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【映画感想】マトリックス レザレクションズ

はい、1999年に公開されて一代ムーブメントを巻き起こしたウォシャウスキー姉妹(この1作目の時はまだ兄弟でしたね。)監督の『マトリックス』第1作から22年、(3部作の)3作目『マトリックス レボリューションズ』から数えても18年の時を経て公開されたシリーズ最新作『マトリックス レザレクションズ』の感想です。

というわけで、まぁ、ほんとにめちゃくちゃ流行ってたのでもちろん公開時に観てるんですが、やっぱりあんまり理解出来てなかったんだなということが今回の『レザレクションズ』を観てよく分かりました。何と言いますかね、99年当時に観た時は、新たなSFの解釈というか、舞台となるのが宇宙でも他の惑星でも過去でも未来でもなくコンピューター世界という。これ、今となっては"メタ・バース"という言葉で現実の世界でも話題ですが、当時は"仮想現実"と言われてもいまいちピンと来てなかったですね。で、これ、こういうSFの中で描かれたことが後々現実の世界に登場するというのはこれまでもあったことでしたけど、シリーズ中に現実化して正しくそれが話題になってる最中に公開されるっていうのは初めてじゃないですかね(それだけでもこれを今劇場で観る価値は大いにあると思います。)。

ただ、そうやってSF上の設定だけで受け取られてしまうと、やはりちょっと、その設定を使って本当に言いたかったことというのが蔑ろにされるというか薄れてしまうというのもあり、更に、この『マトリックス』シリーズに関しては、思想的な部分でも真逆に捉えられて間違った解釈でアメリカの右翼集団のオルトライトなんかに使われてしまった(劇中でネオが真実に目覚める為に飲むレッドピルという薬が共産党カラーである赤だったからという言いがかりの様な理由ではありますが。)という経緯もあり、その本来『マトリックス』で言いたかったことが何だったのかっていうのをちゃんと、しかも、(1999年当時まだSFのひとつの設定でしかなかった世界観を)現状の世界の"現実"として伝えるというのが今回大きなテーマとしてあるんですね。だから、そう考えたら、ラナ・ウォシャウスキー監督(これまでずっと共同で監督してして来た妹のリリーさんは今回不参加です。何か思うところあって前作のNetflixオリジナルのドラマ『センス8』のシーズン2から映画制作が出来なくなっているらしいんです。)の思想的な戦いの映画でもあるんですよね。つまり、今回もの凄くラナ監督の個人的な話になっているというか、そもそも『マトリックス』というのはそういう話だったんだっていうのがめちゃくちゃ理解出来るんですけど。えー、それにはラナ・ウォシャウスキーという人がどういう人で、どういう人生を送って来たかってことが重要で、じつは、それが作って来た映画を振り返ったらかなり詳細に描かれていたというわけなんです。

『マトリックス』3部作の後に監督してるのは、『スピード・レーサー』、『クラウドアトラス』、『ジュピター』、Netflixオリジナルドラマの『センス8』があるんですけど、重要なのは『クラウドアトラス』と『センス8』だと思うんですね(恐らく『スピード・レーサー』と『ジュピター』は個人的な映画を作ってしまったことへのバランス取りの様な作品なんじゃないかと思うんです。『スピード・レーサー』は日本の漫画『マッハGoGoGo』の実写リメイクだし、『ジュピター』は割と良くあるスペース・オペラ・ファンタジーというかね。好きなものを描いてるとは思うけどそこに自身を投影してるという感じではないんですね。両方とも。)。特に『センス8』に関しては、最早ウォシャウスキー監督そのものというか。複数の登場人物をひとりの俳優に演じさせた『クラウドアトラス』で、同じ魂が違う人生を体験するということを描いたあとに、『センス8』で別々の人生を生きる人たちが意識下においてひとつになるということを描いていて。これって、ラナ監督がラリー・ウォシャウスキーからラナ・ウォシャウスキーとなり、同じ魂で違う人生を体験したということと、その体験を経て新しくなった価値観で世界がどう見えたかっていうのを踏襲していると思うんですけど(『センス8』、特にシーズン2は観てるとほんとにこれまでそうだと思い込んできた価値観を一回リセットされた様な感覚になるんです。『センス8』に関してはpodcastの『映画雑談』の方↓でいかに凄いかということを、おっさん4人できゃっきゃしながら語ってますので是非聴いてみて下さい。)、その新しくなった価値観で『マトリックス』世界をアップデートしているのが今回の『レザレクションズ』なんですよ。

で、更に翻って、その流れで最初の『マトリックス』がなんだったのかということを考えると、現実の社会(誰かによって作られた世界=マトリックス)への違和感と、その世界で生きる個人の心(自分自身が作り上げた正直な世界=ザイオン)の物語なんですよね。そこでは、まだトランスジェンダーであることをカミングアウト出来てなかったラナ監督のマトリックス(現実の社会)に対する違和感だけが描かれているんですけど、今回の新作でネオとトリニティがマトリックスに対してなんて言ってるかというのが今作のキモで、違和感→経験→新たな価値観と来て、アップデートされた現在進行形の"マトリックス"="ラナ監督の現代社会に対するメッセージ"、ここに映画が行き着いてる時点で個人的には全肯定です。今回の『レザレクションズ』(まぁ、それにプラスして、過去3部作のお祭り的サービスや、世代交代的に描かれるバックスや新モーフィアスや新スミスが最高ということや、『センス8』ファンには堪らないキャスティングや、年老いたネオとトリニティを自然に年相応に見せてるのとか、革新的とか斬新さとか以前にいろいろ最高でした。)。

あ、あと、『映画雑談』の方で取り上げることになったのでそっちでもろもろしゃべるとは思うんですけど、『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』(まぁ、これも傑作なんですけど!)とメタ・バース(=マルチ・バース)的なところでテーマ的に近いんですけど、『ノー・ウェイ・ホーム』の後悔してることに決着を着けるという物語に対して、決着を着けた上で更に先を見据えるということでストーリーの描き方としては『レザレクションズ』の方が僕は好きかもしれないですね。

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