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【映画感想文】サンクスギビング

2007年に公開されたクエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲス両監督による2本の本編と4本のフェイク予告編という形で公開された『グラインドハウス』という映画の上映形態(ちなみに、タランティーノ作品は『デス・プルーフ』で、ロドリゲス作品は『プラネット・テラー』でした。)。その4本のフェイク予告編の中からイーライ・ロスが監督したものを長編映画化した『サンクスギビング』の感想です。

はい、というわけで、2024年最初の映画鑑賞作品でした。今年はお正月初日からいろいろ大きな事件事故がありまして、せめて、映画の中では確実に振り切ったものが観たいと。そういうときは一も二もなくホラーだろということで、現代スプラッターホラーの第一人者イーライ・ロス作品を選んだわけなんですが、これ、まず、この『グラインドハウス』で掛かってた予告編が秀逸だったんですよね。70年代(に制作されたという設定だったんですけど。)ホラーのいかがわしさとか、チープさ(ゆえの禍々しさ)とか満載で、そこにイーライ・ロス特有のやりすぎ残虐描写までがてんこ盛りにされて。この予告だけでもトラウマになりそうな(ていうか、もともと予告編だけの作品だったのでとにかく思いつく限りのヤバイシーンぶち込んだって感じの)インパクトのある作品だったんです。

で、今回のは、それをそのまま本編映像化したのではなくてですね。いわば、70年代に公開された知る人ぞ知る『サンクスギビング』というカルト映画を現代的にリメイクしたって感じの作りになっているんです。イーライ・ロス監督といえば『食人族』のリメイクの『グリーン・インフェルノ』が有名ですが、『食人族』の持ってた当時の社会に対するメッセージ性を分かりやすくアップデートして盛り込んでいて、そこが『グリーン・インフェルノ』の魅力のひとつでもあったんですね。で、今回の『サンクスギビング』も冒頭のセールに並ぶ人々が暴徒化してしまうというあのシーンが、オリジナルにあったメッセージ性を現代的にアップデートして盛り込んだんじゃないかっていう風に見えてきてですね。そういう社会へのシニカルな視点が映画全体の基準になっていると思うんです。で、そこからはみ出ればはみ出るだけ(人を残虐に殺せば殺すだけ)興奮するみたいな。そういう構造がイーライ・ロス作品の面白さなんですけど。ていうか、そもそもホラー映画の面白さってそこですよね。だって、消費社会へ対するカウンター的メッセージだって『ゾンビ』のそれだったわけですから。

えー、なので、昔ながらのスラッシャー・ホラーとしては凄く良く出来ていて、そこにイーライ・ロス印の笑える残虐性も入っていて、更に今回はミステリー要素まで入ってくるので全くホラーとして過不足ないんですけど(というか、じつはこの手の真正ホラーって感じの作品ひさしぶりですよね。だから、それだけでも良しではあるんですが。)、なんか、物足りないんですよ。これ、たぶん、イーライ・ロス(というホラー映画の作り方)が定番化してきちゃってるからなんじゃないかと思うんです。イーライ・ロスは通常のイーライ・ロスを真摯にやってるんですけど、それがよくあるホラー(まぁ、今回は70年代に制作された映画というテイなのでよりそうならざるを得ないとは思うんですが。)に見えてしまうのは、社会的メッセージと過剰なユーモア、それを更に上回る過激な虐殺シーン。という、これは確かにこれまでのイーライ・ロスが作り上げてきた新たなホラーアイテムなんですけど、その影響を受けたその後のホラー作家たちがそれを当たり前のものにしてしまったといいますか(更に今回ので言えば、70年代的ホラー映画風味みたいなのも、『サクラメント 死の楽園』でプロデュースしたタイ・ウエスト監督の方が『X』で上手いことやっちゃってますからね。)。これは、ある種パイオニアの宿命でもありますし、そうやって新たなカウンターが現れて、それまでのものが古典になっていくのはそのジャンルの発展としては良いことなんですけどね。

まぁ、なので、イーライ・ロスのイーライ・ロスさを楽しむつもりでホラーも様式美だ。なんの罪悪感もなく人が惨殺されていくとこが見たい。頭からっぽにしてパーティー気分で盛り上がりたい。『グラインドハウス』のあの予告のヤバイシーンがどれだけ再現されてるのか確かめたいという人には超絶オススメですし、やはり、ちゃんと作ってるホラーはちゃんと面白いので、特に嫌なことばかりの世の中、お正月休みくらいは真正ホラーを観て楽しい気分になるのでいいんじゃないでしょうか(個人的には、予告のあの70年代風バージョンの本編も作ってくれないかなと思います。)。というわけで、2024年一発目の映画感想でした。今年も『とまどいと偏見』をよろしくお願い致します。

ちなみに、その『グラインドハウス』で流れていた70年代風の予告はこちらです。


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