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【映画感想】トップガン マーヴェリック

トム・クルーズが世に出るきっかけとなった1986年公開のトニー・スコット監督による『トップガン』。その36年振りの続編ということなんですが、それがちょっと尋常じゃないくらい評判が良いので、とりあえず観ておくか〜というテンションで観て来ました。『トップガン マーヴェリック』の感想です。

えー、でですね。あの、まぁ、僕も最初の『トップガン』観てることは観てるんですよ(確かテレビで放送されたやつ。)。で、皆さん言ってますけど、『トップガン』が公開された‘86年というのは、既にスプラッター、ホラー映画ブームというのが来てまして、『エルム街の悪夢』があり、『バタリアン』があり、『死霊のえじき』があって、『デモンズ』があって、『悪魔のいけにえ2』があって、『エイリアン2』も『未来世紀ブラジル』もあったわけです(『未来世紀ブラジル』はホラー分類ではないですが、当時の世相を反映して"こんなのいつまでも続くわけない。むちゃくちゃにしてやる"という感じで流行っていたスプラッターのその先を描いてる様で怖い映画ではありました。)。なので、僕としてはそっちを観てるわけです。つまり、『トップガン』みたいないかにもなハリウッド的スター映画とは正反対を行ってたわけなんです。でも観てるんですよ。そのくらい超絶ヒットしてたわけなんですよね(特に曲が。ケニー・ロギンスの『デインジャー・ゾーン』とかベルリンの『愛は吐息のように』とか。いまだにイントロ流れて来たら「あっ」てなりますもんね。)。嫌でも記憶に刷り込まれてるといいますか。そういう、あー、流行ったねってだけの映画だったわけです(で、それは当時映画好きだった人のほとんどがそうだったと思うんです。)。

80年代にはこの手のハリウッド製若手スター主演の派手な映画がたくさんあったんですね。『フラッシュダンス』とか『フットルース』とか。で、そういうのであれば(青春映画なので)、その頃の青春ていうか、若者を取り巻く雰囲気ってどうだったのかななんて気持ちでまた見返したくもなると思うんですけど、『トップガン』に関してはそういうものでもないわけじゃないですか。アメリカ海軍の戦闘機乗りの学校の話なんて、しかも、イケメンで天才パイロットが空中戦したりビーチバレーしたりする話なんて、あの時のあの狂騒の中でしか成立しないわけですよ(これは振り返って考えてみると、アンダーグラウンドがスプラッターで世界をむちゃくちゃにしてたのよりも更にオーバーグラウンドの世界では狂ったものが成立していたってことなのかもしれないです。)。だから、その映画の続編を、しかも36年も経った今なぜやるのか。正直、意味が分からなかったんです。なのにですよ。公開されたらむちゃくちゃ評判良いじゃないですか。僕と同じような趣向の映画が好きな人たちまで絶賛してて。しかも、その感想を聞いても何に感動したのかよく分からない…。じゃあ観るか…というわけなんですが、いや、これは面白いです。ていうか、こんなの面白いに決まってるじゃんという(腕の良いDJが大ネタの曲ばかりを掛けるので、そんなの盛り上がるに決まってるじゃんと思いながら踊ってたら最終的にはやっぱり音楽っていいなと思わせられるような)映画でした。

で、この手の盛り上がり方した映画って何年か前にもあったなと思ったんですけど、あれですよね、『マッドマックス 怒りのフューリーロード』。あの時の盛り上がりに似てるなと思って。恐らくあの手の面白さがあるんだろうとタカを括ってたんですが、もちろん、そういうところもあります。例えば、前作のイズムを守りながらも迫力を増したアクション(そして、そのアクションこそが映画のオリジナリティを最も表しているところ)とか、シンプルで分かりやすいストーリーとか(今回の『トップガン マーヴェリック』にしても『マッドマックス フューリーロード』にしても逆になんでこれだけの話なのに面白いんだろうかと不思議になるくらいシンプルです。)。だから、面白さとしては一緒なんです。『マッドマックス フューリーロード』と。ただですね、気持ちの上がり方というか、映画が言ってること自体は真逆だったんですよね(で、ここが今回の『トップガン』の一番面白いところでした。)。

えー、つまりですね。『マッドマックス フューリーロード』は、80年代当時はそれほど表面に出て来てなかった映画が持つ思想や哲学の部分を、アクションや暴力表現を描きながらも浮かび上がらせることによって、「これはおれたちの生き方に関する映画なんだ。」と思わせてくれたんですが、『トップガン マーヴェリック』の場合は、もしかしたらあったかもしれないその思想とか哲学の部分(ストーリーというか物語性さえも)を一切排除することによって、「おれたちが『トップガン』から受けた楽しさはこれだったんだ。」と思わせてくれたんです(だから、これはおれたちの映画ではなくトム・クルーズの映画です。そういう意味でアイドル映画という前作の思想を受け継いでるのかもしれません。トム・クルーズが魅力的だから面白いっていうね。)。しかも、当時トニー・スコット監督がやろうとしてたことを、余計なとこ排除してミニマルに追及することで「トニー・スコットってすげーことやろうとしてたんだな。」って感じさせるというか、映画の最後に"トニー・スコットに捧ぐ(トニー・スコット監督は2012年に亡くなっています。)"って出て来るんですけど、そういう前作へのリスペクトにも満ちているんですよね。両方ともオリジナルの作品が持っていたメッセージを緻密なアクションを見せることで伝えるという、本来の意味での映画の面白さを感じさせてくれる作品だったんです(つまり、理屈抜きに面白いってことです。)。

あと、もうひとつ、トム・クルーズを超人にすることで随所で「これはフィクションですよ〜」って言ってくれてて、それが現実に対する引っ掛かりを最小限にしてくれてるので、そういう意味で親切な映画だなと思いました。


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