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「完全雇用を達成するまで」とはいつまでか?

 12月17日付の日経新聞に、FRBの議長が「完全雇用を達成するまで債券の保有維持する」と表明したことを報じる記事がありました。記事のWebページに記載された動画では、議長自身が「これはパワフルなメッセージだ」と発言しています。

#日経COMEMO #NIKKEI

 気になるのは「完全雇用が達成されるまで」とは一体いつまでか、ということです。

 そもそも一国でどれだけの財・サービスが生産できるかを決定づける主な要因は、物的資本と労働です。

 物的資本とは、工場設備やコンピューターなどを指します。主に企業による設備投資によって、その規模が拡大し、より活発な生産活動に寄与するものと考えられます。ただし、物的資本は比較的短い時間に変化することはありません。例えば、企業が工場設備を新設するには一定の時間を有する事は想像に難くありません。

 労働とは、働くことができる人々がどれだけいるかを示します。人々は目の前に提示された時給が、その1時間を違う用途に費やすのよりも得だと思えば、働くことを選ぶでしょう。対して、企業は人々を雇用することで得られる売り上げの増加が、時給に似合ったものならば雇用量を増やすと考えられます。彼らの意図の兼ね合いで労働は決定されます。

 問題の完全雇用とは、働きたいと思う人々は全て雇用されている状態です。つまり「完全雇用が達成されるまで」とは「人々を雇用することで十分な売り上げの増加が期待でき、企業が雇用量を増やそうと考えるようになるまで」と読めます。

 何が起これば、企業は雇用量を増やそうと考えるでしょうか?

 まず、仕事の経験を積んだり、資格を取得したりして、より企業の生産活動に貢献できるようになるほどに、人々のスキルが上昇することです。実際、企業としてはより優秀な人材は雇用したいと考えるでしょう。ただし、経験を積むにしても、資格を取得するにしても、一定の時間がかかります。

 または、物的資本の規模が拡大することも挙げられるでしょう。例えば、企業が工場設備を拡張したならば、人手が必要になります。ただし、前述のように物的資本の変化には一定の時間がかかります。

 時給賃金が下落することも考えられます。実際、企業の賃金支払いの負担は軽減し、より雇用量を増やすと考えられます。しかし、労働組合が交渉力を持つような企業では、強い反発を受けるでしょう。また、労働契約によっては賃金の改定ができない場合もあります。政府が賃金を適切な水準に直接規制するにしても、議会に法案を提出してから可決されるまでには一定の時間がかかることが予想されます。

 いずれにしても完全雇用が達成されるまでには、それなりの時間を要するものと考えられます。それほどの長い間、金融政策に一定の姿勢を貫こうと言うのですから、議長が「これはパワフルなメッセージだ」と言うのも理解はできます。


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