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【お茶の科学】なぜ抹茶は泡立つのか?

みなさんは抹茶好きですか?

日本の伝統と呼べる抹茶ですが、茶菓子を嗜む習慣がある人や茶道に取り組む人を除くと意外と知られていないことが多いはずです。

例えば、なぜ抹茶は泡立つのか?

そんな単純な疑問ですら科学の視点で見るととても奥の深い現象だったりするんです。

今回はそんな抹茶について科学的に見ていきたいと思います。

抹茶とは

日本人なら誰もが一度は聞いたことがありますよね。抹茶のアイスやケーキといったデザートでも有名ですが、その名の通りお茶の一種です。

以前紹介しましたが、抹茶は収穫間に遮光カバーを被せ、カテキンの生成を抑制した茶葉を摘み取ります。その茶葉を乾燥させて茶臼で挽いて粉末にしたものを抹茶と言います。

抹茶が普通のお茶と大きく異なる点というのは、抹茶粉末そのものを食するという点です。もちろんお茶をたてるという作業は必要です。しかし、煎茶や玉露といった他のお茶は茶葉から抽出した液を飲みます。コーヒーと同じ抽出というのが基本ですよね。

一方で抹茶は粉末をお湯で解いて、粉末ごと飲みます。意外ですが、これはお茶として全く異なる飲み方と言えるでしょう。

抽出ではなく茶葉の粉末を摂取することから、水に溶けない不溶性タンパク質、食物繊維、ビタミンA, E, K、クロロフィルなどの栄養素を取ることができます。

抹茶の特徴

抹茶の粒子は5~10μmであり、一粒一粒を目視で観察することはできないほど小さいんです。そしてこのサイズまで小さくなると科学的に面白い現象が少しずつ起き始めるんですね。

抹茶粒子は吸湿・吸臭しやすくなります。これは体積当たりの表面積が大きくなったためとも言えますが、同時に保管に気を付けなければならないことを意味します。また抹茶粉末をお菓子にふりかける際も水分に考慮する必要があります。

また抹茶は退色しやすいため、遮光性のある容器で保管しなければなりません。まるで光反応する化学物質のような扱いですね。

抹茶を点てる

茶道の流派によっては泡立てない方が望ましいこともあるそうですが、やはり抹茶と言えば泡立ったふわっとした感じを想像するのではないでしょうか。泡立つと口当たりがまろやかになり、飲みやすくなると言われています。

さて、この泡立ちが大事な抹茶ですが、どうして泡立つのか考えたことがある人はいますか?

当たり前すぎて、見逃してしまいそうですが、例えば水をかき混ぜても泡はすぐになくなってしまいますよね。洗剤を入れたわけでもないのにどうして抹茶は泡立つのでしょうか?

実は抹茶にはサポニンと呼ばれる界面活性剤と同じ働きを持つ物質が含まれているんです。この界面活性剤とは洗剤に含まれており、泡立ちの原因となります。

抹茶には洗剤が含まれているの?と思われるかもしれませんが、そうではありません。あくまで科学的な性質として泡を形成しやすい物質が含まれているというだけなんです。

このサポニンは抹茶を作る茶葉だけでなく、ヒトデやナマコの仲間にも含まれる配糖体の総称です。つまり、何か特定の物質の名前ではないということです。これは私も初めて知りました。

サポニンは多量に摂取すると毒性があるため、海の生物には要注意ですが、抹茶に含まれるサポニンは健康被害があるような量ではありません。むしろ少量のサポニンは漢方や生薬にも使われるため、薬としての役割も果たします。

抹茶のサポニンは濃度が薄いので全く気にする必要がないということですね。

サポニンは抹茶にちょうどいい渋みや苦みを与えてくれるいいエッセンスとして働いています。

一般的には、このサポニンの界面活性作用が抹茶を泡立てると説明されますが、実はもう少し複雑な現象が起きているようです。

どうやら研究によると水に同程度のサポニンを溶かした液体を抹茶同様にかき混ぜても泡立ちが弱く、すぐに泡が消えてしまったそうです。

つまり、サポニンは少なからず影響を与えているが、私たちが知っている抹茶の泡立ちの全てを説明してくれるわけではないということですね。そこでさらに研究は進められ、サポニンの泡立ちを手助けする役割としてペクチンが関係しているということがわかりました。

このペクチンもまた抹茶に含まれる物質で、液体の粘度を高めて泡が消えにくくなる効果を与えます。

この抹茶に含まれるサポニンとペクチンの相乗効果で泡立ちが継続し、あのまろやかな抹茶を飲むことができるんです。

ちなみに、泡立ちの有無に関わらず、おいしくない抹茶には共通点があります。それは、かき混ぜが弱く、だまが残ってしまっている状態の抹茶です。抹茶粉末は非常に小さいため吸水しやすくたくさんの粒子がくっついただまになりがちです。

最後に

食の科学というのは非常に複雑です。自然科学をとっても物理学・化学・生物学を組み合わせて戦わなければわからない難しい領域です。それでも、いやだからこそ科学の興味をそそられるといっても過言ではありません。

茶道で極められるお点前というのは、この科学的な抹茶の特徴を適切に引き出しておいしさを追求しています。これは科学でなく経験と知見によってなせる業なのかもしれませんが、それを科学的に解き明かしていくというのも現代において非常に面白いと思います。

参考

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jao/46/2/46_121/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1995/39/4/39_254/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsssj1980/12/1/12_1_45/_pdf/-char/ja

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