クワイエット・プレイス
はい、賛否両論あるらしいですが、そりゃそうだろうというか、そもそもホラー映画というのは実際にはありえないシチュエーションを無理くり作っているので、そこに納得いかない設定が出て来るのは当然と言えば当然。僕は、それを気にさせないだけのエモーションがあればいいと思っているんですが、今作品の場合、気になるところはめちゃくちゃあったが、そういうとこも肯定的に見たくなるくらいには好きにさせてくれる要素も多いにあると思っています。音に反応して人間を襲って来るバケモノとある家族の攻防を描いたホラー・サスペンス「クワイエット・プレイス」の感想です。
えーと、観てない人には何のことやらとは思いますが、いろいろ詰めの甘いところがあるのは事実で、(これは予告でもやってるのでネタバレではないと思いますが、)まず、あの状況においての妊娠出産問題に始まり、どの位の音で気づかれるのかが割と曖昧、音出したら死ぬって状況を描いてるのにBGMやSE多様(あんまり無音がない)、そういうことなら滝の近くに住めよ!などなどね。上げていけばキリがないくらいにはツッコミどころはあるんです。ただですね、これは「日常生活において音を出してはいけない。」というシチュエーションを宣伝に効果的に使いすぎたせいじゃないかなって気がするんですよね。確かに「音を出してはいけない。」というのがこの映画の唯一の決まりごとで、そのワンアイデアで物語は進んで行くんですが、それはあくまでもシチュエーションのひとつに過ぎないんです。つまり、「エイリアン」の舞台が宇宙だった様に、「プレデター」の舞台がジャングルだった様に、そういう舞台立てのひとつなんですね。(舞台が宇宙だからといって、劇場を真空にはしませんよね。つまりはそのくらいの)舞台としてのお約束程度の解釈だと思うんですよ。だから、別に音を出したら必ず死ぬってわけでもないんです。どちらかというと、そのバケモノが盲目という方が理由としては大きくて。つまり、目が見えないから不自然に立てられた音に敏感に反応する。(怖いからなのか、何か別の理由があるのかは分かりませんが、)その音の元を絶ちにやって来るって印象なんですね。なので、この映画に対する批判というかツッコミのほとんどの部分が「あれ?思ってたのと違うじゃん。」ってことだと思うんです。(だから、それはミスリードさせた宣伝のせいだと思うんです。)
つまり、「イット・フォローズ」とか「ドント・ブリーズ」みたいなニューウェーブ・ホラーを期待して行ったら、割とオーソドックスなホラーサスペンス(特に演出に関しては90年代的、「it /イット」とか「スクリーム」シリーズとか、そして、何と言ってもシャマラン映画に近かったんですよね。だから、普通にホラー演出としてBGMなんかも流すんです。)だったって感じだと思うんですね。しかも、そのバケモノ、あ、さっきから書いてる、このバケモノってやつなんですが、宣伝コピーの"音を立てたら、即死"の即死の部分ていうのは音に反応する謎のバケモノに狩られるってことなんですけど、この部分も映画の中では別に謎にはなってないですからね。割とすぐにこのバケモノ出てくるので。だから、「ミスト」の様な "真実はいかに" って映画でもないんです。この辺も「思ってたのと違った」部分だと思うんですけど。じゃあ、この映画の面白さって何なのかって言われたら、僕はストーリーの描き方が凄く上手いなと思ったんですね。人間(家族)が極限状態に置かれた時にどうするのかっていうのを凄く自然に描いてると思うんです。まぁ、そこのところの描き方がいろいろツッコミどころになってるとも言えるんですけど。(つまり、同じところを観て面白いとなる人とこれはちょっととなる人がいるんだと思うんです。)
そのバケモノの襲来からなんとか逃げ延びたある家族がこの映画の登場人物なんですけど、全編通してほぼこの家族しか出て来ないんですね。なので、映画内世界の情報はこの家族から得るしかないんです。でも、音を立ててはいけないという設定があるので、会話をすることが出来ない。(恐らく会話らしい会話って5箇所くらいしかないんじゃないですかね。)つまり、今、どういう状況にあるのかっていうのが断片的にしか分からない様になっているんですね。だから、よく分からない状況の中で突然何かが起きる。この緊張感なんです。これが90分続くんです。このワンアイデアだけで全編貫かれてるってだけでそれはもう凄いと僕なんかは思うんですけど。だって、普通に考えたら、ワンシチュエーションで、ひとつの家族だけの話で、台詞による説明が出来ないって状況でどうやってもつと思います?普通もたないですよね。だから、この映画、音を立ててはいけないっていうプロットを中心にして、そこから思いつく様々なエピソードを片っ端からぶち込んだ様な構成になっているんですけど、それが全部ストーリー上の緊張感に繋がっていってるんです。ストーリーの緊張感を持続させる為に入れられたエピソードがちゃんとドラマとしても機能しているんです。(長女の聴覚障害のくだりとか、長男が超ビビリってとこなんかもですね。ドラマとして感情移入出来るポイントがちゃんと用意されてるんですよね。)これ、観ててスムーズで凄く上手いなと思ったんです。
あと、"音を立てたら死ぬ"ってシチュエーションがやっぱりちゃんと怖い。突然殺される恐怖って凄く根源的なものなんだなと思いますよ。謎のものに意味なく殺されるってほんとに嫌ですね。で、もう一点、この映画もの凄く怖いんですけど同時にワクワクもして来るんです。このワクワクは何なのかなと思ったんですが、"音を出したら死ぬ"っていうシチュエーション、これ、みんな一度は思いつくことなんじゃないかと思ったんです。子供の頃とか、ひとり遊びしてる時に、「今から音立てたら死ぬ。」って考えて遊んだことないですか?(僕はあります。ていうか、しょっちゅうやってました。)あの遊びの時のワクワク感、それがこの映画にもあるんですよね。だから、台詞もほとんどなく、説明もなく、ツッコミどころも多いのに何となく心情的に分かってしまう(例えば、この状況下で子供を作って産むというのも、理屈としてはめちゃくちゃだけど心情としては分からないでもないと思うんですよね。)って感じるのって、この"音出したら死ぬ"っていう極限状態を(遊びとは言え)みんなが経験してるからじゃないかと思うんですよ。つまり、この手の恐怖って人が根源的に好きな恐怖感なんじゃないですかね。それをヘタに複雑なドラマにしないで、オーソドックスに、来るよ〜、来るよ〜、ホラ怖い〜!!ってやってくれてるのが良かったんだと思うんですよね。(だから、この映画に批判的な人って、この手の遊びのルールにも超厳しかった人なんじゃないかなと思います。)
あと、ここも賛否両論らしいですが、ラストカット、僕はもの凄い良かったです。(あ、やっぱりこっち側の映画だったかと思いました。)
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