今回は、「こころの栄養補給法」というタイトルで、特に子育てに絡めて、人と人とのコミュニケーションにおけるストレスマネジメントについて書かせて頂きます。

ストロークについて

 皆さん、「ストローク」という言葉を聞いたことがありますか?ストロークとは、泳ぐ際の水をかくことや、そのひとかき、またテニス、ゴルフ、卓球等で球を打つこと、ボートのひとこぎを言います。

 テニスで球を打つときも、ラケットが前後に行ったり来たりしますが、そのような行き来は、私たちのコミュニケーションでも行われています。(あまり意識されることはないかもしれませんが)

 例えば、「おはよう」「また明日ね」といった挨拶も、一つのストロークですし、ニコッと笑ってお辞儀をすることもストロークの一つと言えます。

ストロークの種類

 このような、人と人とのコミュニケーションにおける「ストローク」には、いくつか種類があります。

 例えば、先ほどの例のように「おはよう」と声をかけるのは、言語によるストロークです。またお辞儀をすることは、非言語によるストロークといえるでしょう。

 また、「今日も素敵だね」「いつもありがとう」など、プラスのストロークもあれば、「お前は何回言ったらわかるんだ」「本当にダメや奴だ」など、マイナスのストロークもあります。

 さらには、「テストでいい点数を取ったから、子どもを褒める」など条件付きのストロークや、「何となく嫌いだから、無視をする」といった、無条件のストロークもあるでしょう。

 ちなみに、嬉しいのは「無条件のプラスのストローク」でしょう。子どもや恋人など、「あなたがいてくれるだけで嬉しい、幸せ、大好き」といった、無条件のプラスのストロークを、言葉でも(言語)、態度でも(非言語)相手に伝えることが大切かと思います。

 一方、おわかりの通り、辛いのは「無条件のマイナスのストローク」です。「生理的に無理」と嫌われたり、悪いことをしていないのにも関わらずいじめられる、怒られるなどは、辛いものです・・・。

ストローク交換について

 さて、このようにストロークにはいくつかの種類があることがわかりました。そして人は、常に相手とストロークの交換をしていると言われています。

 家族と顔を合わせた時、会社で同僚とすれ違った時などに声をかける(あるいはかけない)、上司に会釈をする(あるいはしない)、会議で話している人の顔を見てうなずく、ほほえむ(あるいはうなずかない、ほほえまない)など、例え言葉を交わしていなくても、態度で、常にお互いにストロークを交換しているのです。

 そしてほとんどの場合、人は「マイナスのストローク」を受け取った時は、同じく「マイナスのストローク」を相手に返します。例えば、相手から「バカ!」と言われたら、同じく「あほ!」と返すでしょう。やられたらやり返す、ということも同じです。(なお、叩かれて「嬉しい」と感じる人もいますが、それは「叩かれる」ということが、その人にとっては「プラスのストローク」になるわけです。なので、「ありがとうございます、女王様」となるわけです)

 逆に、相手から「プラスのストローク」を受け取った人については、どうでしょうか。この場合、半分は同様に「プラスのストローク」を返してくれますが、半分は「マイナスのストローク」を返す、と言われています。例えば、家族や知人、同寮に「おはよう」と声をかけても、笑顔で返事をしてくれる場合もあれば、例えば体調や気分がすぐれず、返事がない場合もあります。ただし、相手の「こころの貯金箱」には、プラスのストローク」が貯まっていきます。

 このようなストローク交換における法則を「ストロークの経済法則」と呼ぶことにしましょう。そして、わかりやすく、ここでは「こころの貯金箱」に、プラスやマイナスのストロークが貯まっていく(あるいは出ていく)ことをイメージしてもらえたらと思います。

子育ての例

 それでは、ここで、第一子を育てる専業主婦のお母さんの例から、ストローク交換についてより詳しくみていきたいと思います。

 お母さんは、日中、赤ちゃんにお乳をあげたり、オムツをかえたり、一生懸命あやしたりしています。赤ちゃんが泣くと、お腹が空いているのかな、オムツが気持ち悪いかな、眠たいかな、など、気を遣って様子をみています。

 これをストロークの考え方から捉えると、言語・非言語によるプラスのストロークを赤ちゃんに与えているとみることができるでしょう。もちろん、無条件です。お母さんは、自分のこころの貯金箱から、どんどんプラスのストロークを出して、赤ちゃんにあげています。

