「商品・サービス開発プロジェクト」最終発表会レポート/前編
「これからの地域を支えるデザイン経営」を本気で学ぶ場所として、2023年にスタートした越前鯖江デザイン経営スクール。半年間をかけたメインプロジェクト「商品・サービス開発プロジェクト」がいよいよ終盤を迎え、2024年3月2日(土)に最終発表会が開催されました。
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当日は参加事業者4社のチームによる成果発表と展示会、デザイン経営に精通するゲストによるトークが行われました。本記事では、その様子をお届けします!
最終発表会
半年間のプロジェクトの集大成となる最終発表会。雪の降るなか、約150名が来場しました。また、越前市・鯖江市両市長も参加されるということで、チームメンバーはより一層気合いが入ります。
沢正眼鏡チーム
最初の発表は、沢正眼鏡チーム。チームメンバー全員が沢正眼鏡の眼鏡フレームをつけてプレゼンに臨みます。
沢正眼鏡は鯖江市で約70年続くプラスチック眼鏡フレームメーカー。200以上ある眼鏡の製造工程のうち、組み立ての約20工程を担当しています。従業員数は9名で、平均年齢は60歳。
「国内眼鏡フレーム生産の9割以上を占め、労働人口の6人に1人が眼鏡産業に従事している鯖江市にとって、眼鏡産業はなくてはならない存在です。しかしながら、職人の高齢化や後継者不足によって、鯖江の眼鏡の技術が途絶えてしまいます」と、澤田専務は危機感を募らせます。また、眼鏡産業の事業者数は減少傾向にあるものの、出荷額は増加傾向にあり、1事業者あたりの負担が増えていることを指摘。
そこで沢正眼鏡チームは、「『地域』で『眼鏡』をつくる。『眼鏡』で『地域』をつくる。」というビジョンを掲げ、
①社内の雇用の受け入れ体制を整える
②地域の住宅支援
の2つに取り組むことにしました。眼鏡会社が雇用と住まいを用意することで、産地に新たな担い手を呼び込み、産業を長く続けられる仕組みをつくることを目指します。
具体的な取り組みとして、以下の4つを提案。
これらの提案を従業員にも共有するために、専務の入社以来初となる社内ミーティングを実施。従業員の皆さんと意見を交わし、協力していただけることに。
「産地の新たな担い手づくりには、自由な働き方を受け入れることが大切です。若い人たちの複業的な働き方を受け入れたり、年配の従業員が長く働けるための勤務体系をつくったり。そうすることで、技術の継承期間を延ばすことができるはず」と澤田専務。小さな取り組みを積み重ねることで、気持ちよく暮らし、働ける環境をつくり、その循環が地域全体に広がっていくことを目指します。これが「新しい技術継承のあり方のデザイン」なのだといいます。
最後は澤田専務による宣言で締めくくります。
「沢正眼鏡 家を買う。」「佐野くん その家の 管理人になる。」
チームメンバーの井上さんによる、空き家の改修案もお披露目。「重要なのは、競争<共創。共に豊かな産地をつくっていきましょう!」と澤田専務。
産地への熱い想いがこもったプレゼンでした。今後の眼鏡産業の変化が楽しみです。
曽明漆器店チーム
続いては、曽明漆器店チームの発表です。テーマは「問屋の可能性と新たな価値づくり」。曽明漆器店は、卸業をメインに商品の企画・販売も行う創業101年の漆器問屋です。
まずチームが取り組んだのは、会社のビジョンの策定。話し合いを重ねて決まった「つくり、つたえ、つなぐ」というビジョンをもとに今後の活動を進めます。続いて、漆器倉庫を見学したチームメンバーは、倉庫に詰め込まれたデッドストックの多さに衝撃を受けます。完成品だけでなく半製品や木地などのさまざまな在庫品があり、その数はなんと約22,000個!金額にして約4,500万円の在庫が眠っていることが判明したのです。
大量の在庫が曽明漆器店の業務を圧迫しており、産地の他の漆器店も同じ悩みを抱えている現状を知ったチームメンバーは、在庫問題の解決に取り組むことにしました。安売りされがちなデッドストック品を本来の価格で販売できないか?と知恵を絞ります。
そこで誕生したのが、「一期一会マーケット」。リアル開催のマーケットにすることで、産地の雰囲気や漆器の質感をダイレクトに感じてもらい、購入につなげたい考えです。また、デッドストックが持つストーリーや特徴を伝え、お客さまと地域をつなげることを目指します。
プロジェクト期間中に一期一会マーケットを2回開催。12月に本社スペースで開催した「お正月編」では、個性が際立つポップでの紹介や、お菓子を盛り付けるなど漆器の新たな使い方の提案も見られました。計8時間の来場者数は19名、売上は約13万円と、手応えを感じる結果となりました。
また、2月に開催した「倉庫編」では、
・お客さんが読んで理解できる「漆器プロフィール」の作成
・木地の本格販売
・他社のデッドストック販売
などコンテンツを工夫し、6時間の来場者数は約260名、売上は約29万円という結果に。
4代目の曽明晴奈さんは、「在庫の山は宝の山でした。ビジョンや思いを大切に半年間活動してみて、問屋が産地に貢献できることを実感し、自社以外の方と仕事することへの不安が減少しました」と半年間の変化を振り返ります。
