見出し画像

【映画感想】フィールズ・グッド・マン

漫画家のマット・フューリーが創造したカエルのペペというキャラクターがネットミーム(インターネットの中でみんなが模倣して拡がって行くスタイルとかアイデアなど。)となり、オルトライト(アメリカの主流の保守派とは異なる新たな右翼思想集団。)のシンボルとなってしまうまで、そして、創造主マットが戦いに目覚めるまでを追ったドキュメンタリー『フィールズ・グッド・マン』の感想です。

政治的なカラーの強いドキュメンタリーではあるんですけど、その前に、今のアメリカのアンダーグラウンド・カルチャーというか、90年代でいうところのストリート・カルチャーみたいなもの(一概にこれが現在アメリカの若者文化を代表してるとは言えないんですが、90年代にはストリートにあったコミュニティーがネットの中で起こってるみたいな感じ)が見れたのが凄く面白かったんですよね。ある世界ではぺぺがヒーローに、別の世界では極悪カエルとなることで、本来はボンクラで凡庸なキャラクターのペペが扱い方によってどうにでもなってしまう(他にも、人の感情を代弁したり、金のたまごになったりもします。)という、そこに現実の世界が透けて見えて来るんです。相反する二つのものが両立してしまうのがネットで、それを許容しちゃってるのが現代社会ということなんだと思うんです。

で、これ、やっぱりペペのキャラクターというのが象徴的で。僕がこの映画に興味を持ったのってまずはペペの造形なんですね。キモカワイイというか、ポップなんだけどアンダーグラウンドな空気があって。もっと言っちゃうと、"ローファイ"とか"スカム"とか、僕が90年代にハマってたオルタナティブよりももっと細分化されたアンダーグラウンド・カルチャーの匂いがするんです。うーんと、正義でも悪でもない凡庸ではあるんだけどメイン・カルチャーとか世間一般に対して「知らねえよ。」ってスタンスを取ってる感じ。それが僕はカッコイイと思ってたんです。いや、というよりは、自分のその時の気分にぴったり来たと言いますかね(象徴的だったのはアメリカのインディーバンドでしたね。代表的なところだと、ペイブメントとかバット・ホール・サーファーズとか。)。

それで、映画の前半は、僕が90年代に感じてたカウンター的な精神って言うか、そういうものが今はネットの世界にあるんだなって感じで、ぺぺが出自の関係ない人たちの間で模倣されて行くのをワクワクしながら観てたんです。90年代の"ローファイ"とか"スカム"とかの精神性に感じてた、何とも表現しがたい倦怠感とか圧迫感を、キチンとすべきところをキチンとしないことでちょっと半笑いで(メインカルチャーに対して)反抗するみたいな感覚を(いまだにこういう精神性は好きなんですが。)。だったんですけど、それが今度は真逆の思想の場所で使われることになって行くんです。

つまり、権力側というか、トランプ元大統領のSNS担当者がペペをみつけて大統領選のキャラクターとして使うことになるんです(そこからオルトライトに繋がって行くんですが。)。そうなると、なんていうか、怖さというより切なさを感じるんですよね。さっきまで90年代の向こう見ずな空気を感じて親近感を持って見ていたその象徴が、今の空気に晒されるとこんなことになってしまうのかという。ペペに纏わるオルタナティブでローファイな精神性を感じ取れる様な人が、精神性はそのままに今は権力側にいるっていうか。最近、日本でもよくあるサブカルチャーとかオタク文化圏にいた人がそのまま権力を持ってしまったことによって、その精神性と権力側という立ち位置の折り合いがつかなくなってしまう様な状態。あの切なさを感じるんです。それをペペっていうボンクラ大学生をモデルにしたキャラクターを通して体現させられるっていうか。もう、ボンクラではいられないんだっていう寂しさですかね。僕らはもう大人になってしまったんだなということを改めて思い知らされるんです(この「時間の流れによって確実に何かが変わったな。」感、『シンエヴァ』のあの感じにも通じますね。)。

ただ、その寂しさや侘しさだけで終わってないのがこのドキュメンタリーの希望ではあるんですけど、ボンクラギークそのもののペペの創造主マットが立ち上がるところまでを映画は追うんです。なんですが、これなんか、正しくずっと非権力側で創作し続けて来た("ローファイ"や"スカム"の精神性ってことですよね。その)マットが、なんでこんな事故に巻き込まれなきゃならないんだっていう。まぁ、完全な貰い事故でも自分の身は自分で守るしかない。大切なもの守ろうとしたら闘うしかないっていう。そういう時代なんですね。今は。

ということで、そういう現代アメリカ(引いては世界)の闇の部分を見せる映画ではあるんですが、それをサイケでポップでスカムなカエルくんのアニメ満載にしてる(ぺぺがネットっていう世界を冒険してる様に見えるんですよ。)ところに監督のシリアスでクレイジーなセンスを感じますし、ぺぺを巡る世界に登場する人たちがみんな(良くも悪くも)強烈なキャラクター(特に実家の地下に引き篭もってるナード代表のアイツと、ぺぺのレア物売り捌いてむちゃくちゃ儲けてる仮想通貨のアイツ。)で最高に面白かったです。

サポート頂けますと誰かの為に書いているという意識が芽生えますので、よりおもしろ度が増すかと。