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秩序と無秩序の狭間~パラクリスタルとは~

みなさんはパラクリスタルという言葉を聞いたことがあるでしょうか

パラクリスタルとググると、準結晶と出てくる記事もありますがそれは間違いです。
準結晶ですら一般的な言葉ではないですが、こちらはquasicrystalといいます。

それではパラクリスタル(paracrystal)とは何なんでしょうか?

パラクリスタルとは

簡単に言ってしまうと結晶(規則)とアモルファス(不規則)の中間の構造です。
結晶は原子が規則正しく並んだもの、アモルファスは原子がバラバラ(不規則)に並んだものです。
パラクリスタルとはその間の構造のものを言い、一見原子が規則的に並んでいるけど、よく見ると乱れているといった物質です。

結晶とは▼

簡単に知る分には、パラクリスタルはちょっと乱れた結晶と思ってくれればいいですが、マニアックな解説としては次のようになります。
厳密には、結晶は実際少し乱れを持っています。ここでの乱れとは、温度(熱)があることによりブルブル震えている熱揺らぎと、構造が持ち合わせている乱れです。おそらく温度のがある限り全ての結晶は必ず熱揺らぎを持っています。このような揺らぎは時間的・空間的に平均化すると正しい中心位置になり揺らぎを無視することができます。

逆に構造上の乱れは平均化しても残ってしまいます。この残ってしまう構造上の乱れをもつ結晶をパラクリスタルと呼びます。
一般的な原子の結晶は構造上の乱れを持たないため、理想的な単結晶であれば、どこまで行っても原子が規則正しく1列に並んでいます。
逆にパラクリスタルは端から1つ1つ原子の位置を見ていくと数百個先の原子はもすでに整列しているとは言えないところにあったりします。

パラクリスタルの模式図

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パラクリスタルの例

パラクリスタルには以下のようなものが挙げられます。

✓高分子結晶
✓コロイド結晶
✓高エントロピー合金

材料分野ではよく知られた物質ですが、一般にはあまり知られていないかもしれません。ここで一言で雰囲気を紹介します。

高分子結晶:鎖状の高分子が周期的に折れ曲がり規則正しく並んだもの
コロイド結晶:原子や分子よりも少し大きな粒子(ナノ粒子・マイクロ粒子)などが規則正しく並んだもの
高エントロピー合金:複数の元素(だいたい5種類以上)が同じぐらいの比率で混ざった合金

いずれも、完璧に規則正しく並ぶことが難しそうな結晶ですね。

何の役に立つのか

パラクリスタルは概念的なものなので、具体的に何に役に立つとかはありません。
例えば、パラクリスタルの枠組みの中にあるコロイド結晶では、コロイド粒子の大きさ(間隔)の違いにより色が変わる新しい発色材料やセンサーなんかに利用されようとしています。

また、乱れることに何の意味があるのかとも思われるかもしれません。きれいに整っているほうがいいだろう!と思う人が多いでしょう。
しかし、きれいに整列していれば、必ずしも良いというわけでもありません。この乱れていることで合金の強度を上げる可能性なども考えられており、これからの研究にも期待できます。


最後に

パラクリスタルはまったく注目されていない用語ですが、個人的には将来性が高い分野だと考えています。
実際、生物などが作る構造は完璧に規則的であることが難しく、たいてい少し乱れた構造を持ちます。
今後、生物を真似した生体模倣技術による結晶(or規則構造)形成が盛んになるころには、このような理論も一般的になるのではないでしょうか


追記:2021/02/05
日本語でパラクリスタルと調べるとこのページが上位に出てくるみたいなので注意点
こちらは初心者向けの表現に徹していますので、学術的に正確な定義は以下の参考文献をご覧ください。


Disorder diffuse scattering of X-rays and neutrons
Frey, F., Boysen, H. and Jagodzinski, H. International Tables for Crystallography (2010). Vol. B, ch. 4.2, pp. 492-539 [ doi:10.1107/97809553602060000774 ]


Hosemannの原著論文
Hosemann, R. & Bagchi, S. N. The interference theory of ideal paracrystals. Acta Crystallogr. 5, 612–614 (1952).
Krimm, S. Direct Analysis of Diffraction by Matter. R. Hosemann and S. N. Bagchi. North-Holland, Amsterdam. Science (80-. ). 142, 568–569 (1963).
Hosemann, R. & Hindeleh, A. M. Structure of Crystalline and Paracrystalline Condensed Matter. Journal of Macromolecular Science, Part B vol. 34 (1995).
Hosemann, R. Molecular and Supramolecular Paracrystalline Structure of Linear Synthetic High Polymers. J. Chem. Educ. 35, 178–186 (1958).
Hosemann, R., Lemm, K. & Wilke, W. The Paracrystal as a Model for Liquid Crystals. Molecular Crystals vol. 2 (1967).


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