東京23区で食べておきたいプロフを知るための10皿
ウズベキスタンの代表的な料理「プロフ」。扉の写真は、ウズベキスタンで食べた有名なプロフセンターの巨大釜で作るプロフです。1日だけのトランジットで2019年に観光したのですが、忘れられない美味しさでした。
こちらが、その本場のプロフ。チャーシューのようなものは、馬肉のソーセージだそうです。写真、見ただけで、また食べたくなってきます。
さて近年、ウズベキスタンからの留学生や技能実習生が増えたことから、実は、ウズベキスタンの料理店が増えています。
以前「ラグマンを知るための10皿」を書いた時から、このラグマンと双璧をなすウズベキスタンの代表的な料理プロフについて味比べをしてみたかったのです。ラグマンでは、埼玉や神奈川まで足をのばしましたが、今回は、仕事も忙しかったので23区内でがんばることにしました。
なので、埼玉に名店の多いウイグル料理ですが、こちらは残念ながら今回は載っておりません。プロフと兄弟関係にあるウイグル料理の「ポロ」は、最初の2皿に抑えてあります。あとは、近年都内に増えているウズベク料理店ともう1カ国の料理店で、東京都23区内でプロフを食べ歩くことにしました。その店の違いや魅力、美味しさの特徴などを書いてみたいと思います。
ちなみに、プロフのウズベキスタンにおける名称「PALOV OŠ」(ウズベク人はよくプロフと言わずオシュと言う)は、Pはパヨズ(ネギ)、Aはアヨズ(ニンジン)、Lはラフム(肉)、Oはオリオ(脂)、Vはウェト(塩)、Oはオブ(水)、Sはシャルィ(米)を表すと言われているようですが、ピラフ発祥の地は、イランやトルコなど諸説あるようです。
①火焔山 新疆・味道本店のポロ(ウイグル、池袋)
まずは、池袋でガチ中華で話題のウイグル料理店です。
この店のポロ、羊肉と甘い人参が使われ、甘めの味付けで味わい深い仕上がりです。ほどよいオイル感も、あっさりしてて食べやすいです、個人的には、気持ちもっとオイリーでも良いくらい。米も日本のもののようで、ご飯の仕上がりも日本の米に近い感覚です。
付け合せの野菜がほんのり辛く、スパイス感とさっぱり感で、オイリー気味なポロとめちゃくちゃ合います。おかずで食べた炒めものとも、一緒に食べたら、これまた絶品でした。ただ、この後食べることになる各皿のプロフに比べると、やや肉が少ないです。
メニューには、ポロとは書いておらず「新疆手抓飯」と書かれていました。昔は、手食で食べていたからこの名前になったとか。なぜ、ポロと書かれていないかというと、どちらかというと中国人向けのウイグル料理店だからです。なので、店名にも新疆と書かれていて、ウイグルとは書いてなかったりします。
とにかく、この店は、メニューが豊富で超オススメ!大勢で行くと、このツイートのようにダーバンジーという大皿の名物料理が食べられますよ。
②シルクロード・タリムのポロ(ウイグル、初台)
さて、今度は、”ガチ”中華ではなく、”ガチ”ウイグル料理になります。
23区内でウイグル料理とカタカナで名乗る店は、現在ここだけのようです。以前、私が書いたラグマンの記事には、高田馬場や巣鴨に、ウイグル料理店がありましたが残念ながら閉店してしまったようです。
なので、このシルクロードタリムは、東京人にとってとても重要な店です。歴史も長いので、味は確かだし、多くのファンがいる店でもあります。これからも、東京人にウイグル料理の美味しさを伝え続けて欲しいです。
さて、ここのポロですが、やはり池袋の店とは、ちょっと違います。より、ウズベクのプロフに近い印象を受けます。まず、肉は上にのせた感じで混ざっていません。干しぶどうや黄色の人参が入っているのも、ウズベク版プロフに似ている気がします。
しかし、食べてみると、とてもあっさり!米も日本のもののようで、炊き込みご飯のような、チャーハンのような、日本人に食べやすい印象の味わいでした。また、一緒についてくるものは、ここではサラダではなくヨーグルトでした。
ご飯の上には、柔らかく煮込まれた(炊き込まれた)肉がドーンと乗っております。この肉と一緒に食べるご飯の醍醐味が、1皿目との印象を大きく変え、よりプロフに近い感じを受けました。
③マルハバトーキョーのプロフ(鶯谷)
では、いよいよ本場ウズベキスタンのプロフです。やはり、肉がドーン!と上に乗っていました。私の中でプロフは、「肉を食べると同時に、ご飯も美味しく食べるぞ!」と思わせてくれるものなので、見た目も大事です。
