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【映画感想文】ドント・ウォーリー・ダーリン

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』で長編デビューしたオリビア・ワイルド監督(今作では、俳優として出演もしてますね。)の2作目。フローレンス・ピュー主演のSFスリラー『ドント・ウォーリー・ダーリン』の感想です(今回、まぁまぁネタバレかもしれませんので自己判断でお願いします。)。

はい、えー、ということで、オリビア・ワイルド監督の前作『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』は観てまして、女の子版『スーパーバッド 童貞ウォーズ』と言いますか、女の子やっちゃえやっちゃえ的なキラキラしたシスター・フッドモノだったんですが、今作は、その女の子たちが社会に出たら…とでも言うような、前作とは180度違う(女性が社会の中でどう扱われているかという点では同じですかね。)SFスリラーで、常識という壁を壊しまくっていた『ブックスマート』に対して、囲まれた壁に気づかずに閉じ込められるというお話でした。

で、まずは主演のフローレンス・ピューですね。僕はもう『ミッド・サマー』でその存在を知ってからのファンなんですが、今回、その『ミッド・サマー』以来の追い詰められ役っていうんですかね(クールじゃない感情爆発ピューが見れます。)。個人的には(『ブラック・ウィドウ』の時のような)強いピューも好きなんですが、久々の世界のいろいろなものを背負わされてその中に取り込まれていくピューを見れて満足ではあります(というか、この映画いろんなピューを見れるという意味ではかなり満足度が高いんですが)。ただ、『ミッド・サマー』で世界に取り込まれっぱなしになってしまったピューが、逆ギレしてその狂った世界から脱却するのを見れるのかと思ったら、そこまで行かないんですよね(ちなみに今のところの個人的No.1ピューは、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の"自由気ままな三女エイミー"ピューです。)。

えーと、映画としては社会派SFというか。ディストピアSFというか。近未来的な技術の進歩とそれに反比例するかのような思想の拙さを描いていて、それはよく分かるんですが。よく分かるというのは、まあ、こういう映画が他にも多々あるからなんですね(ジョーダン・ピールとかM・ナイト・シャマランとかね。僕が最初に思い出したのは『時計仕掛けのオレンジ』でした。ちなみにポスタービジュアルとか見ると『アイズ・ワイド・シャット』も思い出すんですが、もしかしたら、キューブリック的ディストピアってこなんでしょうか。)。だから、そういうのをやりたいという監督の気概みたいのは分かるんですけど、この手の作品に比べると少しクレイジーさが足りないというか。フローレンス・ピュー演じるアリスは夫と一緒に50年代アメリカ風の豪邸に住んでる(で、これは古き良きアメリカという幻想ってことな)んですが、そういう、かつてのアメリカが持ってた豊かさとか経済的な余裕から来る"輝かしい未来っていう幻想"。それを絵として見せるとこうなりますよねってことなんですけど(白い大きな屋敷とプール付きの庭があって、デカイアメリカ製の車を持ってるとか、全編に流れるアメリカン・ポップス然り。)、この世界が全く魅力的じゃないんですよ。いや、まぁ、ディストピアを描いてるんだから魅力的じゃなくていいのでは?と思うかもしれないんですけど、それこそ『時計仕掛けのオレンジ』なんかのディストピアなのに行ってみたくなるようななんとも魅力的な世界観(例えば『トータル・リコール』でも、例えば『ブレード・ランナー』でもです。)。その視点がないのが残念ではありました。ディストピアを描いてるのにそれを魅力的に描いてしまう監督の狂った感覚みたいなものが、個人的にはディストピア映画を観る時のひとつの楽しみでもあるので(だし、この映画はそれを魅力的なものだと思い込んで取り込まれているというお話なので、そこはめちゃくちゃ魅力的に描いて欲しかった。もしかすると、監督自身がこの手のものに全く魅力を感じていないということなのかもしれません。)。  

で、それならば、そこに気づいてしまったピューがその世界自体を破壊するのを見たかったんです(そうなると、僕の好きな弱い立場とされていた者が常識や慣習などをぶち壊してアイデンティティーを確立するというジャンルの映画になるんですけどね。監督としては、それは既に『ブックスマート』でやってしまっているので今回は…ということだったんですかね。)が、先にも書いたようにそこまでは行かないで物語は終わって行くんです。まぁ、そこのモヤモヤを楽しむ映画なのかもしれません。ただ、僕としては、あのカーアクション以降のピューの活躍こそを観たかったのです。


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