【お手紙】おばあちゃんへ
祖母に胃癌が見つかったのは昨年2020年の9月。
ステージ4で、お医者さんによれば、もう長くはない、との話だった。
私は幼い頃からおばあちゃんっ子だった。
祖母は御年83歳。
若くして独学でデザインを勉強し起業をしたり、70歳を過ぎてからもスポーツのインストラクターの資格を取ったり、視力が顕著に低下してしまった前までは、いかつめの車に乗っていたり、強く逞しくかっこいい女性だ。私の身近にいる一番のキャリアウーマンでもある。祖母の生きてきた時代、女性が働くことに対して風当りの良くないことも沢山あっただろうに、仕事をバリバリとこなしながらも、父を含む3人の子供を育てた。
祖母は80歳を超えてもなお、毎日お洒落を忘れず、ガーデニングに精を出し、好奇心が旺盛で、仕事も続けていて、お肉も大好きで、都会も大好きで、パワーが漲っている女性であった。
料理や掃除が苦手だとか、言いたいことは言う自由な性格だとか、そういうところもなんだか私は好きだった。
身近ながらも、私の人格からは遠いところにいて、行動や考え方もユニークで、祖母の存在自体がそれはもうエネルギッシュで、多分ずっと尊敬や憧れの気持ちが強かった。
もう長くない、とお医者さんからの言葉からそろそろ1年が経つ。
癌の発見が遅くなってしまったこと、また、高齢であることから手術はできず、癌は胃から肺への転移も見られている。だけれども、彼女は今も頑張って闘病中だ。体調も良くなったり悪くなったりしているが、賢明に病気と闘っている。
もちろん、100%元気な頃と比べると、気分の落ち込みや、線が細くなったことも見て取れるが、それでも私なんかの何百倍も強い。
本当に強くたくましい、私の大好きなおばあちゃんだ。
ある日、私が祖母に電話をした時のこと。
あなたは良いわね。若くて元気で綺麗でキラキラしていて、人生これからなんでもできるし楽しみなことしかないじゃない。本当に本当に羨ましいと思うわ。おばあちゃんはね、病気になってしまったけど、大丈夫よ。私はあなたの幸せを願っているからね。
彼女の「羨ましい」という一言は、私の心の奥の芯のような部分をえぐった。
私は祖母から見たら、若くて元気で綺麗でキラキラしているらしい。実感はないけれども、でも、私が祖母の立場だったら、同じように感じても全くおかしくない。
まだまだ心は元気でやりたいことが沢山あるであろう祖母に、私は、なんと声をかけて良いのか分からなかった。電話を切って涙が止まらなかった。「きっと大丈夫だよ」という一言は、私がなんだか病気のことを軽々しく考えているように聞こえてしまう気がして、どうしても言えなかった。何もしてもあげられない心苦しさと、私自身の人生を丁寧に生きないと祖母に申し訳がないと思ったことと、そもそも私は毎日を大切にできていないのではという自分への不甲斐なさと、一言では表せられない複雑な感情だった。
病気の完治が難しいかもしれないけれど、病気と共にというかたちになってしまうと思うのだけれど、長生きしてほしい。
明日は敬老の日。
ちょっと気恥ずかしいけれど、お手紙を書いてみようと思っている。
今私にできることは、おばあちゃんにパワーをあげることと、感謝を伝えることと、自分の人生をおばあちゃんのように強く逞しく大切に生きるように努めることかな。
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