この店は、ウズベキスタン料理店ですが、2皿目にも書いたようにかつてはウイグル料理店だったため、メニューにはウイグル料理コーナーもあります。今の店内には、あちらこちらにウズベキスタンを象徴するような飾りつけがされています。
さて、肝心のプロフの味付けですが、ここもあっさりです。具材には、ひよこ豆や干しぶどうも入っています。まんべんなく具材が入っているので、食べ飽きないです。そして、もちろん肉が上にどっしりと乗っています。油もほどよい感じです。ちなみに、店の方に聞いたところ、これはタシケント風だと言われました。
ここで、一旦、ウズベキスタンのプロフについて、定義などを書いておきたいと思います。このサイトがうまくまとめていました。それによると…
なので、タシケント風は具材が混ざったプロフ、レイヤー状に肉や人参がご飯の上に乗っているのがサマルカンド風ということです。そう考えるとこのプロフは、サマルカンド風に近い気がします。肉が上に乗せてあるし、味わいも軽やかだったので。ちなみにこの店では、サラダはついてこないので、別途一緒に頼んで食べた方が美味しいと思います。
実は以前、この店がウズベキスタン料理店に変わってすぐの時に食べに行っていました。今回食べてみて、1回目に食べた時と、随分印象が違うなと感じました。写真を見ても分かりますが、料理の色や感じが明らかに違います。この時の方が、油多めで、ちょっとしつこい感じを受けました。
どうしてこんな味の違いが起きるのでしょうか?まだ、料理店として運営が変わったばかりだったから?当初は、そう思っていました。しかし、実はそんなことではなく、プロフを作る上で生じてしまうある問題にあったのです。そのことについては、また数皿後に書きたいと思います。
④ヴァタニムのプロフ(新井薬師)
この店が東京に出来た時は、衝撃でした。ここまで、本格派でボリューム感もあるウズベキスタン料理が東京で食べられるとは思わなかったからです。初めて行った時に食べたプロフは、とても独特で食べたことのない味わいでした。上品で、あっさりしていながらも、脂もほどほどで、旨味もしっかりある。しかも、ラッキーなことに大きな鍋で炊かれたばかりのものを食べたと記憶しています。
その中でも、一番印象に残ったのは、米の質感でした。
そうヴァタニムでは、アメリカのお米Uncle Ben'sを使っていたのです。これは、元オーナーが日本で手に入るお米の中で、故郷に一番近い味を探したところ、これになったと聞きました。(ちなみに2020年にBen's Originalに名称変更されていますので、以後、ベンズオリジナルと表記します)
私は、ここで初めてパーボイルド米のことを知り、プロフというものは、本来こうしたお米を使うものなのかと驚きを覚えました。
ちなみに、パーボイルド米とは、米の種類ではなく、とう精の方法になります。なので、日本米でも、バスマティ米でも、パーボイルド米は作れるというわけです。ちなみに、ベンズオリジナルは、今では色々な米を使って作っていますが、オリジナルは米国の長粒米のなので、それを使っていたのではないかと思われます。
さて、お店のオープン時は、高田馬場でしたが、新井薬師に移ったこともあり、店には、電車一本乗り換えないといけなくなりました。以前よりも気軽にいけなくなったのが残念ですが、本場ウズベク料理を安心して食べたいと思う時は、間違いのないこの店に必ず行っています。
現在、店のオーナーは変わりましたが、その料理の美味しさは変わっていません。で、このプロフ旅を書くに当たって、今回行ってみると、なんとご飯は、パキスタンなどで使われるセーラ米(バスマティ米を使ったパーボイルド米)っぽい感じになっていました。ぱらっとしながらも、油分もそこそこあり、バランスが良い味わいでした。サラダものってるので、食べやすかったです。うずらの卵がすごく合うと、今回食べてて初めて思いました。肉も柔らかです。
セットは、こんな感じです。面白いのは、羊の味わいの違い。スルタマ(羊肉の煮込み)はとろける感じ、スープはちょっとした食感を楽しめ、プロフの肉は、米と一緒に炊かれたことによって味わい深い柔らかさになっています。セットで食べたら3つの羊の味わいを体験できました。
このプロフは、ウズベキスタン東部にあるアンディジャンという町のスタイルだと聞きました。タシケントとの違いが何か、よく分かりませんが、今度、タシケントからシェフがくるので、タシケント風も作ると言っていました。今後も、この店にはめっちゃ注目です。
