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【出版のミライ⑯】コンテンツの有料・無料の先の仕組みが重要

メインコンテンツを無料にするという試みが世の中にも、少しずつ広がってきていますが、そのビジネスモデルの活かし方について考えてみました。

こんにちは!エッセンシャル出版社の小林です。

私が、”本づくり”をしていく上で、日々、どのようなことを考え、どのような目的で本をつくっているか、記事風に残していきたいと思います。

【プロフィール】

大学卒業後、年中~小学校6年生までの子を対象とした塾、花まる学習会に入社。将来メシが食える大人になること、魅力的な人になるということを教育理念の事業で、授業や野外体験の引率などを行う。授業など子どもたちに関わる傍ら、広報部、講演会事業、ブロック責任者などあらゆる業務にも携わる。現在はエッセンシャル出版社で、本づくり、広報など、出版業に関わる全てに携わる。
エッセンシャル出版社: https://www.essential-p.com/

「メインコンテンツが無料で周辺コンテンツが有料」という考え方に、世の中がシフトしてきている気がします。例えば、ミュージシャンで言えば、お金を払わないと音楽が聴けないのではなく、音楽自体は無料で聴いてもらって、ライブに行くときにお金を払うような仕組みも、その一つだと思います。絵本の内容を全て無料で公開して、いい絵本だなと思ってもらってから、購入していただくというのも同じような考え方です。

絵本「えんとつ町のプペル」を無料公開した西野亮廣さんは、「絵本」というメインコンテンツの周辺ビジネスで収益をあげるというビジネスモデルをとっているそうです。メインコンテンツが有料で、周辺ビジネスが無料というモデルよりも、この方が広がり、収益率がいいという思考実験の結果をもとにした考えらしいのです。

また、無料で(情報・音楽)を提供されたもので満足するという層もいます。その場合は、提供者が損をして終わるのか?というと、そうでもないのです。例えば、ユーチューブでは、ある一定層のチャンネル登録者がいて、広告をつけられるようであれば、再生回数が伸びる(音楽を無料で聴いてくれる人がいる)だけで、収益化もされるようになっています。

今、いろいろなビジネスモデルのパターンが生まれてきているのだということを考えると、「メインコンテンツが無料」がいいのかどうかということよりも、どの様な仕組みでビジネスをするか、ということが問われているような気がしています。

例えば、人気インフルエンサーの通称イケハヤさん(イケダハヤトさん)は、電子書籍を制作した際に、一定期間、0円にして無料でダウンロードしてもらえるようにしています。その理由は、無料で読んでもらうことによって、Amazonの電子書籍の検索上位にあがってくるようになる、そして有益な感想を書いてもらうことによって、電子書籍が有料に戻ったあとも、ある程度、検索上位をキープできるということのようです。

彼の制作している電子書籍は、既にユーチューブや音声コンテンツで発信している内容をまとめているものなので、そこまで制作や準備が大変ではないということ、更にイケハヤさんがインフルエンサーとして活躍されていて、フォロワーが一定数いるという点でも、この戦略には、優位性があるのではないかと思います。


先ほど、絵本『えんとつ町のプペル』の無料公開について少し触れましたが、西野さんが考えている戦略・仕組みについて、補足します。

西野さんは、絵本を主に購買する層である、お母さんたちは絵本の内容を知ってからでないと買わない、だからこそ自分が読んできた何十年も前の絵本が廃れずに残っていて、新しい絵本が売れにくいという視点から、Instagramで絵本を全部公開したそうです。まず全部読んでもらってから、良ければ買っていただく、そうした方法を取ることによって、結果、絵本は通常の新人作家の絵本とは桁違いに売れたそうです。
さらに、絵本というのは「読み聞かせ」をされるという特徴があるので、「紙であるからこそ価値があるもの」という点も相まって、売れた可能性があるということです。また、絵本の内容を知っている人が増えることによって、たとえ、絵本を買わなくても、絵本を原作にしたミュージカルには足を運ぶという人もいるでしょうし、ビジネス的視点に興味があり、絵本の購入者から一番遠い層である20代男性向けには、この絵本についての裏側(マーケティング戦略など)を書いたビジネス本を販売することで、それを読んだ人が、次に、「絵本も買ってみよう」となるような動きを作り出したそうです。そうすることで、普段、絵本を読まない新たな層へのアプローチにも成功しているとも言えます。

この西野さんのメインコンテンツの無料公開は、「買う決め手」という意味でも効果があったと思いますし、周辺ビジネスがしっかりと用意されていることによっての、周辺ビジネスの広告効果にもなったのではないかと思います。

一方で、ブログやユーチューブなどで、情報を無料で発信し、そこにファンがついている人の本をまとめて書籍にするという流れも、今、活況です。それは、先にファンづくりをしていることにより、最初からある程度の需要があり、購入する層が明確になっているところへ向けて、書籍をつくるという戦略です。「書店に置く」ということよりも、インフルエンサーが発信した方が売れる率が上がるというこの時代、出版社と著者の関係が逆転しているようにも見える方法です。

私も、YouTubeをみたり、ブログを読む視聴者として、勉強になる発信者の情報が一冊の本にまとまっていたらいいなと思います。これは私の意見ですが、勉強になる、ステキな考えだと思うという以外に、そもそも「発信者自身を好き」という気持ちがあると、ファン心理として「購入」という行動にまで結び付きやすいのではないかと思っています。「有益な情報がもらえたらそれでOK」という考えだけでは、YouTubeを見たり、ブログを読むという点で事足りているともいえるので、その先の「所有したい」「何度も読みたい」という風になるための一手が、更に必要なのではないかと思うのです。

これからは、ますます、「情報」の質こそに価値が出るし、「個」の時代にもなっていくと言われています。そして、「個」の時代だからこそ、大きな「組織」というよりは、信頼や共感をベースにした「チーム」が求められていくという見方もあります。

このように時代が大きく変わり始めている現在、出版社も今までのような書籍の作り方に縛られず、さらに「書籍をつくる・販売する・広める」ということだけに、主な焦点を絞って考えるのではなく、

そもそも、
書籍をつくる目的は何なのか?
この書籍を出版する目的は何なのか?
その目的を達成するためには、「書籍」をつくる以外のどんな働きが必要なのか?
といった、原点的なことや、周辺のことも、あわせて考えをさらに深めていく必要があるのかもしれません。



想いを込めて作った書籍を応援してもらうことに繋がり、大変嬉しく思います。 また本が売れなくなっているというこの時代に、少しでも皆様にお伝えしたいという気持ちの糧になります。