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イコライザー2

ロバート・マッコールさん(ホームセンターで働くおじさん)にまた会えるのを楽しみにしていました。地味ながら渋い裏ヒーロー物の傑作だった「イコライザー」の続編、「イコライザー2」の感想です。

デンゼル・ワシントンが演じるロバート・マッコールさんというキャラクター、昼間はホームセンターで働き、深夜、毎晩同じダイナーに行って本を読み、きちんと片付けられた部屋でひとり暮らしをしている老紳士。知的でクールな印象だけど、どこか影がありそうな。要するに、ホームセンター店員でいい年してひとり暮らししてるにしては、ちょっと紳士過ぎるというか、その好人物加減が逆に闇を感じさせる人物。で、その人が行きつけの深夜のダイナーで、歌手を目指しながら娼婦をして稼いでいる少女アリーナ(クロエ・モレッツ)と出会い、彼女の話を聞くうちにその不幸な境遇に同情し、彼女を救う為に雇われている売春組織に乗り込むって話なんですが。最初はアリーナを解放してくれる様に頼むんです。(お金払うからって言って。)でも、まぁ、そりゃ、悪の巣窟の様な場所に、普通のおっさんがふらっとやって来てそんなこと言ったってあしらわれるに決まってるじゃないですか。で、ここで話が通じないと分かったマッコールさんがどうするかと言うと、そこにいたやつらをきっちり19秒で皆殺しにするんですね。はい、ここまでが前作のストーリーの前半部分です。(この後、売春組織を壊滅させられたロシアンマフィアが犯人探しを始めるって展開になって行きます。)

単なるアクション物だと思って観てたので、まず、マッコールさんが覚醒するまでの間の映画の静けさにびっくりします。そもそもマッコールさん自身がとてももの静かな上に、舞台も深夜の人気のないダイナーとホームセンターで、孤独な老紳士と仕事終わりの娼婦が出会う様な話なので派手なことが何も起こらないんですね。ちょっと映画というより小説を読んでる様な気分になるというか。(ふたりの出会いも、マッコールさんが読んでた「老人と海」をきっかけに始まるので、)渋いアメリカ文学の様な静けさがあるんです。で、さすがに本好きな人物を主人公にしてるだけあって、会話のやり取りなんかも含蓄があった上に心地良さもあるし、このふたりが毎晩同じ時間に会って距離を縮めて行く過程なんかも凄く繊細で、徐々にこの場末の物語に感情移入して行くんですね。インテリな老紳士と娼婦の少女っていう普通だったらありえない様な出会いをモチーフにしたいい話なんです。

で、アクション映画なのでそのままは終わらずに暴力が登場するんですが、こうやって丁寧に描いたドラマの上でいよいよ暴力が登場するので、それはちゃんと必然性を持って描かれるんですね。ただ、マッコールさんのですね、その、強さが尋常じゃないんですよ。(なぜなら、元CIAのエージェントだからなんですけど。現在はそれを隠してホームセンター店員として生活しているっていう設定なんです。)戦う直前に頭の中で倒し方の軌道を描いてそのイメージ通りに相手を倒すんですけど、もの凄く冷静というか、冷静を通り越して虚無というか、職人の洗練された仕事を見てる様な、最早人間業ではなく正に殺人マシーンの所業なんですね。なので、ここで前半に描かれたドラマ部分との剥離が始まるんですよ。観ているこっちの(というか、暴力に至るまでのドラマ的な流れがちゃんとあるので「やったれ、マッコール!」って気持ちで観てるのは観てるんですけど、)想像をはるかに超えた惨殺シーンが展開されるので、予想していた様な不幸な境遇の少女の為に危険を顧みず戦う老紳士みたいなウエットな展開には全くならなくてですね。かと言って、「正義の制裁受けてみよ。」的な感じでもなく、どちらかというと、「未来ある若者なんだから、もうちょっとちゃんとしてあげてもらえませんかね。」くらいのスタンスの行動なんです。その暴力を振るう理由と振るわれる暴力のクオリティーにもの凄いギャップがあるんですよ。(このギャップが萌えでもあるし、怖さでもあるんですけどね。)だから、売春組織のボスも、マッコールさんに「お前、何者だ?」って聞くんですけど、それと全く同じ気持ちに観てる僕らもなるわけなんですよ。だから、「え、この人何なの?」って思いながらも、説得力のある暴力で悪に鉄槌を下してくれたっていう快感が少しだけ上回るみたいな。混乱してるけど気持いいっていうのが前作の「イコライザー」描き方の肝だったわけです。(だから、描き方は超ミニマルなんですけど、エンタメ・アクションとしてはちょっとアヴァンギャルドというか。文学的な静けさを持った演出部分と「座頭市」とか「必殺仕置き人」みたいな不穏でありながらエンタメでもあるっていう、その両方を持った映画だったんですね。)