プロジェクト終了後も、一期一会マーケットを引き続き開催する予定です。チームメンバーがいなくても継続できるように、マニュアルや年間計画を作成します。今後は産地のカフェとのコラボや「漆器コンシェルジュ」サービスの実施を検討しているのだそう。問屋の可能性と新しい価値づくりに向けて、曽明漆器店の挑戦はこれからも続きます。
小柳箪笥店チーム
続いては、小柳箪笥店チームの発表です。テーマは「産地の伝え手になる」。小柳箪笥店は創業100年以上の越前箪笥工房で、4代目で伝統工芸士の小柳範和さんと5代目の小柳勇貴さん親子でプロジェクトに参加しています。
越前箪笥は、指物・金具・漆塗りの技術を使った伝統工芸品。堅牢な作りで100年以上使えることから、近年では嫁入り道具としても愛されてきました。しかし、ライフスタイルの変化により箪笥の需要は縮小傾向に。また、産地の職人の高齢化も課題になっています。「越前箪笥の職人は60歳以上の一人親方が多く、30年後には越前箪笥の技術が途絶えてしまう」と4代目の範和さんは危機感を抱きます。
そんな厳しい状況のなか、後継ぎという選択をした5代目の勇貴さん。技法の継承だけでなく、経営の視点から新しい産地のあり方を考えたいと思い、今回のプロジェクトに参加したのだそう。
チーム内でヒアリングやディスカッションを通して見えてきた課題は、以下の2つ。
・4代目の範和さんの制作時間不足
・箪笥や産地の魅力と価値がうまく伝わっていない
これらの課題に対し、小柳箪笥店が受け継いできた「あつらえる」の精神を大切にプロジェクトを進めます。
新しいあつらえの形として、3つの取り組みを提案します。
①人材育成…5代目が広報や営業をサポートすることで、4代目が制作や人材育成に使える時間を増やし、若手職人の育成・独立を促す。「産地と未来の職人をつなげる」
②商品開発…5代目が小柳箪笥店と新規顧客やアーティストをつないで商品開発を行うことで、越前箪笥の認知度を上げる。「お客さまにものをつなげる」
③周知ツールの作成…「百年箪笥研究所」という冊子を制作し、越前箪笥や小柳箪笥店を知ってもらうきっかけをつくる。「職人の思いをお客さまにつなげる」
5代目の「あつらえる」の形は「繋ぎ手としてつくる」ことだといいます。
最後は、5代目の勇貴さんによる決意表明。
「私は、箪笥の伝道師になります」
「子どもの頃、祖父と父が朝から晩まで働き続けている様子を見て、幼いながらこの状況を改善しなければならないと思いました。私は手先が不器用で職人には不向きかもしれません。そこで、経営という切り口から小柳箪笥店と産地を支えたいです」と勇貴さん。
産地の伝え手として、新たな一歩を踏み出した小柳箪笥店チーム。今後の動きにも注目が集まります。
越前セラミカチーム
最後の発表は、越前セラミカチーム。全員がおそろいのユニフォームを着て発表に臨みます。
「越前瓦の風景を守る」というミッションを掲げる越前セラミカ。越前瓦は越前の土を使った、耐久性や断熱性に優れた製品です。しかし、新築住宅では金属屋根への移行が進みつつあり、瓦市場は縮小傾向にあります。瓦のある風景を守りたいという石山社長の熱い想いに共感したチームメンバーたちは、新たなプロジェクトを始めました。題して「KAWARA SCAPE PROJECT」。
「KAWARA SCAPE PROJECT」とは、瓦のある風景を守るための中長期プロジェクト。これまでのリサーチの結果を踏まえ、「つたえる」「つくる」の2軸で取り組みました。
これらの取り組みは、どれもチームメンバーの強みを活かしたもの。ホームページの改修や動画制作はプログラマーの塚田さんが手がけ、ベンチとインテリアアイテムの設計は建築士の牛島さんが担当しました。また、インテリアデザイナーの山形さんがインスタグラムでの発信を行い、デザインディレクターの山田さんがチームをまとめ上げます。
「つたえる」「つくる」という取り組みを通して、瓦を身近に感じる機会を生み出すことで、瓦のよさを実感してくれる人が増えると実感した越前セラミカチーム。
最後は石山社長による宣言。
「福井県では、瓦屋根は当たり前の風景です。瓦の風景を守るということは、地域の文化や自然を守るということ。美しくてかけがえのない越前の風景や暮らしがこれからも続くように、瓦を愛していただけるための挑戦をこれからも続けます」
越前セラミカによるエネルギッシュな発表でした。今後の動きにもご注目ください。
各チームの成果発表に対し、講師やゲストからコメントをいただきました。
井上さんは「わくわくしながら発表を聞いていました。外からの人材(チームメンバー)が入ることで、可能性が無限大になりますね」とプロジェクトの効果を評価。また、永田さんからは「半年という短い期間で、社内の課題を丁寧に洗い出し、実践までできたことがすばらしい。デザインはうず巻き状にしか幸せが広がらないので、足元を見直し、まずは隣の人から幸せになる仕組みづくりを始めてみてください」とコメントをいただきました。
以上、4チームによる最終発表でした。
後編では、展示会場とアフタートークの様子をお届けします!
(文:ふるかわともか)
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