⑤ピヨトトシャのプロフ
次に訪れたのは、西荻窪で世界の様々な料理を提供してくれている「ピヨトトシャ」です。この店、結構前からずううううっと気になっていたのですが、初見で一人だとちょっと入りづらい雰囲気があって、店の前を通っては、軽くのぞく日々を送っていました。そんな時、私がプロフを食べ歩いているのを知っているじょいっこさんが、
「今、ピヨトトシャでウズベク風のプロフやってるよ!」
と言う情報を送ってくれました。これぞ、憧れの店に行く好機!とばかりに、仕事をさっさと終わらせ、西荻窪へ直行しました。
中はこんな感じ。この雰囲気に圧倒されて、きっと店の人もすごく個性的で、圧倒されるんだろうなあ…と思ってたのです。ところが!女将さんと少し料理の話をしだしたら、めっちゃ盛り上がったのです!同じように世界の料理が好きという共通項もあり、アットホームな気分を楽しめました。で、プロフ登場です。
食べると、まず驚いたのは、クミンが主張していること。まずそれにガツンとやられました。それが慣れてくると、全体のバランスの良さに驚きます。今までの店になかった濃いめの味付けで、油もそれなりに効いているので、ちょっと行きすぎな味かなと思われるかもしれませんが、これが絶妙なバランスで、すごく整ったプロフに仕上がっています。
何気に、他の店より肉が大きく、とろける柔らかさで、人参もたっぷり!ひよこ豆やレイズンも入っていて具沢山です。料理好きの女将さんの愛情を感じさせる一品だなと思いました。
サラダもそれに負けじと大きくて新鮮!ディルが上に盛ってあるのも好印象!(私は無類のディル好き)この野菜と脂身のあるプロフとの調和が素晴らしかったです。ヨーグルトもついてきますが、私は無い方が好みでした。それだけ、このプロフ自体が美味しいのです。次回、プロフをこの店で作る時があったら、また確実に訪れたいと思える一品でした。
⑥アリエンのプロフ(西新宿)
エイリアンでは、ありません。アリエンです。特に周りに店のない、西新宿の山手通り沿いに突然現れます。こちらも初めて来た時は、じょいっこさんのnoteを見てやってきました。そしたら、かつて新大久保で小さな屋台で作っていた店だったのです。
こんな感じで新大久保駅すぐ横の道にあるハラールショップの一角でやっていた店が、開いた店がこちらなのです。味付けは、ほぼ同じ感じで、やはり学生向けということで、安く提供。デカ盛りです!
ここの店もアンディジャン風でした。柔らかい肉がゴロゴロ。ヴァタニムより気持ちしっとりで、油分や旨味がそこそこあり、バランスが良いです。日本の炊き込みご飯っぽい印象もあります。
セットで頼んだのですが、ヴァタニムが肉多めとしたら、こちらはそこそこ大きなノンも付いてくるので、炭水化物や他の具材が全体的に多め。
スープには、ワンタンが入っており、その中の具もしっかり羊!全体的に満足度が高いセットとなります。私は、大好きです!
店の人に聞くと、本当はベンズオリジナルの米にしたいのだそうです。今、日本で手に入らないから、セーラ米にしているのですがお腹には、物足りないとのこと。しかし、これだけ食べれば十分腹パンなので、ベンズオリジナルになったら、ちょっと大変かもと思ったのでした。
⑦サマルカンドテラスのプロフ(高田馬場)
ここは、巷で話題のウズベキスタン料理店です。開店当時から多くの人が推薦していました。その理由がこちらです。
この店のポイントは、厨房の前がデリのようになっていて料理が並んでおり、その一番奥にこのような現地仕様の大きな釜があること!
他の店のプロフと違い、ここのプロフは、サマルカンド風。作りたてを見た限り、釜の下に肉や人参を入れて炊き込んでました。米は日本米のようですが、ちょっと固めに仕上げている感じです。
実は、数回来ていて、遅くに行くと釜の底の部分のプロフをいただくことになってしまう。当然、油が下の方に敷き詰められているので、そうなるとかなり油多めで、米もちょっと固めのプロフになってしまうのです。正直、その味わいは、ちょっと…
なので、出来立てを食べないとこの店の評価はできない!
そこで今回、改めて金曜のオープン時に行ってみました。金曜は、モスクのお祈り後なので、オープンが14時と遅い。また、そういう日なので、店の人が気合入ってるんじゃないか!と勝手に思ってその日時に行ってみました。
全然違いました!