で、それを踏まえての「2」ということで、えーと、まず、アバンタイトルがあって、これがめちゃくちゃカッコイイんですけど。イスタンブールの列車内でのエピソードで。なんというか前作から連なる「イコライザー」感みたいなものはここが最もあったかもしれません。マッコールさんがどういうイズムで殺しをやってるのかみたいなのの改めての紹介と言いますか。なので、個人的には一度ここでとりあえず満足しちゃうんですよね。「イコライザー」観に来た感がとても満たされるので。で、本編なんですが、今回、3つのエピソードが同時進行するって構成になっていて、(ホロコーストの生き残りのお爺さんの話と、絵描きを目指しながらも悪い友達との縁を切れない若者の話と、マッコールさんのCIA時代にまつわる話です。)そのどれもが「イコライザー」の空気というか、前作が持っていた品格みたいなのをちゃんと孕んでいて非常に満足な出来ではあるんです。(いや、普通にアクション映画として観たら、それはもうめちゃくちゃ面白いんですよ。)ただですね、(個人的に前作の最大の魅力のひとつだった)ひとりの少女を救う為だけに行動するみたいな、そういう親密さはなくなってるんですよね。だって、もう僕等はマッコールさんが殺人マシーンだって知ってしまっていますからね。そこの緊迫感はどうしたってないんです。なので、今回は逆にそういう時にマッコールさんが何を考えているのかというか、そういう時の内面にグッと寄り添った作りになっているんですけど。あの、前作の良かったところのひとつにマッコールさんの生活圏内から出ないというのがあったんですね。ミニマルさというか、あえて箱庭的に描いてその外側を想像させるみたいな感じで。例えば、マッコールさんは明らかにいわゆる庶民的な生活をしてた人ではないんですが、その部分は描かずにあくまで庶民的生活圏内のダイナーやホームセンターで物語を展開させて行くんです。(そういう中で日用品を武器にして相手を倒すみたいなアクションも生まれたりしてますしね。)それを、今回はその箱庭以外の部分をあえて描くって作りにしていると思うんです。

なので、前作で描かれなかったマッコールさんの過去(CIA時代)にまつわる話が中心になっていくんですけど、仕事もホームセンター店員からタクシー運転手に変わっていて、(まぁ、前作で職場で大殺戮しちゃってますからね。転職せざるを得ないですよね。)自ら救うべき人を探しに行ってる様にも見えるんですね。それによってまた斬新なアクションも増えてますし。(運転しながらの格闘と、チャラ男くんたちの遊び場へ乗り込んだ時のクレジットカードのアレとか。)もちろん、前作のイズムを踏襲した悲しみ、怒り、前途ある若者への説教や、自分は危険のない善人ですよっていう凡人演技(CIAの元同僚の家に朝訪問したシーンでの凡人演技凄かったですよね。ただ立ってるだけなのに、完全に人の良いお調子者のおじさんでしたもんね。ちょっと感動もんの凡人演技でした。じつは僕、今回一番グッと来たのここかもしれません。)などなど、ほんと記憶に残る様なシーンが沢山あるんです。だから、続編の一発目の出来としてはほぼ完璧なんじゃないかと思うんですけど、(嵐の中での攻防も凄い良かったですよね。)ひとつ問題があるとしたら、それは前作が傑作過ぎたってことで。まぁ、これはもうどうしようもないですよね。前作のあのパターンをもう一度繰り返したら、それはほんとに興醒めですし。あの、多分、前作って続編を作ることを全く考えずに作った映画だと思うんですよ。(だからこそ素晴らしかったと思うんですが。)で、それを分かった上での今回だということで。これは出来うる限り最良の形で続編ていう新しいスタイルに以降した1作目の「イコライザー」ってことだと思うんです。そういう意味でも、今後、マッコールさんの物語を見続けられる様に仕上げてくれた製作陣に感謝ということですね。

あの、アバンタイトルでわざわざイスタンブールまで行ってある事件を解決して来るんですけど、それは行きつけの本屋を閉店させたくなかったっていうのが理由なんですね。その理由をさりげなーく分かる様にしてるとこなんかに、僕はイコライザー・イズムを感じるんですけど、そういうとこほんとに繊細に作られてるのが凄く良かったですよね。

http://www.equalizer2.jp/sp/

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