 では、赤ちゃんから返ってくるストロークについては、皆さんどう思われますでしょうか。これはイメージですが、10個のプラスのストロークをあげたとして、いくつくらいが返ってくるでしょうか。

 これを地域住民の方に講話をして話を伺うと、「赤ちゃんが1回ニコッと笑ってくれただけで、自分にとっては10のプラスだ」という方もいました。しかし、やはり多くのお母さんは、「返ってくるプラスのストロークの方が少ない」「全然泣き止まなくて、むしろマイナスのストロークが返ってくる」という声が多いように感じています。

お母さんのこころの貯金箱

 このように、一生懸命赤ちゃんにプラスのストロークを与えているお母さん。返ってくるプラスのストロークも多少はありますが、どうしても、「こころの貯金箱」のプラスは少なくなっていき、また相対的に、マイナスのストロークが多くなっていきます。

 では、このお母さんに、プラスのストロークをあげることが出来る1番の人は誰でしょうか。

・・・

・・・

・・・

 そうです、ご主人さんです。(ちなみに、私もこの話を地域住民(特に中年の女性)にさせて頂くと、「加藤さんはどうなんだ」といじられます(笑))

 しかし、実際にはどうでしょうか。例えば、以下のような場面は、どの家庭にもみられるのではないでしょうか。

 「ただいま~」と帰ってきた夫は、「疲れた~」と言いながら、眠っている赤ちゃんの寝顔をみつつ、ソファーへ座り「あれ、ご飯まだ出来てないの?」「腹減ったから早く作ってよ」といってTVを見始めます。

 そして、赤ちゃんが泣き始めると、「おーい、○○が泣いてるよ」と、奥さんに声をかけます。(これは、加藤家の昨日の様子ではありません(笑))

 確かに、ご主人さんも、外で仕事をして疲れて帰ってきているかもしれません。しかし、日中一人で子育てをして、こころの貯金箱にはマイナスが多くなっているお母さんは、どうしてもマイナスのストロークが出やすくなっています。また、そのような夫の態度に、さらにマイナスが貯まって(溜まって)くるかもしれません。すると、以下のようなやり取りになる場合もあるかもしれません。

 「ちょっと!ソファに座ってないで、あなたも少しは手伝ってよ」「いやいや、俺だって1日仕事で疲れてるんだから、ちょっとくらい休ませてよ」「あんたはどうせ外で適当にしゃべってラーメン食べてるだけでしょ」「いやいや、お前だって1日家にいて、テレビ見て遊んでるだけだろ!」(繰り返しになりますが、これは加藤家の昨日の話ではあり・・・以下略)

 このように、マイナスには、マイナスのストロークが返ってくるため、お互いに、嫌なことを言い合ってしまうかもしれません。しかし、この状態より、更に良くない状況があります。それは、「誰ともストローク交換ができないこと」なのです。

 先の例でいえば、ご主人さんが、「もういいや。外でご飯食べてくるから」などと言って外に出てしまったり、自分の部屋に入ってしまったり、ご飯を食べてもすぐに寝てしまうなど、奥さんとのコミュニケーションを避けるようになってしまうと、奥さんは、マイナスのストロークすら出すことができません。

 少し話は変わりますが、小学生の子どもが、母の気を引こうといたずらをして怒られるシーンを思い浮かべてもらうとわかりやすいと思います。人は、「例えマイナスでもいいので、人とストローク交換をしたい生き物である」と言われています。つまり、いたずらをする子どもは、お母さんに構ってもらえなくて、例え怒られてもいいからお母さんとストローク交換をしたい、とも解釈できます。

マイナスのストロークはどこに

 先ほどの子育ての例に戻ります。日中、赤ちゃんにプラスのストロークをあげて、お母さんのこころの貯金箱にはマイナスが多くなっています。ご主人さんからプラスのストロークをもらえていたり、愚痴を聞いてもらってマイナスを受け取ってもらえるといいのですが、ご主人さんとコミュニケーションが取れない場合、お母さんはどんどん孤立していきます。

 私が関わる事例では、特に第一子出産前後に家を買うなどし、実家の母親とも離れてしまい、また転居してきたばかりで近くに友達もいない(元々友達付き合いが少ない)お母さんに、このような状況の方が多い印象を受けました。

