美術や音楽などの芸術系の授業は選択式になっていて、T君は適当に音楽を選択した。出席さえしていれば良いような内容で、携帯をいじったりちょっと居眠りしたりして過ごしていた。みんなそんな感じだったし、先生方もある程度許容していた。 しばらくして、美術を選択した友人が「いやー、わかんねえもんだなー」と言いだしたので何のことか聞いてみると、同じ美術を選択したトクダというヤンキーが、最近やたら美術に熱心だという。突然目覚めたとで

禍話リライト「幻覚のいる部屋」

それはある遊び友達のグループに起きた話だという。 彼らは全員社会に出た人間ではあった。けれど、例えば殺人事件の現場を冷やかしに行って「全然怖くねえな」と言って笑いあうような悪い仲間だった。 酒の席でどこか怖いところはないか、という話になったとき、メンバーの一人であるAがこんな話をした。 彼の母親が仕出し屋につとめている関係で知っていることなのだが、ここからそう遠くない、とある狭い路地を抜けた先に、もともとは女子社員寮として使われていた廃アパートがある。そこが怖いのだそうだ

禍話リライト「作られた幽霊」

第1話 あるクリーニング店で  小学生のときにWさんが住んでいた団地には、クリーニング屋があった。  民家の敷地内の、車2台分ほどのスペースに建てられたプレハブで、家族だけで営まれている小さな店だ。  Wさんは、よくお使いでその店に行っていたのだという。  ある日の夕方だった。  Wさんはお母さんから、そのクリーニング店にスーツを取りに行くよう頼まれた。そろそろお店が閉まる、ぎりぎりの時間だった。  急いで向かうと、まだ店内には明かりがついている。   よかった、まだ

禍話リライト「開けないの?」

地方の寂れかけた商業施設—―ショッピングセンターだったりショッピングモール――は怖い。そんな話になった時、ある人から聞いた話だ。 彼の地元にも寂れたショッピングモールがあった。往時はかなり賑わった場所だったのだが、今ではテナントも減り、人通りの少ない場所にあるエスカレーターはセンサー式になってしまっている、それくらいの寂れ具合だ。 その一角に妙な手書きの張り紙があったのだという。 『エスカレーターでボストンバッグのようなものを見かけた際は、決してお手を触れたり開けたりせず

禍話リライト「ものを言う岩」(怪談手帳より)

それはいわゆる〈こそこそ岩〉の話なのだという。 〈こそこそ岩〉とは、水木しげるによって取り上げられたこともある民話で、簡単に言ってしまえば夜その岩の前を通るとこそこそと何か話すような物音がしたというような話だ。〈こそこそ岩〉という名前ではなくても、岩が異音を発する、ものを言う、またはすすり泣くというような話は日本各地に分布している。 Aさんという女性が幼いころの話だ。 彼女の父方の祖父母は、ある低い山の上に住んでいた。祖父母の家のそばにある畑から少し藪の中に入ったあたり、草

禍話リライト「ともだち」

 ただでゲームができるからって、親しくもない友達の家に行くと、ろくでもないことが起きるよ、とDさんという人が話してくれた体験である。    Dさんが小学生だったころは、「あいつんち、○○ってゲームあるんだぜ」なんて理由で、それほど仲が良くない子の家にも遊びに行ったものだったという。    Eくんという、Dさんのクラスメイトの家は、まさにそんな理由でよく押しかけられていたそうだ。    Eくんは当時にしては珍しく塾に通っていて、頭のよい、大人びた感じの子だったが、周りの連中を小