油は、他の店よりやや多めですが、食べていても丁度良い感じ。何よりも美味しいのは、乗せてある肉。これは、他の店と比べて断然美味いと感じました!サマルカンド方式だからなのか、出来立てだからなのか分かりませんが、とにかく肉が味わいの深く素晴らしいかったです。
当然、ご飯の味わいも旨味があって良かったです。あっさり目ですが、上品な日本の混ぜご飯を思い出させる味です。こわかったご飯も、出来立てだとアルデンテよりも柔らかい感じです。3回目にして、やっとこの店の真価を味わえたなと満足感に浸ることができた逸品でした!
さて、こうして色々なプロフを食べてくると、この料理の特徴について考えてしまいました。そして、重要な要素が3つあることに気づいたのです。それは「油」「米の食感」「ご飯の旨味」。もちろん肉や具材も大事ですが、この3要素は、私の中でプロフを楽しむための決定打だと分かったのです。
「油」が多いと日本人の感覚だと「油っぽい」という印象を与え、不味いと感じてしまいます。しかし、このプロフという料理は、この油具合が多くても「食感」や「ご飯の旨味」とのバランス次第では、料理の味わいなのだと感じるようになりました。そこに、この料理を真に美味しく味わえる楽しみ方がある気がします。
だから、もしかしたら、この店で夜に油っぽいプロフを食べたとしても、それは美味しさなのかもしれません。でも、以前食べた時の写真を見比べると明らかに油ギッシュですし、作り手(あるいは作り方)も違ってるかもしれませんね。(笑)
⑧GOOD TIMEのプロフ(赤坂)
さて、いつものようにグーグルマップで、世界のレストランサーチをしていると、なんと赤坂にプロフを出す店を発見!
店の横に書かれてあるのは「ヨーロッパ」「中央アジア」「ロシア」「ウズベク」「フランス」とあります。そして、中に入ると…
ご覧のように魅力的な国々の旗のシールが、入り口付近に貼られていました。これは、興味津々です!基本、ロシアとウズベキスタンのものがメインの店でした。
そして、冒頭で言っていたもう一つのプロフを出す国というのが、このロシアなのです。というより、かつてソビエト連邦が存在した時、このプロフという料理は、日本の町中華のチャーハンのようにソ連圏全域で人気のメニューになったようなのです。
https://eurasianet.org/how-plov-a-central-asian-staple-became-a-russian-favorite
このサイトによると、すでに1939年版のソ連のクックブックにプロフのレシピがあったそうです。また、ジョージアやアゼルバイジャンのプロフなどのレシピがいくつも書いてあったとのこと。つまり、プロフは、ウズベキスタンや中央アジアだけの料理ではなく、ロシアやコーカサスでも、結構昔からある人気料理だったのです。
話をこの店のプロフに戻します。ここは牛肉を使っていますが、匂いは羊っぽいので、香辛料とか出汁とかは羊なのでしょうか?この牛のチャーシューは、他店にはないオリジナルで、この肉がかなり美味い!独自に作ったオリジナル牛チャーシューだそうです。タシケントで食べた馬肉が上に乗ってるような、その感じを思い出しました。
サマルカンドテラスで食べた味と油に似ている気がします。やや、こちらの方が味付けが強め。そこが結構好みでした。油もこれ以上だと多すぎな感じなんですが、このくらいが丁度良い気がします。にんじんに干しぶどうも入ってて、王道なプロフって感じです。
そして、夜になると別メニューのプロフがあるそうなので、夜にも行ってきました!
こちらは、ラム肉のプロフ。たしかにちょっと豪華ですが、ラム肉めちゃ多めです。米がほぼ見えない。
肉をどかして米を撮影。ご飯は、そんなに昼間と代わらない味わいです。いや、実際は、肉とそのソースが強くて、米の味がそんなに味わえませんでした。とても美味しいラム肉で、満足な逸品ではありますが、プロフを食べに来てこれに出会うと、ちょっとお米が物足りない感じでした。私は、昼間のプロフの方が好みです。
基本的にこの店は、かなり経験のあるシェフがしっかり作っている印象で、どの料理を頼んでも、見た目、味ともに素晴らしかったです。
この店、オーナーが日本人で、他は、ロシア、ウズベキスタン、ウクライナの人でやってるとのこと。戦争反対も声高に掲げていました。
⑨スカズカのプロフ(錦糸町)
おそらく、東京で最も現地感が味わえるロシア料理店は、こちらなんじゃないでしょうか?
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カフェ・バグダッドさんが提案された「世界を知るための10皿」という企画に乗り、様々な国の料理を取り上げていきます。料理を通じて、移民の方々や、聞きなれない国に親しみをもってもらいたいと考えてます。今後はYouTube「世界のエスニックタウン」と連携した企画をアップしていきます。