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【映画感想】死刑にいたる病

『凶悪』、『日本で一番悪い奴ら』、『孤狼の血』シリーズなどなどなど代表作の多い白石和彌監督ですが、その最新作で、23人の少年少女を殺害したシリアルキラーとそのシリアルキラーに魅入られる人々を描いたサイコサスペンス『死刑にいたる病』の感想です。

白石監督と言えば、とにかく多作で年に2~3本はやってるんじゃないかってくらいなんですが、振り返ってみるとジャンルも割とバラバラでいろんな作品撮ってるんですよね。それでも一定の不穏さみたいのがあって。そこに作家性みたいなものは感じるんですけど、白石監督の場合、それよりもほんのちょっとだけエンタメ性が勝つというか、初期衝動みたいなところで映画を作ってる感じがするんですよね。つまり、原作小説を読んだり、参考となる映画を観たりしたときに監督が感じた「これ、おもしろ~」っていうのが映画の最も表面に出てるような気がするんです。で、そのバランスの取り方が作品によって微妙に違って(例えば、『日本で一番悪い奴ら』は、もしかしたら警察内部っていうのはこうなのかもしれないっていうギリギリのリアリティが保たれていたし、『孤狼の血 LEVEL2』なんかは逆にこんな奴いねぇよっていう鈴木亮平さんが演ってた上林みたいなキャラが魅力的だったりしました。)、それがそれぞれの作品のジャンルというか、見方の方向性になってると思うんです。

で、そういう意味では今回の『死刑にいたる病』なんかは(ミステリーやサスペンスというより)完全にホラーで。監督が原作を読んだときの素直な「おもしろ~」がめちゃくちゃ出ていて(ていうか、こういう初期衝動で撮ってるから多作なんですかね。自身の感覚に忠実というか。)、たぶん、これって日本を舞台にした『羊たちの沈黙』をやりたかったんだと思うんですけど、原作読んだときに「これ、阿部サダヲさんでいけるじゃん。阿部サダヲさんの黒目で出来るじゃん。」、「日本版レクター博士やれるじゃん。」て思ったその時の感覚に溢れてるんですよね。映画が。で、それにはちゃんと怖くないとっていうとことか、この手の怖さっていうのがどうやったら担保されるかっていうところにもっとも注視されているので(例えば、阿部サダヲさん演じるシリアル・キラーの榛村のバックボーンが一切語られないとか。)、そういうところを押さえれば、榛村がなぜそんなことをしているのかっていう動機の部分とかはぶっちゃけどうでもいいっていう。そういうバランスの取り方になっていて、それがこの映画をホラーにしていると思うんですよ。そういうのが映画を観てるとビシビシ伝わって来るので割と納得させられるというか、それが白石監督作品の説得力になってると思うんですよね。

でですね、そういうフィクションの中での突出したキャラクターとしての榛村に対抗して出て来る岡田健史さん演じる雅也って大学生がいるんてすけど、この雅也がむちゃくちゃリアルなボンクラ大学生として描かれるんですね。で、ここで面白いのがこの雅也ってキャラ、観客に感情移入させる為に共感し安いキャラクターとして出て来てるのかと思ったらそうじゃないんですよね。どちらかというと混乱させる為というか、なぜ、こんな普通の大学生の子が榛村みたいなサイコパスに心酔してるのか、それが謎解きの様になって裏の物語を感じさせてくれるんです(だから、もちろんなんですが、ちゃんとストーリーも面白いんですよね。そこのところはたぶん原作にある謎解きとその解かれた謎が覆って行くどんでん返しっていうのをシンプルにやってるんだろうなって思うんですけど、それが可愛らしさというか映画の楽しさになってるんですよね。)。

なので、まぁ、白石監督の仕掛けて来る演出(阿部サダヲさんの黒目だとか、桜の花びらだとか、面会室でのもろもろとか)に完全に乗っかって観るのが一番だと思いますよ。それらは全部僕らを怖がらせてくれる仕掛けになってるので。そもそもホラーというのは、その世界を信じてそこにハマり込んで観た方が面白いのだということを(『ハングマンズ・ノット』とか『黄龍の村』の阪元裕吾監督と並んで)ひさびさに思い出させてくれるような非常に良いサイコ・サスペンス・ホラーでした。


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