 さて、このとき、お母さんのこころの貯金箱に貯まった「マイナスのストローク」は、どこにいくのでしょう。

 そうです、どこにも行き場がなく、こころの貯金箱からあふれてしまったマイナスのストロークが赤ちゃんへいってしまう場合があるのです。子どもの虐待が起こるメカニズムの一つとして、このような悲しいプロセスがある場合もあるのです。

 また、プラスのストロークも、マイナスのストロークも出てしまい、「こころの貯金箱」が空になってしまった状態を、「うつ状態」とみなすこともできるかもしれません。

私たちにできることは

 以上、子育ての例から、ストローク交換について書かせて頂きました。この話を聞いて、私たちにできることは何があるのでしょうか。

 人は、他者とコミュニケーションを取った際に、プラスのストロークをもらったか、マイナスのストロークをもらったか、わかると言われています。こころの貯金箱に、プラスのストロークがたくさんある方は、是非、周りの人たちに、どんどんプラスのストロークをあげていってください。また、愚痴を聞くなど、「相手の話を聴く」だけでも、とても重要な役割です。

 また、自分自身のこころの貯金箱を見つめてください。今、プラスが少ないな、と思う人は、自分自身に、こころの栄養補給をしてあげてください。ゆっくり休む、美味しいものを食べる、好きなことをする、好きな物を買う、など、自分自身でプラスを集めることもできます。しかし、一点注意があります。何か物を買う、食べる、飲むなどは、一時的にはプラスとなりますが、すぐに消えてしまいやすいとも言われています。このような「物」にだけ頼ってしまうと、買い物依存、アルコール依存、過食症などにつながってしまうこともあるかもしれません。やはり、人と人とのコミュニケーションが大切なのかもしれません。

 辛いときは、誰かに相談し、愚痴を聞いてもらうことも大切です。親や兄弟、友達、会社の同僚など、周りの人に話を聴いてもらうことが出来る人は、意識的に、他者とのコミュニケーションを取ることも大切です。しかし、周りに頼れる人がいない場合や、話しにくい場合などは、お気軽に、社会福祉協議会のような相談機関にご連絡頂ければと思います。

応用例

 この話は、色々な場面に応用が出来ます。子育ての例で、ドキッとしたご主人さんは、是非、奥さんに「プラスのストローク」をあげてください。先ほどの話で、物もいいのですが、まずは「言葉」を大切にしてみてください。「言葉の花束がほしい」という人もいるくらいで、人は、やはりプラスのストロークをもらえると嬉しいようです。(失敗例として、ある方はエプロンをプレゼントしたところ「また家事をやれってことか」と怒られたそうです。その女性にとっては、それはマイナスのストロークだったのでしょう。)

 また、コミュニティソーシャルワーカーとして近隣トラブルの事例に関わることがあるのですが、物理的にお互い住んでいることがわかる(音が聞こえる、気配を感じる)のに、言葉かけがない状態(つまり、非言語的なストローク交換はあるのに、言語によるストローク交換がない状況)は、あまり良くない状況を生み出しやすいのかもしれません。詳しくはまた別の機会に書きますが、相手の生活音が「自分を攻撃している」など、マイナスのストロークに受けとめられやすいことがあると感じています。

 また、世の中には「ケチな人」がいるように、ストロークにおいても「なかなかプラスのストロークを出さない人」がいます。しかし、ストロークの経済法則と言われるように、プラスのストロークを出せば出すほど、相手からのプラスのストロークが返ってきやすくなります。普段からプラスを与えていると、相手からももらいやすくなりますので、ストレスマネジメントとして、自分のこころの貯金箱を意識しながら、積極的にプラスのストロークを与えてみると、いいかと思います。

 専門職の方は、地域の子育て世帯向けのストレスマネジメントの講話や、地域で「子育て世帯」に対して何がやれるのか、といったことを考えるワークに、この話を応用して使ってもらえたらと思います。私も、現在学校関係の方と、「学校にも言えない子どもの悩みを拾うにはどうしたらいいだろうか」という話し合いをしています。PTAや地域のおじちゃん、おばちゃんには、「自分たちは話を聴くことしかできない」と言っていますが、このような話を通して、話を聴くこと(マイナスのストロークを受け取ること)、プラスの声かけをすること、そして専門職に適切につなぐこと、これだけで非常に大きな意味があることをお伝えしています。

 是非、これを読んだ皆さまも、「ふくし」(ふだんのくらしのしあわせ)に活かしてみてもらえると嬉しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?