ウイルスを使った圧力センシング
ウイルスを調べるセンサーならわかりますが、ウイルス自身がセンサーになるというと少し奇妙ですよね。
しかし、このnoteでもたまに紹介しているように最近の研究では生物や生物に由来する物質(タンパク質・DNA)といったものが私たちの生活に役立つ材料になります。
今回は、その中でもウイルスを使って圧電センサーと呼ばれるものを作った研究を紹介します。
そもそも圧電効果とは
そもそもセンサーの基本原理になる圧電効果とは何でしょうか?
これは、物質の変形を電気に変える効果です。
そういうとあまりなじみの内容に思われますが、身近なところでいうとマイクやスピーカーなどに使われています。
簡単に言うと、スピーカーでは電気信号により素子を変形して、それにより振動を生み出し、私たちの耳に届けるため音となって聞こえます。
逆にマイクでは私たちの出した音により素子が微弱に振動(圧縮)し、そのわずかな変形を電気信号に変えているわけです。
この圧電効果の原理を簡単に紹介すると、圧縮されることによって圧電素子の内部の電気的な偏りが生まれ(分極)、それを電気信号として受け取っているということになります。
こちらのサイトが視覚的に非常にわかりやすいのでおすすめです。
ウイルスを使った圧電素子とは
今回使用されたウイルスはタバコモザイクウイルス(TMV)と呼ばれる物質です。(トップ画)
タバコモザイクウイルスとは、タバコなどの葉に感染して発症するタバコモザイク病の原因となるウイルスです。鎖状・ひも状の形をした長細いウイルスで、一般的には聞きなれませんがウイルス分野ではかなり有名なウイルスなんです。
そして、このウイルスが圧縮によって形が変わることで、ウイルス内部の電気的な偏りが生まれます。これは圧電素子に特有の分極と同様な現象が生じます。
この特徴を利用することで、ウイルスを使ってもセンサーができるんじゃないかと考えたわけですね。
ただ、これを見ると別にウイルスじゃなくても…と思いますが、そんなことは言わずに見ていきましょう。
3層構造でより極力に
単にウイルスを使えば良いといっても、どうやって使えば良いのでしょうか?
ウイルスをただ用意してもセンサーにはなりませんよね。
そこで、このウイルスを基板の上に乗せてデバイスのセンサーとして使えるようにしなければなりません。今回紹介してる研究では、ただ単にウイルスをチップの上に乗せるのではなくて、一工夫入れています。
まず、この研究では基板上にアミノ基やカルボキシル基といった比較的一般的な分子を修飾した薄い膜を作ります。これを自己組織化単分子膜(SAM)と言ったりします。細かいことは置いておきましょう。
とにかく、薄い膜を用意することで、この上に乗せるウイルスとの親和性を高めます。
次に例のウイルスを載せます。図を見るとわかるように結構どばっと乗せるようですね。
最後に、圧電効果を持つ酸化亜鉛ナノ結晶をウイルスの上に析出させます。この単分子層・ウイルス層・酸化亜鉛層を組み合わせることで、非常に感度の強いセンサーを作り上げることができたようです。
とはいえ、こんなにもいろいろ工夫を加えてセンサーを作っているなら、そもそもウイルスは効果的に働いているの?って疑問がわくと思います。
当然、研究チームはその点も確認しており、ウイルスを間に挟んだセンサーとウイルスを入れなかったセンサーを比較して、確かにウイルスが入っていた方が感度(強度)が向上することを確かめました。
最後に
今回は、ウイルスを使った新しいタイプのセンサーの紹介をしました。生物や生物由来材料を使ったモノづくりというのはまだまだあまり知られてはいませんが、これからもっと伸びる分野だと思います。
今後も注目してリサーチしていきたいですね。
また、これまで無料で読めるACS Omegaというジャーナルから論文を探していましたが、よく考えたらサイレポも無料だったなと思って、今回はScientific Reportsから参考文献を選んでみました。要約してしまうとあんまり違いもわからないですね。
参考文献
Piezoelectric Templates –New Views on Biomineralization and Biomimetics