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想い出のイーティアム

ご覧いただきありがとうございます。
30年以上前、東京都多摩市にあった夢のようなカフェレストラン、イーティアムについて書きました。(覚えているがいらっしゃれば嬉しいな)
閉店してからも、ふとした時に心のなかで通い続ける想い出の場所です。




イーティアムに行きたい。
無理だとわかっていても行きたい。


色鮮やかなクラシックカーに乗ってリッチな気分に浸り、プラネタリウムみたいなバーでハイボールを飲みたい。



いまなお心をつかんで離さない場所。
誰にでもそういう場所はあると思う。


母に連れられ初めて訪れたとき、私は4歳くらいだった。大きな球体を乗せた外観から、ただならぬ気配を感じた。ここにはいったい何があるのだろう?店内に入ると美しいクラシックカーが並んていた。車にまったく興味がない私も魅了され、「触らないでください」の札もロープもないのをいいことに、年の近い女の子と一緒にドアを開けた。つやつやピカピカの革張りのシートは、最高の乗り心地だった。(当時のご責任者様、大変申し訳ございませんでした)



2度目は父と二人、土曜日の午後だった。プラネタリウムみたいなバーは空いていて、アイスクリームを食べながら母の仕事が終わるのを待っていた。昼間でも、天井には無数の星が輝いている。星空の下でバニラと煙草のにおいが混じりあう、保育園では味わえない空気。ハーゲンダッツのバニラを食べると、今でも煙草がかすかに香る。イーティアムは幼児にとって強烈だった。



「お母さんに電話してくるから、じっとしているんだよ」



公衆電話に向かう父を見送って、私はゆっくりと立ち上がった。カウンターのバーテンさんと目が合うけど、気にしない。ガラス張りの床の下は照明になっている。ライトアップされてみたい。乗っても大丈夫かな?いいや乗っちゃえ。おお割れない!ガラスなのにすごい!!星降るバーを、幼児なりにエンジョイした。



「じっとしていないとダメでしょう!」



叱る父をよそに、いつか綺麗なお姉さんになってステキな彼氏と一緒に来られますように!と流れ星に願った。


その願いは叶わなかった。私が綺麗なお姉さんになれなかったからでも、ステキな彼氏を作れなかったからでもない。イーティアムは消えてしまったのだ。


妹が生まれてしばらく行けないうちに、大きな球体も、おしゃれなガラスの窓も、跡形もなくなっていた。父も母も私もショックだった。イーティアムを知らない妹だけがキョトンとしていた。


新卒で営業として働き始めた時、偶然付近を通りかかった。そういえば昔この辺に…となんとなく上司に話してみたら、彼が叫んだ。


「イーティアム!まちこさんそれ、イーティアムだよ!!」


イーティアム?そういう名前だったっけ?大好きだったのに、いつの間にか名前を忘れてしまっていた。


「懐かしいなぁ。イーティアムはね、僕が学生の頃はこのあたりのデートの定番だったんだよ。あの頃はね、学生でもマイカーを持っていた時代だったからね。よく行ったよ…」



目的地に着くまで、上司はいきいきと思い出を聞かせてくれた。


せっかく名前を思い出したので、手がかりを調べ始めた。人気のデートスポットだったのなら、ガイドブックとか資料が残っているはずだ。インターネットの波に乗ってたどり着いたのは、国立国会図書館の蔵書と個人ブログの記事。国立国会図書館は平日しかやってない。ブログには上司のようにデートの思い出が綴られていた。彼の言う通り、デートの定番なのは間違いなかった。(私もイーティアムでデートしたかった)


そこからさらに十数年がたった今、ついにイーティアムと再会した。特集記事が載った当時の雑誌を手に入れることができたのだ。すごい偶然。ラッキーだった。ドキドキしながらページをめくると、特徴的な外観が飛び込んできた。誌面越しでも、また会えて嬉しい。今はもうないけど、元気だった?と言いたくなってしまう。写真を見ると、母の顔もほころんだ。記事を読んで、あったあった~!えー、そうだったの!?と盛り上がった。


相変わらずあなたはステキだね、イーティアム。これからもずっと、私と誰かの心のなかで輝きつづけてね。



最後までお読みいただきありがとうございました。

イーティアムは本当にステキなお店で、きっとたくさんのファンがいたと思います。

次回は資料紹介で簡単に足跡をまとめます。ご家族やご友人との思い出話のきっかけになれば幸いです。

ステキな空間と時間を作り出してくれたすべての関係者様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。


イーティアムの特集記事が載った雑誌についてはこちらからどうぞ↓


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