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てるてる頭の天使てんこちゃん①

てんこちゃんは、てるてる坊主頭の天使です。
なぜ、髪の毛がないの?

それはね。
夜に貸しているから。

実は、
てんこちゃんの髪の毛はとってもきれいな夜色なんだ。カラスの濡羽色とも言う。

夜はね。
とっても貪欲なんだ。
何もかも欲しがる。

特に最近、それが強まってる。
この前なんか、黒猫が黒をとられて、白猫になってたし、虎もシマシマをとられたそうだよ。本は文字がぜんぶ消えて真っ白。

みんなとても困っている。

「私が貸したらほかはとらないと約束したのにな」とてんこちゃん。

夜の主を見たものは誰もいない。

それは星ひとつない夜だった。
てんこちゃんのところにキリンに乗った使者が訪れたのは。
「あなたはだあれ?」とてんこちゃんは言った。
「夜の使者ですよ」
「何だか会ったことがある気がするわ」
「ああ、いつもは月をしてるから。今日は非番だから夜を手伝っているのです」
「なんの御用?」
「その美しい髪をいただきたいのです」
「そんなの、いやだわ」
使者はそっとてんこちゃんに耳打ちした。
「夜は何でもほしがります。世界からすべての黒を奪うと」
「貸すだけじゃだめ?」
「それで手を打ちましょう」
「皆からとらないでいてくれる?」
「安心してください。うまくやりますから」
使者はぱちんとウィンクした。

そうして、てんこちゃんは、てるてる坊主頭の天使になった。

「月はちゃんと言ってくれなかったのかなあ」とため息。

「ねえ、サン。夜の主はどこにいるの?わたし、お願いに行ってくる。みんなに黒を返してって」

「そうさなあ」
太陽のサンはしゃがれた声で言った。
サンは、朝に生まれて夜までに年をとる。
「おお、思い出したよ。あの方は、西の果てにいるよ。一番星に向かって飛んでごらん」
そういうと、サンは、水平線に溶けていった。
てんこちゃんは、涙をそっとぬぐった。
てんこちゃんは、毎日、夕方になると悲しくなる。
サンは、明日の朝また生まれるけど、今日お話ししたサンはもうどこにもいないから。

てんこちゃんは、一番星に向かって飛んでいく。
「いつもは、ちょうちょみたいに飛べるのに、夜の空は、黒い絵の具をお鍋でぐつぐつ煮詰めたみたい。どろんとして、羽が重たいわ」

「おーい。おーい」
一番星の方向から声がした。
星に近づくほど光が強まり、目を細めても、眩しくてよく見えない。
「誰かしら」

(続く)

この物語は、
KeigoMさんのイラストにインスピレーションを得て、書きました。許可をいただいた上でイラストを掲載しております。
さあ、てんこちゃんは、夜から黒を取り戻すことができるのか?
てんこちゃんに呼びかけたのは一体誰なのでしょう?



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