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ナノレンガがアワビの貝殻を強くする

アワビに代表される貝殻はその材質に比べて非常に強いことが知られています。

というのも、貝殻を構成する素材は、皆さんもよく知っているチョークと同じ炭酸カルシウムというものです。

そんな脆くてポキッと折れてしまうチョークと同じなのに、どうしてあんなに硬くなるのでしょうか?

それは、貝殻の持つ微細な構造が関係しています。


貝殻は微小なナノレンガでできている

レンガというと、あの茶色い塊が並んでいる様子を想像されると思いますが、イメージとしては同じです。※

実は貝殻は主成分である炭酸カルシウムの一枚岩でできているわけではないんです。貝殻の表面をよく観察すると、とても小さなナノサイズの炭酸カルシウムの塊が層になって、きれいに積み重なっているんです。

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Mesocrystals: structural and morphogenetic aspects

このとき、単に重なっているわけではありません。なぜならレンガでも間にセメントを塗ってくっつけるように、貝殻もナノレンガを接着するための”のり”の役割が必要です。

貝殻は、自らナノレンガを生成するときに、特殊なタンパク質を使ってナノレンガ同士をくっつけます。タンパク質はレンガをつなげる接着剤となり、同時に柔らかいクッションの役割を果たします。

物質の破壊

材料の勉強をしていると破壊力学というものを習います。

その名の通り、物質の破壊についての学問ですが、そんなに難しく考えなくても大丈夫です。細かい話は置いておいて、材料にはひとたび亀裂が入ると、そこを起点に破壊が進みます。

想像してもらったらわかると思いますが、ヒビが入った食器などはそのヒビが進展して壊れてしまいます。チョークもその例の1つです。ヒビを起点に割れて砕け散ってしまいます。

それに対して、貝殻は炭酸カルシウムのナノレンガとタンパク質のクッションが交互に積み重なってできています。そのため、1つのナノレンガが割れたとしてもヒビがクッションで食い止められて進展しません。そのため、衝撃に耐えることができる強い貝殻を実現することができるわけです。

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このように進化の過程で貝が手に入れた材料工学的な強さは私人間が真似するには先を行き過ぎているようにも思えます。

最近、貝殻は生体模倣(バイオミメティクス)の分野では広く取り上げられて、研究が進んでいます。基本的には特殊なタンパク質の機能を解明し、それを使って軽くて丈夫な材料を作ろうという試みです。原材料も二酸化炭素とカルシウムがあればできるので、安価で環境負荷もないという良いことづくめです。


最後に

ちなみに、亀裂(ヒビ)の進展や破壊力学の観点から見ると、物質は1枚岩でできているよりも複雑になっているほうが強いといえます。これは昔からよく知られており、科学者は内部に亀裂の進展を防ぐ機構を導入することで材料の強度を上げました。

例えば内部にカーボンファイバーを入れたCFRPなどはその1つといえるでしょう。最近流行りのこの材料は軽くて強いことから宇宙船や自動車に使うなど、幅広い用途が期待されています。

将来的には、貝殻の機能を使った材料が私たちの身の回りに現れることもありそうですね。


※英語でナノレンガnanobricksというのは頻繁には使われないです。一般的な表現としてはnano building block ナノブロックといったところでしょうか

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